第11話 特製フライパン完成

 角ウサギの変異種である赤い角ウサギ3体を相手に、メイはフライパン二刀流で見事に勝利しました。


「赤い三連星のチョットストリームトツゲキは、連携が課題ね。今のままでは迷宮伝説の名が泣くわ」

「なんか技の名前が変わってない?」


「でも、あの程度では、迷宮伝説とは言えないわね。本当に迷宮伝説なら、私はもっとピンチに陥っていたはずよ」

「迷宮伝説なんて噂話だよ?」


「赤い三連星、残念だけど、まだまだ迷宮伝説として語られるレベルには届きそうにないわね」

「やれやれ、メイの中では迷宮伝説って、どういう存在なんだろうね」


 相も変わらず、メイはイナリの話を聞かずに、迷宮伝説をあらぬ方向へと迷走させていくのでした。


 そんなメイを見て、隙ありとでも思ったのでしょうか、普通の角ウサギ達が寄って来て、次々と突撃ジャンプを仕掛けてきました。


「あら? ウサギたちが活発になったわ。赤い三連星が消えて、通常運転に戻ったのかしら。ふふっ、この勢いなら狩り場を変えなくてもよさそうね」


 メイは、突撃ジャンプで飛び掛かって来る角ウサギを次々とフライパンで倒してゆきながら、嬉しそうに微笑むのでした。



 ピンポーン♪


「あら? 品質が上がったみたいだわ。予想より早かったわね」

「赤い角ウサギを倒したからだよ」


「なるほど、伝説にはなれなくとも、そこそこ強かったということね」

「角ウサギの変異種だからね」


 メイとイナリが話しているように、強い魔物を倒した方が品質向上は捗るのです。

 腕輪のチャイムが鳴り、メイが画面を確認すると、フライパンは2つとも高品質となっていました。


「それじゃぁ、最後の仕上げね。イナリ、手伝ってちょうだい」

「もちろんだよ。それそれっ!」


「ハイ! ハイ!」

 パキッ! パキッ!


 メイとイナリはフライパンを最高品質へと品質を向上させるため、魔石割りを始めました。


 イナリは、掻き集めていた角ウサギの魔石を次々とメイの前へと放り投げ、それをメイがフライパンで割ってゆきます。


 そんな作業の間にも、角ウサギ達が容赦なく突撃してきますが、メイは器用に魔石割りの合間を縫って、襲い来る角ウサギ達を倒してしまいます。


 鉄の特製フライパンはともかく、フラパン合金の特製フライパンは、材料変更数回に魔法コーティングを施しただけあって時間が掛かりましたが、なんとか最高品質へと品質を向上させることができました。


「やったわ! フラフラパンの完成よ!!」

「やっぱり、その名前なんだね……」


「ふふっ、さぁ、帰りましょうか」

「いつの間にやら、角ウサギがほとんど出てこなくなったね」


「フラフラパンが完成したから、しばらく出てこなくても構わないわ」

「もう、メイは自分勝手だよね」


 メイはイナリを連れて、鼻歌交じりで帰路につくのでした。



 そんな帰り道、ダンジョンの入口付近で、完全武装した気合の入った団体とすれ違うこととなりました。


 メイとイナリは、近くにいた少人数パーティーのハンター達に紛れるように、壁際に寄って、完全武装団体を見送るようです。


「あれって1級ハンターチームじゃないか?」

「その後ろに続くのは、2級ハンターチームだよ」


「上級ハンターチームが、何チームもいるみたいだけど、いったい何なんだ?」

「例のハンターギルドからの指名依頼だろうな」


 メイの周りにいるハンター達が、完全武装団体を見送りながら、ひそひそと小声で話している声が聞こえてきます。


「なんでも、魔物の異常発生が起きているらしいぞ」

「俺も聞いたぜ。ダンジョンの一角で角ウサギが大量発生しているらしいな」


 ひそひそ話を耳にしていたメイは、突然ギクリと体を強張らせると、頬を引き攣らせてしまいました。


「なんでも異常発生している角ウサギの中に、紅彗星が現れたっていう話だぜ」

「何だと! あの迷宮伝説のか?」


「ああ、1級ハンターの連中が、伝説を拝めるとあって、随分と気合を入れてたっていう話だぜ」

「そりゃ、すげえな」


 メイの額から、大粒の汗がダラダラと流れ落ちてきました。

 そして、メイは、少々引き攣った笑顔を張り付けたまま、そそくさと足早にダンジョンを立ち去るのでした。


「なんか、大ごとになってるみたいだね」

「な、な、なんのことかしら?」


 周りに誰もいなくなったところで、イナリが話しかけてきましたが、メイは引き攣った笑顔のまま、ちょっと上ずった声を返します。


「角ウサギが異常発生してたよね」

「こ、これから退治しに行くらしいわね」


「あの赤い角ウサギって、噂の紅彗星だったんじゃない?」

「き、気のせいよ。あれは、そう、赤い三連星よ。べ、紅彗星じゃなかったわ」


「さっきの人達、異常発生した角ウサギ達がいなくて、ビックリするよね」

「だ、大丈夫よ。ほら、1級や2級のハンター達の集団でしょ。ダンジョンのずっと奥深くに向かうはずよ。そうよ、きっとそうだわ」


「ハンターギルドも大騒ぎになるんじゃないかなぁ」

「し、しばらく、ギルドには近寄らない方がいいわね。ダンジョンに入るのも遠慮しておこうかしら……」


 こうしてメイは、しばらくハンターギルドとダンジョンには近寄らないようにと心に決めるのでした。

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