死者との結婚(その6)
昨夜と同じ時間帯に、可不可をオンボロ車に乗せて歌舞伎町へ向かった。
同じ駐車場に車を入れ、同じファミレスに入った。
やはりまばらにしか客はいなかった。
左奥の席に座った。
可不可はうまく椅子の下に潜り込んだ。
デジタル端末でオーダーすると、しばらくして年老いたウエイトレスがカフェラテを持ってきた。
昨夜、このウエイトレスを見かけたか定かではなかったが、
「昨日のこの時間に、この席でえんじ色のベレー帽に白いハイネックセーターの女学生と金髪の若いお兄さんが座っていたのを覚えていませんか?」
とたずねると、
「さあ」
とウエイトレスは小首を傾げた。
「昨日のこの時間は出勤でした?」
「ええ」
と答えたウエイトレスは、そのまま退いたが、しばらくしてもどり、
「もうひとりに聞いてみましたが、やはり憶えていないそうです。お客さんは引きも切らずですからね」
と申し訳なさそうにいった。
ファミレスを出てすぐ左に折れ、料理屋や風俗の店などが立ち並ぶ通りを歩き、小さな十字路に立った。
「このビルの角を曲がろうとした金髪のスカウトマンがいきなり倒れた。左の脇腹を刺されたので、犯人はこのビルの陰に隠れて待ち伏せていたにちがいない」
屈んで可不可に話しかけるシーンを通行人が見たら、頭のおかしなやつがぶつぶつ独り言を言っていると思うにちがいない。
角は雑居ビルで、1階は居酒屋の背中側になっていて上の方に小さな窓が並んでいた。
その手前隣は風俗やキャバクラが上下にびっしり詰まった雑居ビルだった。
派手なネオンのアーチのエントランスの前で、ビラを配って客引きをする大きなからだの黒人に、
「きのうもここにいた?」
とたずねると、
「いたよ」
通行人を目で追いながらぶっきらぼうに答えた。
「きのうのこの時間に、この先の角で金髪のスカウトマンが刺されたけど、知ってる?」
「いや」
「よく見かける男かね?」
「いや」
それから先は、何を聞いても、「いや」と答えるばかりで、終いには蠅でも追い払うような仕草をしたので退散するしかなかった。
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