第5話 改良の相談

 メイが、早々と試作したフライパンを出すと、ミゲルはこんなに早く出来るとは思っていなかったようで、とても驚いていました。


 ミゲルは試作品のフライパンを手に取り、あらゆる角度から確認すると、大きく息を吐きました。


「驚いたな。大きさ、形状ともに壊れたフライパンと遜色ない出来だ。こんな短時間でここまでの物を作るとは素晴らしい。ただ、ちょっと重い感じがするかな」

「なるほど、重さですか……」


「あっ、何となくだから、気にしなくてもいいよ。多少重さが変わっても、慣れれば問題ないんだ。それよりも火の通りが良い方がずっと扱いやすいからね」

「あのう、もう一度、壊れてしまったフライパンを見せて頂いていいですか?」


「もちろんだよ。ちょっと待っててね」

「はい」


 試作フライパンを確認したミゲルの話を聞いて、メイは、もう一度壊れてしまったフライパンを見せて貰うことにしました。


 ミゲルのメイに対する言葉遣いが、少し変わってきているのは、打ち合わせなどを通じてメイの人柄が少しずつ分かってきたからでしょう。


「はい、どうぞ。ゆっくり見てね」

「ありがとうございます」


 ミゲルが持ってきてくれた取っ手の壊れたフライパンをメイは手に取り、試作のフライパンと見比べます。その真剣な眼差しは、熟練した職人を感じさせます。


「ミゲルさん、この壊れた取っ手の付け根のところですけど、少し形状を変更して強度を上げようと思いますが、構いませんか?」


「その辺りは任せるよ。強度が上がれば壊れにくくなるだろうからね。こちらとしては嬉しい限りだよ」


「その分若干重くなりますけど、大丈夫ですか?」

「ああ、先ほども言ったけど、若干重さが変わってもなんら問題はないよ」


 メイの示した提案に、ミゲルはにっこり笑顔で問題は無いと了承してくれました。


「それでは、ご注文のフライパンは、この試作品の形状で、取っ手の付け根の部分の強度を上げた形で製作しますね」

「ええ、それでお願いします。この勢いだと、明日にでも出来上がりそうかな?」


「いえ、さすがに少しお時間いただきます。ですが、来週までには完成させてみせますよ」

「来週が待ち遠しいですね。よろしくお願いします」


 試作したフライパンの確認と改良点の相談も終わり、メイがテーブルから立ち上がると、おかみさんに呼び止められました。


「メイちゃん。ちょっと早いけど、晩御飯食べて行きなさいよ」

「う~ん、そうですね。お腹も空いたし食べていこうかしら」


「それなら、ぼくが作るよ」

「いいんですか?」


「もちろんだよ。良いフライパンを作ってもらうためにも、ぼくの料理の腕を見てもらっておかなくちゃね」


 ミゲルは、腕をまくって颯爽と厨房へ入って行きました。

 夕食時まで、少し早いこともあり、まだ定食屋さんにお客は入っていません。


 メイがおかみさんと世間話をしている間に、ミゲルが、腕によりをかけて作った晩御飯を持って厨房から出て来ました。


「お待たせ。オムライスを作って来たよ」

「美味しそう。いただきま~す」


 ふわとろ卵のオムライスは、見た目にもとても美味しそうです。さっそく、メイはスプーンを入れて、とろとろの卵が絡みついたチキンライスを掬い、一口に頬張りました。


「美味しい!!」


 一口食べて、メイは感嘆の声を上げました。もぐもぐと咀嚼しながらとても幸せそうな表情を浮かべます。


 テーブルの上では、イナリがオムライスの前でうろうろしながら、メイの幸せそうに食べる顔を羨ましそうに眺めています。


「メイ、ぼくにも食べさせてよぉ」

「あら、ごめんなさい。あまりに美味しくて我を忘れていたわ。はい、イナリ」


 イナリが催促すると、メイは我に返って、イナリにも食べさせました。


「もぐもぐもぐ、うん、すごくおいしいよ!」

「ふふふ、このふわとろ卵が堪らないわよねぇ」


 とても美味しそうに食べるメイとイナリの姿を、ミゲルとおかみさんが微笑ましく見守るのでした。

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