第4話 直線の輪廻にて
ベッドタウンとしての機能を持つセルフィア州は、昼間であれば交通量が少なく仕事場としては最適な環境だ。俺は路肩に停車してエンジンを温めながら、今回の標的を辿る経路を描いていた。
「駐車禁止の標識が見えないもんかね、お兄さん?」
立派な帽子を深く被った警察官の男は俺が指定した時刻を遵守して、開け放たれている前席窓から顔を覗かせてきた。
「前置きはいい。今回はアンデ通りを封鎖しておけ。駄賃は№8の身柄で前払いしてるだろ」
「いやいや、様式美ってのは大切にしたいじゃん?」
「俺を手間取らせるなよ。あと5分もしない内に始めるぞ、とっとと配置につけ」
「つってもさぁ————」
「あのチャイナ野郎を屠りたいのは俺だけか?№1の名に恥じぬ献身ぶりで組織に食い潰されてる姉貴に合わす面が、それでいいのかよ」
俺が使命を再確認させると警察官は軽口を分かり易く喉元に留める。そして、違反切符を俺に寄越すと一つ敬礼をし、奥の路地に停められたパトカーへと乗り込んで目的地へと発進した。
「なるほど、いい発破じゃないの。要は俺について来いって意味だね?」
「違う。逃避すんなって意味のだ。俺自身にも」
「あれ、私のことを全否定するつもりなんだ?今から存分にこき使おうって相手に臍曲げられても知らないよ。どこかしらの、誰かしらのエンジンは冷え切ってしまったみたいだ」
少女が助手席で空を仰ぎ不貞腐れると、車の背後には百鬼夜行を暗示する靄が発生し始めていた。
「俺一人じゃあ逃避行は始められないんだ」
「そのための私だしね」
「それは俺もわかってる」
「となれば当然私もわかってる。じゃあ、始めようか——」
輪廻は巡らない。なぜならば、螺旋でなく直線であるからだ。その直上に俺はいる。ガシャ髑髏を振り切り最果てにある母の墓前に父の骸を供える日まで、俺の逃避行は続いていく。
螺旋経路の直線輪廻 暁 至 @akiraitaru
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