終 話 農村殲滅戦

 夜。

 灰色の雲が空を覆い星々の輝きを隠す。

 風が吹く。

 生ぬるく体に纏わりつくような風。

 不穏極まりない一夜とて、人々の営みは日々と変わらない。

 今日までは。

 あれから丸三年。

 時は来た。


 冒険者を含め捕らえた女たちを使って、今や手勢の鬼畜ゴブリンは100匹を超える。しかもただ数を増やしただけではない。簡素な手製とは言えそれなりに武器と呼べるほどには洗練された槍や弓を持たせ、訓練を施した云わば鬼畜兵士ゴブリンソルジャー

 スカーは己が手勢を三つに分けた。

 村の右側から鬼畜戦士ゴブリンウォリアーが率いる40匹。

 同じく左側から鬼畜狂戦士ゴブリンバーサーカーが率いる40匹。

 それぞれが扇状に展開して村を取り囲んでいる。

 そして群れの中で腕の立つ鬼畜ゴブリンを選びスカー直属の近衛団とした30匹余が、少し距離を置いて村の入口正面。

 すべてが万事整った。あとは蹂躙するのみ。


 あの日。

 見知らぬこの世界で初めて出会ったヒューマンが住まう農村。

 もはや顔も覚えておらず、例え目の前で見たとしても思い出さないだろう。

 だから?

 そんなことはもうどうでもいい。この村は殲滅すると決めていたのだ。


 女魔法使いが持っていた魔導書を写眼で読むことにより、魔法の知識も得た。また実際に術を使わせることで女魔法使いのすべての術を写した。精霊使いでもあった女エルフも同様にして、精霊術も会得した。


「FUUUUUUU」


 開始の合図としての初手はスカー自らが行うと決めていた。

 自身の内にある魔言の石はすでにスカーと一体化している。丹田に意識を集中すると核となった魔言の石を感じる。

 膨大な魔力M Pに意識を集中する。

 魔法の威力に関する概念は二つ。術の構成要素と呪文に込める魔力の質と量。つまり同じ魔法であっても魔力量によって威力が異なる。


 スカーは浮遊フロートの魔法で村を見下ろす高さまで上昇した。

 そして。


炸裂火炎弾ファイアーボム


 村の中央へ向けて魔法を撃ち込む。

 地に接触した炎の砲弾は周りを巻き込むように爆散した。と、同時に村を取り囲んだ鬼畜ゴブリンたちが一斉にときを上げる。

 

「サァ、宴ノハジマリダ」


 その日の虐殺が、後に鬼畜の覇王ゴブリンロードと呼ばれる鬼畜ゴブリンの初陣となった。



               ――了――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゴブリンプレイヤー 維 黎 @yuirei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ