第4話 フライパンの試作

「えっと、オーダーメイドの依頼ということでしょうか?」

「はい! 多少値が張っても構いません。是非ともオーダーメイドでフライパンを作って頂きたい!」


 メイが確認すると、ミゲルはテンションが上がった状態のまま、はきはきと答えました。


「では、師匠の許可が出たら、依頼をお受けしましょう」

「師匠……ですか?」


「はい。師匠、お願いします」

「はじめまして、イナリだよ」


 師匠と聞いて戸惑うミゲルを前に、メイはにっこり笑って肩に乗っているイナリを見て師匠と呼びました。イナリは陽気に挨拶をします。


「その魔獣が師匠!? あ痛!!」

「失礼なことを言うんじゃないよ! このバカ息子が!!」


 イナリを魔獣と呼び、目玉が飛び出してしまいそうなほどに驚くミゲルでしたが、すかさず、おかみさんに後頭部をひっぱたかれて、叱られてしまいました。


「ごめんね、イナリちゃん。うちのバカ息子が失礼なことを言ってしまって」

「大丈夫、気にしてないよ」


「ほら、ミゲル、あんたもちゃんと謝りなさい」

「す、すみませんでした……」


 おかみさんに言われて、ミゲルは、ばつの悪そうな顔で頭を掻きながら、イナリにぺこりと謝ってくれました。


「改めて紹介しますね。この子が私の師匠のイナリです。見た目は可愛いですけど、立派な精霊なんですよ」


「せ、精霊さま!? 魔獣なんて言ってしまい、申し訳ありませんでした!!」

「あら、まぁ、ミゲルったら。ほほほ」


 メイからの紹介でイナリが精霊だと聞くや否や、ミゲルは顔を真っ青にして土下座をするのでした。


 そんな様子に、おかみさんが困ったものだわとばかりに頬に手を当て笑い出すと、メイとイナリも顔を合わせて苦笑いをするのでした。


「それでね、イナリ、私は依頼を受けてもいいと思うのだけど、イナリはどう?」

「悪い人じゃないし、いいんじゃないかな」


「そう、それじゃぁ、フライパン作りの依頼を受けることにするわ。ミゲルさん、詳しいフライパンの形状とか要望を聞かせてもらえますか?」

「ありがとうございます!! 壊れたフライパンがありますので、ちょっと取ってきます!」


 メイがイナリと相談して、依頼を受けると決めると、ミゲルは満面の笑顔で礼を言うと、愛用していたフライパンを持ってくると言って、家の奥へと駆け出して行きました。


「あらあら、さっそく打ち合わせかしら。奥のテーブルに座ってゆっくりと話すといいわ」

「ありがとうございます」


 定食屋のおかみさんも、嬉しそうに奥の席を勧めてくれました。メイがお礼を言って席へ座ると、おかみさんは、お茶とお菓子を出してくれました。


 ミゲルが、壊れたフライパンを手に戻って来ると、さっそく打ち合わせを始めました。ミゲルの愛用のフライパンは、取っ手の部分が根元で折れていて、直そうとした跡がありました。きっと、修理を依頼して上手くいかなかったのでしょう。


「だいたい分かりました。試作をしてみますので、出来たら確認をお願いしますね」

「分かりました。来週も実家に帰ってきますので、よろしくお願いします」


 打ち合わせが終わり、メイが試作をしたら一度ミゲルさんに確認してもらうことにして、メイは定食屋を出て、子ぎつね印の鍛冶屋さんへと戻りました。




 子ぎつね印の鍛冶屋さんへと戻るなり、休みもせずにメイは鍛冶場へ入りました。


「さっそく、試作するわよ。イナリ、手伝ってちょうだい」

「もちろんだよ」


 メイが出した鉄のインゴットをイナリが温めて、フライパン作りが始まりました。依頼のフライパンは、今朝メイが作ったフライパンよりも一回り大きいサイズですので、その分材料も多くなります。


「ふんふんふ~ん♪」

 ガン、ガン、ガン、ガン……。


 メイが鼻歌交じりに愛用ハンマーでガンガン叩き、あっという間に試作のフライパンを完成させました。


「ふぅ、こんなものかしら」

「まぁ、試作だしね」

「ふふっ、さっそく確認してもらいましょう」


 メイは、大きな肩掛け鞄に出来立てのフライパンを入れると、イナリと共に、再び定食屋へと向かいました。




「こんにちは、あ、ミゲルさん。ちょうどよかった」

「あれ? メイさん、どうしたんですか?」


 再び定食屋を訪れたメイに、ミゲルが首を傾げました。


試作を作ってきましたので、確認をお願いします」

「えええっ!? もう出来たんですか!? って、早過ぎません!?」


 メイが、出来立ての試作フライパンを鞄から出すと、ミゲルは目ん玉が飛び出してしまいそうなほどに驚くのでした。

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