第2話 心の隙間
「ふぅー」
他人の家の風呂だが自分の風呂のように落ち着く。まぁ風呂だからか。
今日この家に来る間私たちは2人とも無言だった。
私は学校では陽キャの方で休み時間とか何かあれば授業中にも喋ることがあるので黙っている時よりは喋っているほうが落ち着くし高校に入るまでもずっとそうだった。
なのに。
私はあの2人で無言だった時間が今までで1番と言ってもいいほど落ち着いた空間だった。
自分の気持ちに衝撃を受けた。
あんな何もない空間が心地よかったのは私が生きてきた人生を自分で否定したようで気持ち悪かった。
そんなことを考えている間にのぼせてしましそうだからそろそろ上がる。
バスタオルも用意され着替えもある。
リビングからはテレビの音がするからリビングにいるのだろう。
名前は知らないが苗字は御子神と言うらしい。
家に入る時に表札を見たから分かる。
御子神の家は妙に落ち着く。
なんでだろう。慣れ親しんだような家だ。
髪を乾かし用意された服を着てリビングに向かう。
名前呼んでみようかな。
「御子神」
「〜〜〜」
「寝てるの?御子神。」
「〜〜〜」
「御子神か。」
「何?」
「わっ起きてるじゃん。」
「黒羽さんのせいで起きたね。」
「私のせい?」
「そうだね。それとなんで私の苗字知ってるの?」
「表札見たからね。」
「なるほどね。」
「そんなことより風呂と着替えありがとう。」
「うん。」
また無言。何か喋らなきゃと思う。でも言葉が出てこない。こんなことやっぱり初めてだ。
「どうやって帰るの?黒羽さん。」
「終電かな。」
「え?」
「え?」
「電車?」
「電車だよ?なんで?」
「じゃあできるだけ早く帰らないとだね。」
「うーん。いいよ別に帰らなくて。別に帰りを待ってないだろうから。」
「そうなんだ。」
「うん。」
「制服乾いたら送っていくね。」
「ありがと。」
数時間後。その間ほとんど会話は無かった。少しだけの会話はあったが電車の会話以降の会話はあんなに長く続かなかった。
制服が乾いて着替える。御子神と同じ匂いがする。服からも。髪からも。私の全てから。
なぜこんなにも御子神のことを思っている?
分からない。
でも御子神といれば落ち着く。
家を出る。
御子神はさっきとは違い自転車を持ってきていない。
「御子神、自転車は?」
「持ってきてないけど?」
「なんで?」
「邪魔じゃん。黒羽さんと歩くのに。」
まぁそうか。でも帰りはどうするのだろう。まぁでも私には関係ないか。
そんなこんなで駅に着く。
もう時間は10時が近い。
「御子神、後は自分で行くから。いつもの道だし。」
「分かった。気をつけてね。」
「うん。」
ほんとに会話が少なかった。でもこんな会話でも楽しかった。幸せだった。もう少しだけ会話を続けたいと思ってしまった自分が何故か悔しい。
あっそういえば。
「御子神。」
「何?」
「今日はありがとうね。また学校でね。
バイバイ。」
「うん。バイバイ。」
元気に手を振った。友達とも捉えてない。捉えられてない御子神に。どんな顔で手を振ったのかは分からない。怖い。どんな顔をしたのか。
そんなことを思いながらいつもの場所で時間が違う切符を買い電車に乗る。
妙に疲れた。
家の玄関を開ける。何も音はしない。寝ているのだろう。私は制服を脱ぎパジャマに着替えベットに横たわる。
ダメだ。もう寝よう。
そう思い深い深い眠りに落ちる。
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