第2話 職人の腕輪
メイは、自らの作ったフライパンの二刀流で、ダンジョンの魔物どもを倒しに倒しまくってゆきました。
ピンポーン♪
目の前の魔物を倒しきったところで、腕輪からチャイムの音が鳴りました。
気付いたメイが、腕輪の画面を出して、なにやら確認しています。
「よし! 高品質のフライパンになったわ」
「今日は早かったね」
「そうね、鍛冶の腕が上がってるっていうことよね」
「そういうことだよ」
並品質だったフライパンの品質が、高品質になっていました。これは腕輪の不思議な力の一つで、登録した製品を使って魔物を倒すと、その製品の品質が高品質まで向上してゆくのです。
メイのように魔物を倒して製品品質を向上させるなんてことは、普通の鍛冶職人には出来ません。職人の腕輪を持つメイだからこそ出来る芸当なのです。
それゆえ、普通の鍛冶屋さんでは出来ない独特な製品が出来上がることが、稀にあるのです。
「さぁて、それじゃぁ、最高品質へ向けて、フライパンを鍛えるわよ。イナリも手伝ってね」
「いいよ。いつものやつだね」
メイは、背負っていたバックパックから、小さな袋を出してイナリの前に置くと、少し下がりました。そして、両手にフライパンを持って構えます。
「準備はいいわよ。いつでもいらっしゃい」
「いくよ。それそれっ!」
「ハイ! ハイ!」
パキッ! パキッ!
メイの合図で、イナリが袋の中に入っていた魔石をメイの方へと軽くポイポイっと放り投げます。
そして、メイがフライパンを振って魔石を打つと、魔石は小気味いい音を立てて砕け、光の粒となってフライパンに吸い込まれてゆきました。
製品の品質を高品質から最高品質へと向上させるためには、このように魔石を砕く必要があるのです。もちろん腕輪の不思議な力の一つです。
えっ? 魔石がそんなに簡単に砕けるのかって? そんなわけありません。これも腕輪の不思議な力の一つなのです。魔石というものは、そう簡単に砕けるものではありません。
「それっ、それっ、それっ、それっ!」
「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」
「それっ、それっ、それっ、それっ!」
「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」
イナリとメイは、まるでテニスの練習でもするように、次々と魔石を打ち込み、砕いてゆきます。まぁ、ボールではなく魔石ですし、ラケットではなくフライパンを両手に持っているのですが……、雰囲気だけは、そんな感じです。
ピンポーン♪
腕輪のチャイムが鳴って、メイが腕輪の画面を開きます。
「うん、最高品質のフライパンになったわ」
「お疲れ様だね」
「イナリが手伝ってくれたおかげよ。ありがとう」
「どういたしまして」
メイは、2つのフライパンが最高品質になったことを確認すると、手伝ってくれたイナリにお礼をいいました。
「いつものことだけど、魔物を倒したり魔石を砕いたりして品質が向上するなんて不思議よね。まるで狐につままれた気分だわ」
「こうかい?」
「いたたたた……。やっぱり夢じゃないわね」
イナリにほっぺたをつままれて、メイは改めて現実なのだと確認すると、手にしたフライパンを眺めてにんまりするのでした。
「ふふっ、今日もいい汗かいたわね」
「体を動かすと気持ちがいいよね」
メイは、最高品質となったフライパン2つを手に、嬉しそうな笑顔でイナリとたわいのない話を交わしながら、子ぎつね印の鍛冶屋さんへと帰路につくのでした。
「こんにちは、おばあちゃん」
「あら、メイちゃん。またダンジョンへ出掛けてたのかい?」
「ええ、そうよ」
子ぎつね印の鍛冶屋さんの前で、隣の雑貨屋のおばあちゃんと会いました。おばあちゃんは、メイがハンターとして魔物退治をしていることを知っています。
「ハンターの仕事なんかしなくても、鍛冶職人として十分生活できるでしょうに」
「ふふっ、魔物を狩るのは、良い運動になるのよ」
「あ、そうだわ、源ちゃんの息子が、メイちゃんに会いたいそうよ」
「定食屋さんの息子さんですか?」
いつものように軽く挨拶程度に話をしていると、おばあちゃんは思い出したように定食屋の息子の話を切り出してきました。
源さんは、メイも良く行く老舗の定食屋さんの店主です。アットホームな雰囲気の定食屋さんはメイもイナリもお気に入りです。
しかし、メイは源さんの息子とは面識がないので、返答がちょっと疑問形になってしまいました。
「なんか、フライパンについて相談があるみたいよ」
「はっ! フライパンが私を呼んでいるのね!」
どうやら、フライパンに関する話のようで、メイの目が見開かれるのでした。
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