暗闇の中から

佐々木 煤

三題噺 「晴れ」「魔物」「写真」

 一匹の小さな魔物は考えた。明るい場所で写真を見るにはどうすればいいのだろうと。


 魔物は生まれてからずっと洞窟の中で暮らしていた。昔は大きな魔物が世話をしてくれたが、今はもういない。岩から滴る水をすすり、コウモリを食べて暮らしている。


 大きな魔物がかつていた時、食料を貰うために村に出ていっていた。たまにおもちゃを持って帰ってくることもあった。ついに村へ出る道は教えてくれなかったけど、残していってくれたものはたくさんある。カメラはそのひとつだ。四角い箱で、でっぱりを押すと光って、一枚の紙ができる。暗いから魔物達の姿は映らなかったけど、大きな魔物にカメラを向けると微笑むような雰囲気を出してくれたのを覚えている。


 小さな魔物は、大きな魔物がいなくなってからしばらくは呑気に暮らしていた。けれど1人でいるのに慣れなくなって、どうしても会いたくなったのだ。せめて、写真に写った姿だけでも見れないものか。魔物は明るい場所を求めて、住処を飛び出した。


 ごつごつした岩の壁がずっと続いている。時折聞こえる水が滴る音がする。見慣れた暗い洞窟の中をずっと行くと、次第に狭く天井が低くなってきた。かすかに光が差し込むのが遠くに見える。近づくと木のドアがあった。そこから先が外のようだ。


 「マリ、早く早く!」

 「走ると危ないよ!だってここは…」


 初めて、大きな魔物以外の声を聞いた。勇気を出してドアを開ける。たくさんの光が目に入ってきた。外は柔らかな晴れの日差しとそよ風が吹いていて、洞窟の中とは大違いだ。


 「嫌ぁー!!!」

 「お父さん!魔女が出た!!」


 誰かが悲鳴を挙げている。魔物は目がくらんで立ち尽くしていた。


 ダンッ!!


 魔物の体が熱くなって、何かに押されたように倒れた。何が起きたかわからなかったが、光に慣れた目で、持ってきた写真を見る。そこには、白髪の女性と同じく白髪の少女がいた。暗い中で2人は笑っていた。

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暗闇の中から 佐々木 煤 @sususasa15

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