第6話 製作開始

 翌日、メイは朝から鍛冶場へ入りました。実に張り切った顔をしていて気合も十分なようです。


「さぁ、特製フライパンを作るわよ。イナリ、手伝ってちょうだい」

「もちろんだよ」


 メイは、鍛冶場の材料置き場から、切り分けておいた鉄のインゴットを必要な分だけ取り出して、金床の上に並べました。


「イナリ、さっそくだけど、材料を温めてちょうだい」

「まかせてよ」


 イナリがインゴットの上に飛び乗り、くるりと一回りしてから飛び降りると、インゴットの中心から魔法陣が展開されて、材料がみるみる赤熱してゆきました。


「うん、いい感じに温まったよ」

「ようし、いくわよ!」


 メイは、火箸の魔道具を使ってインゴットを抑えながら、愛用のグレートハンマーで叩いて鉄を鍛え上げてゆきます。


「ふんふふんふふ~ん♪」

 ガン、ガン、ガン、ガン……。


 メイが鼻歌交じりに材料をガンガン叩いていると、みるみるうちにフライパンの形が出来てゆきました。


「うん、こんなものね。私って天才じゃないかしら」

「メイにしては上出来だけど、また並品質だと思うよ」

「イナリ、こういうのは、気分が大事なのよ」


 打ち終わった2つのフライパンを眺めながら自画自賛するメイへ、イナリが正直に話すと、メイはにっこり笑顔でイナリを諭すのでした。


「それにしても、このグレートハンマーって素晴らしいわね」

「普通に鍛冶職人が使ってる魔道具だよ?」


「イメージしながら鉄を叩くいていくと、イメージ通りの形になるのだもの、不思議な感じがするわ。まるで狐につままれたみたいよ」


「こうかい?」

「いたたたた……。やっぱり夢じゃないのね」


 メイは、イナリにほっぺたを抓られてしまいました。


 イナリの言う通り、グレートハンマーはメイが愛用品にそう名付けただけで、普通の鍛冶用ハンマーです。鍛冶職人なら誰もが使っている一般的な魔道具ハンマーなのです。




 その後、メイは、2つのフライパンを腕輪の画面に登録し、ダンジョンへと向かいました。もちろん魔物を倒して品質を向上させるためです。


「やっぱり、フライパンは、ウサギを倒すのにちょうどいいわね」

「角ウサギが気の毒になってくるよ」


 メイは、両手にフライパンを握りしめ、おでこの角で突き刺そうと突撃ジャンプで勢いよく飛び込んでくる角ウサギを叩いて倒してほくほく顔です。


 昨日、フライパンの品質を上げるためにダンジョンを回っていた時に、角ウサギが良く出るエリアを見つけたので、今日もやって来たのです。


「適当に歩いているだけで、向こうから飛び込んできてくれるから楽なのよね。良い狩場を見つけられて良かったわ」


「う~ん、角ウサギが多過ぎるような気がするよ」

「そう? フライパンが早く仕上がりそうでいいんじゃない?」


 メイは、どんどん角ウサギを倒してゆき、思ったよりも早くフライパンの品質が向上したようです。


「ふふっ、もう高品質になったわ。このまま最高品質にしてしまうわよ。イナリ、手伝ってちょうだい」

「もちろんだよ」


 イナリは、メイが倒した角ウサギの魔石を集めていたので、それをひょいひょいっとメイの前へと放り投げ始めました。


「それっ、それっ!」

「ハイ! ハイ!」

 パキッ!パキッ!


 メイが、次々とフライパンで魔石を打ち砕くと、砕けた魔石が光の粒となって、どんどんフライパンに吸い込まれてゆきます。


 そんな作業の最中にも、角ウサギはメイを狙って突撃ジャンプで襲い掛かってきます。メイは、魔石を砕きながらも余裕の表情で、飛んできた角ウサギを魔石を砕く合間を縫ってフライパンで叩いて倒してゆきました。


 イナリもイナリで、集めた魔石をメイへ放り投げる合間に、ちょろちょろと、新たにメイが倒した角ウサギの魔石を拾い、メイの手元へふわりと放り投げています。


 そんなこんなで、フライパンの品質が最高品質に達するのに、それほど時間は掛かりませんでした。


「ふふふっ、最高品質のフライパンが出来上がったわ。ウサギさまさまね」

「やっぱり、角ウサギが多いよね」


「きっと、ウサギの繁殖期なのよ」

「そうかなぁ……」


 イナリの心配をよそに、フライパンを最高品質へと鍛え上げたメイは、ほくほく顔で帰路につくのでした。

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