第7話 材料選び

「う~ん、やっぱり重さは変わらないわよねぇ……」


 子ぎつね印の鍛冶屋さんへ帰って来たメイは、仕上げた最高品質のフライパンと、試作で作ったフライパンを両手に持って、重さを比べてみました。


 取っての取り付け部分を改良した点を除けば、フライパンの重量が変わる道理はありません。品質を向上させたからといって、重さは変わらないのです。


「やっぱり、材質が違うのよね。見せて貰ったフライパンは、なんか鉄っぽくなかった気がするわ」

「別の材質にするつもりかい?」


「そうした方がいいと思うんだけど、材料ってたくさんあるのよね。どれがフライパンに適しているのかわからないわ」

「ミゲルさんの理想のフライパンって、どんなフライパンだったのか、打ち合わせた内容を思い出してみたらどうかな?」


「そうね、一度書き出して整理してみましょう。なにかヒントが得られるかもしれないわ」

「がんばれー」


 メイは、ミゲルと打ち合わせた内容を思い起こしながら、理想のフライパンについて紙に書き出してゆきました。そして、書き出した内容から、理想のフライパンに必要な条件を考えてみました。


「う~ん、だいたいこんなところかしら」

「どれどれ?」


 メイの中では、ある程度まとまったようです。メイの書き出したメモには次のように書かれていました。


 <理想のフライパン>

 ・料理に合ったフライパンの大きさと形状

 ・フライパンの熱が、料理に伝わりやすいこと

 ・フライパンにある程度の熱を溜め込んでおけること

 ・焦げ付きにくく、汚れが落ちやすいこと


「このうち、フライパンの大きさと形状は、試作品を作って確認してあるから大丈夫よね。それから、焦げ付きにくくするのは、魔法のコーティングをすれば、たぶん問題ないはずよ。そうすると、あとは熱が伝わりやすいことと熱を溜め込んでおけることの2つが重要なのよね」


「溜め込める熱は、ある程度フライパンの大きさで決まるって、ミゲルさんが言ってたよね」


「そうね。大きくて重い方が、たくさん熱を溜められるけど、重過ぎると料理をするのが大変だから、その辺りのバランスが大事だって言ってたわ」


 メイは、イナリと話すことで、さらに頭の中が整理されてきたようです。メイは改めてメモを見つめてから、大きく1つ頷きました。


「材質を変えるなら、鉄よりも熱が伝わりやすいことが最も重要ね。そして鉄よりも熱を溜められる材料ならば完璧よ」

「それじゃぁ、腕輪の画面から、適した材料を探してみようよ」


「あー、材料一覧から調べるのね。材料って、いろいろあり過ぎて気が重いわ」

「検索機能を使えば、絞り込めるよ」


「あら? そんな機能あったの?」

「あるよ。使い方を教えるから、画面を開いてよ」

「分かったわ」


 材料に必要な性質を整理したメイは、腕輪に記録されている材料一覧から、フライパンに適した材料を調べることにしました。


 メイの持つ職人の腕輪には、メイが過去に扱ったことのある材料のデータが記録されているのです。


 しかしながら、メイは材料検索機能については知らなかったようで、師匠のイナリに教えてもらいながら、目的の材料を絞り込んでゆきました。


「検索ってすごいわ。こんな機能があるなんて、まるで狐につままれた気分だわ」

「こうかい?」

「いたたたた……、夢じゃないようね」


 メイは、イナリにほっぺたをつままれて、現実なのだと確信するのでした。


 それからメイは、検索によって絞り込まれた材料について、その詳細情報を読み込んでゆき、どの材料が最適なのか調べてゆきました。


「フラパン合金……、これだわ! 熱伝導性に優れていて、熱容量も若干鉄より大きい材料よ。名前もどこかしらフライパンに似た響きだわ」

「メイ、材料の名前は関係ないと思うよ」


「フラパン合金製のフライパン。略してフラフラパンね。これは究極のフライパンとなるはずよ」

「そのネーミングはちょっとどうかと思うよ」


 良い材料を探し当てたメイは、鼻息荒く、究極のフライパンになることを確信して目をキラキラ輝かせていました。


 ちなみに、熱伝導性とは、熱の伝わりやすさを表す性質で、優れているほど熱が伝わりやす材料ということになり、熱容量とは、熱を溜められる量で、大きい方がよりたくさん熱を溜められる材料ということになります。


「さっそく行くわよ、イナリ。フラフラパンを爆誕させるのよ!」

「ネーミングはともかく、ダンジョンの鉱物エリアへ行くんだね」


 こうして、メイとイナリは、究極のフライパン作りのため、ダンジョンの鉱物エリアへと向かうのでした。

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