第3話 定食屋さんの息子さん

 メイは、イナリと共に、さっそく定食屋さんを訪れました。


「こんにちは」

「いらっしゃい。あ、メイちゃんじゃないかい。ちょうど良かったわ。うちの息子の話を聞いてやってもらえないかい」


 メイが挨拶しながら定食屋さんへ入ると、おかみさんが、挨拶もそこそこに息子の話を切り出してきました。


「雑貨屋さんのおばあちゃんから聞いて、お話を伺いに来ました」

「そうかい、そうかい。今、呼んでくるから、待ってておくれよ」


 おかみさんは嬉しそうに、息子を呼びに奥の厨房へと向かいます。

 すぐに髭を蓄えたがっちりした体つきの中年男性がやってきて、キョロキョロと店の中を見回しました。


「どこ見てるんだい? 鍛冶屋さんなら目の前にいるだろう」

「えっ?」


 おかみさんに言われて、息子と思しき中年男性は、驚いた顔でメイとおかみさんを交互に見るのでした。


「はじめまして、鍛冶職人のメイといいます」

「うそだろ? メイドじゃないか。しかも、こんな子供が―― あ痛っ!!」

「失礼なことを言うんじゃないよ! このバカ息子が!!」


 メイがぺこりとお辞儀をして挨拶すると、定食屋の息子は信じられない顔で話し始めるも途中でおかみさんに後頭部をはたかれて、叱られてしまいました。


「ごめんなさいね、メイちゃん。うちのバカ息子が失礼なことを言って」

「いえいえ、慣れていますから、気にしないでください」


「ほら、ミゲル、あんたもちゃんと謝りなさい」

「す、すみませんでした……」


 おかみさんに言われて、ミゲルと呼ばれた息子は、ばつの悪そうな顔で頭を掻きながらぺこりと謝ってくれました。


「改めて紹介するわね。これがうちの息子のミゲル。メイちゃんに折り入って相談があるそうなのよ。ほら、ミゲル、忙しいところをわざわざ来てくれたんだから、ちゃんと挨拶しなさい」


 おかみさんの紹介に、ミゲルは苦笑いをしながら頬を掻いていましたが、すっと気持ちを切り替え、姿勢を正しました。


「はじめまして、メイさん。料理人をしている、ミゲルと申します。先ほどは、本当に失礼いたしました」


「気にしてませんので、頭を上げてください。それで、具体的にどういった話でしょうか?」


 改めて謝罪するミゲルにメイは苦笑いして、さっそく本題について尋ねました。


「実はですね――」


 ミゲルの話を伺うと、長年使っていたフライパンが壊れてしまって、しっくり手に馴染むものを探しているそうですが、なかなか見つからないのだそうです。


 先日、腕がいいという噂の鍛冶職人の下を訪れ、オーダーメイドでフライパンを作ってもらったそうですが、今一つしっくりこなくて、フライパンを使うときには焼き加減に非常に気を使いながら料理をしているというのです。


 そんな中、愚痴を零しに実家に帰ってきたところ、定食屋の親父さんがフライパンの自慢話をするので、そのフライパンを見て、その品質の良さに感銘を受けたのだというのです。


「それで、親父のフライパンを作った鍛冶職人に、私のフライパンを作ってもらおうと思っていたのですけど……」

「なんだいミゲル、あんたメイちゃんの鍛冶の腕を疑ってるのかい?」


「いや、やっぱりこの若さで、あれほどのフライパンが作れるのかなって……」

「やっぱり疑ってるんじゃないかい。この子はもう!」


 押し黙って苦笑いをするミゲルの様子を見て、おかみさんが彼の胸の内を見透かしたように問い正すと、ミゲルは観念したように、正直な気持ちを言って、怒られていました。


 親子喧嘩になりそうなところで、メイは鞄から今日作ったフライパンを出して見せました。


「あのう、このくらいの物でよければ、私でも作れますよ」

「これは……」


「私が今日作ったフライパンです。参考までにと思って持ってきました」

「おおっ、これは素晴らしいフライパンだ!! メイさん! 是非、私のフライパンを作ってください!!」


 メイの腕を疑っていたミゲルでしたが、目の前に出されたフライパンを見ると、目を見開いて驚き、一転してフライパンを作って欲しいと頭を下げるのでした。

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