第1話 あなたの正体
ん?この人って、、、
私には絶対に関係がないと思っていた。
「何してるの?」
なんて聞くんじゃなかった。
でも私はこんなふうに思うことを知っていたのに声を掛けた。
それはただ単に黒羽さんとは気づかなかったからだ。
私が声を掛けた時の「目」
あまりにも力がなく全てに絶望しているかのような目。それだけのことを私に一瞬で悟らせるような目をしていたくせに私を引き込んだ。
でも、私は後悔している。だから今からでも声を掛けたことを無かったことにしようとしている。
「あーなんかごめん」
なんの事情があってあんな風に落ち込んでいたのかは分からないからとりあえず謝っておこう。
よし。これでいい。帰ろう。
黒羽さんを背にし自分の家まで歩き始めようとした時、、、
「ちょっとまってよ。」
私は引き留められたことに驚きと恐怖を感じながら振り向いた。
「何?」
「、、」
なんだ?何を言いたいんだろうか。私には友達が居ないから分からない。まぁそれは私が望んでいることだからそれでいい。
もう一度黒羽さんを見る。黒羽さんの目はいつも学校で見る時のような目に戻っていて少しだけ安心する。
でも何故か私の中で
「ここで見過ごしてはいけない。」
そんな私が生きてきた中で絶対に、持つはずの無い感情があり、とても気持ちが悪い。
でも同時に興味が湧いてしまった。
黒羽さんは私を引き留めた。まず嫌ってはいないのだろう。
だから言ってみる。
「家くる? 」
「、、え?」
流石に無理か。動揺が目に見える。まぁこれで無理なら別にいいやと思っていたので別になんとも思わないがさっき、思いがけない行動をしてきた。だからもしかしたら乗ってくれるかもしれない。
少し怖いな。
思いがけないことを言ってくるのはこんなにも怖いことなのか。人生で1番気持ち悪い感情を抱いている気がする。
「うん。いいの?」
「う、、うん。」
「なんで自分で誘っておいてそんなに戸惑ってるの?」
「いや、だって来るって言うとは思わないじゃん。」
「誘ったのはそっちなのに?」
「いや、うん。じゃあ行こうか。」
「うん。」
ほら。思いがけない意味のわからないことを言ってきた。
何が「自分で誘ったのに?」だ。
私とは関わる人間では無いのに交わることない人生を歩んでいるのにそこで近寄って来ないで欲しい。
でも関わろうと交わろうとしたのは私の方だ。
近寄ろうとしたのも私。
でも私が歩み寄ったからとて黒羽さんもこちらにくるとは思わなかった。
でも今回はもう仕方のない事だ。
行こう。家に。
私達は2人して傘をさして歩く。
自転車を押しながら。
歩きではもちろん自転車よりも時間がかかる。
だからもちろんいつもより時間が長いしそれよりも感覚としては長い。
私が誘ったから私から話を振らなければいけないのだろうが住む次元が違う黒羽さんとなんて話す内容が見つからない。黒羽さんの顔を見ると真っ直ぐ前を見つめて私の横を歩いている。
少しの気まづさと不安があったがこの静かな2人の世界を勝手に私は心地よい世界と捉えていた。
ガチャ
「お邪魔します。」
家の中からは誰の声も返ってこない。
まぁ両親はいないから。
「親は?」
「共働きだからこの時間帯はいないよ。」
「そうなんだ。」
傘をさしていなかったからか制服も髪もびしょびしょなので
「ちょっと待ってて。」
洗面所に足を運ぶ。タオルをとり渡す。
「これで拭いてリビングに行ってていいよ。そこの扉の奥だから。」
「わかった。ありがと。」
「お風呂溜めてくるね。」
「そこまでしなくても大丈夫だよ?」
「いや、風邪ひいたらダメだし。」
「そうだけど、人の家のお風呂までは、」
また自分がしようとしている行為に関して否定的なことを言ってきそうだったので話の途中でお風呂場の方に体を向け歩き出す。
「ちょっと。」
呼び止められたがもう振り返らない。
お風呂を少し流し溜め出す。
自分も濡れていたので少しだけ自分のことも済ませリビングに向かう。
一応玄関を確認したがもうそこには靴しか無く黒羽さんの姿は無かったのでリビングに向かったのだろうと思い安心する。
私もリビングの扉を開けると床に座っている黒羽さんがいる。
「ソファ座りな?」
「いや私はいいよ。」
「また気遣ってるの?」
「まぁそんなとこかな。」
さっき会話を私が遮ったから怒っているのか?
なんて思いつつソファに座る。
沈黙が続く。あまりの気まづさにテレビをつける。
あまり面白い番組はやっていなかったので笑いもない。まぁ夕方だから仕方ないだろう。
この気まづさから顔を見ることが出来ない。
これで黒羽さんが自分が思い描いているのとは違う顔をしていると思うと怖くて仕方ないのだ。
実際の所黒羽さんがどういう顔で、どういう気持ちで今ここに居るのかは気になっていることだがそれを聞く勇気もないし聞いていい権利なんて生憎持ち合わせてはいない。
そうこうしているうちにお風呂が溜まった合図の音が鳴る。
「黒羽さん。お風呂溜まったからどうぞ。」
「ありがとう。」
ここで初めて見ることが出来た。相変わらず綺麗な顔というのが1番に出てくるが自分が思い描いていたいつも通りの顔だったので安心する。
お風呂に案内しシャンプーやコンディショナーなど使うべきものの位置などを教え脱衣所を出る。
そして私はまたリビングに戻りテレビを見る。
さっきと同じ番組を見ているはずなのに初めて見る番組のように違う内容を見ている気がする。さっきは内容が頭に入ってきていなかったのだろう。
いつも通りソファに横たわる。
いつもとは慣れないことをしたから疲れが溜まっていたのだろう。
私はソファで浅いとも深いとも言えない不安定な位置にある眠りに体を落とした。
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