第10話 迷宮伝説
メイはダンジョンのとあるエリアで、突如現れた赤いウサギと対峙するのでした。
「噂の紅彗星のお出ましかしら?」
「それって、迷宮伝説だよ?」
「あの伝説は、やはり本当だったということよ!」
「色だけで伝説とは違うかもしれないよ?」
「でも、あのウサギ、他のウサギよりも遥かに高速で突撃してきたわよ。やっぱり紅彗星じゃないかしら?」
メイの言う、紅彗星とは、迷宮伝説と呼ばれる都市伝説的なダンジョンの真偽不明な噂話の1つです。
なんでも、ダンジョンの魔物の間で、ごく稀に全身真っ赤な体をした変異種が生まれるといい、その見た目と素早さから、紅彗星と呼ばれているという伝説です。
その紅彗星は、通常の魔物の3倍の速さを持ち、2倍のパワーを供える驚異的な上位個体種であり、ハンターの間で恐れられる存在なのだといわれています。
「いや、待って、あれは、紅彗星じゃないわ!」
「どうしたの? 急に」
「よく見れば、赤い角ウサギが3体いるわ。私達、囲まれているのよ」
「紅彗星が3体だよね?」
「いいえ、あれは、三位一体の赤い三連星よ!!」
「なんか新しい迷宮伝説が生まれたみたいだね」
お馬鹿な話をしている間に、メイとイナリは、3体の赤い角ウサギに囲まれてしまっていました。不思議と、ほかの普通の角ウサギは襲ってきませんが、遠目に様子を見ているようです。
赤い角ウサギ達は、メイとイナリを取り囲んだまま、反時計回りに回るようにぴょんぴょんと移動を始めました。
「赤い三連星が動き出したわ。ジェットタイフーンアタックのフォーメーションよ」
「なんか適当な言葉をそれっぽく並べてるだけだよね。ぼくも戦おうか?」
「ふふっ、大丈夫よ。けど、危なくなったらよろしくね」
「わかったよ」
メイは、ちょっとテンションが上がっているようすで、イナリのサポートを断り、1人で赤い三連星の相手をするつもりのようです。
メイは相手の様子を目で追いながら、フライパン二刀流の構えのまま、ぐっとフライパンを握りしめます。
「来たわ!」
メイの正面、11時の方角から突撃を掛けて来る赤い角ウサギを見て、メイが叫びました。メイの死角となる4時と7時の方角からも赤い角ウサギが同時に突撃を仕掛けています。
メイが、正面の赤い角ウサギに向かって駆け出すと、そのウサギは、狙いを澄まして突撃ジャンプを敢行しました。
メイが、正面から来る赤いウサギの突撃攻撃の射線を読んで、左へひらりと身を躱しながらくるりと振り返ると、死角から突撃ジャンプを掛けて来る2体の赤い角ウサギが視界に入ります。
先ほどの赤い角ウサギがメイの背後から左脇を通過したあと、メイは左斜めから来る赤い角ウサギを左のフライパンで軽く捌き、右斜めから来る赤い角ウサギの頭上から、右手のフライパンを強烈に叩きつけました。
頭からフライパンを叩きつけられた赤い角ウサギは、勢いよく地面へと叩き落とされて、大きくバウンドしました。
ほかの2体の赤い角ウサギがメイから遠ざかる中、メイは、バウンドした赤い角ウサギへテニスのスマッシュを打つようにフライパンを叩き込みました。
フライパンスマッシュを打ち込まれた赤い角ウサギは、ボフンと光の粒となり、魔石を落としてフライパンに吸い込まれるように消えてゆきます。
「1体撃破!」
メイは気合の乗った声を出すとともに、腰を落としてフライパン二刀流の構えを取ります。
残り2体の赤い角ウサギは、ぴょんぴょんと寄り集まると、2体同時にメイへと向かって跳ねてきました。
2体の赤い角ウサギは、メイを翻弄するかのように、右に左にぴょんぴょん跳ねつつ前へ後ろへと体を入れ替えながら迫ってきて、頃合いを見て赤い角ウサギの1体が突撃ジャンプを仕掛けてきました。
メイは右のフライパンで突撃してきた赤い角ウサギを叩き落とすと、陰からもう1体の赤い角ウサギがメイの胴体を貫こうと飛び込んで来ていました。
「甘いわね、ウサギさん!」
メイは、左手のフライパンでしっかりとボディをガードしていて、お腹に突撃してきた赤い角ウサギを頭上へと跳ね上げました。
すかさず、メイは、先ほど叩き落としてバウンドした赤い角ウサギへと強烈なフライパンスマッシュを叩き込んで2体目を倒しました。
「2体目撃破!!」
そして、メイは、宙へ跳ね上げられ、ジタバタする3体目の赤い角ウサギめがけてジャンプすると、強烈なフライパンスマッシュを叩き込みました。
「よし! 3体目も撃破よ!!!」
綺麗に着地したメイは、ボフンと光の粒となった最後の赤い角ウサギを前に、嬉しそうにガッツポーズをするのでした。
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