大学

 大学生からは一人暮らしを始めるつもりだった湊斗は、親に相談を持ち掛ける。


 だが、湊斗のを見ていた両親が首を縦に振るわけもなく、実家から大学に通うこととなった。


 そして夢が死んでから、約2年の月日が過ぎていった――。


「なぁ、来週の土日のどっちかさ。皆でキャンプでも行かね?」


「いいねそれ! 湊斗くんももちろん行くでしょ?」


 大学に入ってからは、湊斗は人に囲まれるようになった。


 自分からは語らず聞き手に回ることが多い。だがその絡みやすい雰囲気と頭の良さから、人から頼られることも多かったのだ。


 来週の土曜日は、たしか夢の誕生日命日


 夢のお墓に行きたいし、申し訳ないけど断らなくちゃいけない。



『もし私と離れ離れになっても、湊斗の好きにしてね』



 昔夢に言われた言葉が、リンと頭に響く。


 死ぬことを予感していたように、突然言われたためよく覚えていた。


 ずっと昔にしがみついてても、きっと怒られちゃうよな。


 返事のない湊斗に、隣を歩いていた女子大生が心配そうな表情で顔を覗き込む。


「湊斗くん? 大丈夫?」


「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてただけ。もちろん行くよ」


「やった! じゃあメンバーのグループ作っとくね」


 彼女はルンルンな足どりで前を歩く女子や男子に声をかけ始めた。


 その様子を見ていたキャンプを提案した男子が、露骨にこちらを見てため息を吐く。


「お前いいよなぁ。あの子実は人気高いんだぜ?」


「なんの話?」


「やっぱお前はそうだよな。俺らみたいな非モテ野郎の気持ちなぞわかるわけないわ」


「ああ、そういう話か。俺は別にモテてるわけでもないし、昔のこと引きずってるだけのダサい奴だよ」


 湊斗がそう自嘲的に呟くと、彼は食い気味に話を深掘りしてくる。


「お前好きな人いたのかよ!? てっきりモテても恋愛興味ありませんって奴かと思ってたわ」


「だからモテてもないし、恋愛に興味がないわけでもない。ただ、彼女が忘れられないだけだ」


「へぇ、まさかそんな惚れてる女がいたとはね〜。で、どんな別れ方したんだよ?」


「……言わない」


「えーケチ! なら写真あるか? お前の元カノとか絶対可愛いじゃん」


「見せないし教えない。……可愛いのは本当だけど」


「うわ、惚気かよ。人の惚気に付き合えるほど俺余裕ねぇわ」


 彼は冷めたと言わんばかりに湊斗から離れていき、先程の女子のところに駆けていった。


 湊斗は静かに俯き、ぽつりと呟く。


「ハハッ、本当ダッセー。全然切り替えられてないじゃんかよ……」

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【休載中】最後の夏は真夜中に 天羽ロウ @tenba210

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