第三部 6話 ギャルは頼もしい

「はぁ……」


「?……とうとうドッキングゴーしたん?」


「遂にいっくんとセックスしたのか裕美子よぉ〜」


「!店ん中で言うなバカ!」


 『フラッペとギガモック食いたいからデートしようず』なんてメール来て、真白はバイトだから、姫奈とモック来たアタシ。

 暫くフツーに話してたんだけど、ふとこの間のデートの事を思い出して、その時のキスの事を思い出して……たら、ボーッとしちゃってた。


「あ、マジでエッチしたの?」


「してない。しては、ない…」


「触りっこまではした」


「そんなちゃんとだけど……」


「おぉ〜裕美子にしちゃしんちょく」


 いや触りっこってかアタシが無理矢理身体くっつけてっていうか、胸を押し付けてだし。

 一方的にエロい事しようとした感じだけど。


「つかさ、姫奈」


「ん?」


 ギガモック大口開けて食べる姫奈。

 相変わらず一口がめっちゃデカい。

 アタシはマスカットシェイクゆっくり啜りながら、呟いて。


「壱正も、ちゃんと…男。なんだよな」


「え、どしたいきなり。温度差よ」


「いや……なんか、付き合って、どんどんちゃんと、男子なんだなって、分かって来たってか」


「あー……男のナマっぽいトコ見えて来た感じ?」


 そんなに生々しいモノじゃない。

 とは思うけど、やっぱり、あの時壱正の下半身が凄い固くなってたのが分かった時に、ちょっとハッとしたっていうか。

 アタシがエロい気分になったのと同じ様に、壱正もエロい気分になってたのが、当たり前ではあるんだけど、ちょっと驚いて。

 ああなってるって事は、壱正も、アタシと…セックスしたいって気持ちがあるって事に、少し動揺した。

 もちろん、アタシを抱きたいって思ってくれてるのは、嬉しい?事ではあるんだろうけど。


「やっぱ、壱正がしたくなったらさ、させたげないといけないよな…」


「それはサセ子っつか無闇に生中して妊娠する昔のケータイ小説主人公JKの思考だから止めとけ」


「いてっ!チョップはやめろよ……」


「つーかいっくんそんな無理矢理する男じゃねーべ。伊達に乳乗せまくってもチンコに反応ねーウチらをみくびんな〜」


「なんか…言い方癪だけど納得した」


 それは確かにそうだな。

 姫奈も真白も、青戸センセまで胸乗せても壱正、勃ってなかったんだよな…。

 て事は、アタシにだけエロい気分になってくれてるって事…か。


「ま、いっくんはちゃんと用意しといてくれるだろーから、そん時が来たらしっかりゴム有りイチャラブえっちすりゃぉkよ〜」


「うん…」


「ツッコミがねぇの調子狂う…ガンダムネタ出ないんだが……」


 なんて、姫奈のふざけた過激なアドバイスにも上の空な返事をしてる中。

 向こうからゾロゾロと、チャラそーな男二人がコッチの方歩いて来て。


「ねーねーお姉さん、なんか楽しそうな話して『あ?オメーらにしてねーよ』ハイ……スミマセン…」


 しょーもないナンパは、二人息ピッタリに撃退出来たんだけど。













「えっと…多分アタシの手より長かった…よね」


 家に帰って、手のひらを見つめる。

 触った感触が、正直まだ覚えてて。

 中指から手首までじゃ、収まんなかった気がしてる。


「…えっ…コレ入るかな……」


 そのままお腹のトコに手を当ててみたら、へそより上に来てて。

 コレより長いのが、アタシの中に入ると思うと、ちょっと怖かった。


「初めてだしやっぱ痛いよね……壱正は絶対優しくしてくれると思うけど…あ、でも意外と激しいのかな…」


 しょーもない妄想してる。

 ギャルだけど処女だって別に良いと思ってるし今でもいいと思うし、壱正も多分処女の方が嬉しいだろうけど、実際カレシが出来ると、経験の無さが少し怖い。

 壱正も同じ気持ちかな……てか、壱正、童貞だよね!?

 彼女は居なかったけどセックスはした事あったり……いやいや!壱正そんなヤリチンな訳ない…!


「大丈夫。童貞と処女でエッチするんだから、上手くいかなくて当然…」


 だけど、カレシには気持ちよくなってくれたら嬉しいなって、思ったりもするし。

 処女だけど、出来る事は、してあげたいな。


「手……はしてあげた方が良いよね」


 ファッション誌の読みものページを開く。

 ちゃんと見るの初めてな気がする位、しっかり目を通した。

 割とガッツリそういうののやり方、書いてあるんだよな…。


「強く握り過ぎない…ゆっくり、段々力強く…」


 見ながら素振りしてみる。

 一応イメージ元はあるから、太さはなんとなくわかるし。


「あとは……!口……口か…」


 お腹の中もだけど、口にあんなおっきいの入れたら、窒息しそうで怖い。

 だけど、してあげたら壱正喜ぶよね。

 壱正が切なそうな顔してるの想像したら、お腹のトコがキュンキュンした。


「壱正が嫌じゃないならしたげよ……あ、でもちょい怖…………っ」


 なんて想像してたら、なんか急に、本を閉じた。

 我に返ったのかな、顔がすっごい熱いのが分かる。


「ハハ……何してんのアタシ」


 今更だけど変な感じだ。

 アタシは今まで、こういうページは見てみぬフリして来て。

 そもそもギャルだからって、カレシ必要だとは思って無かったし。

 ギャル=股が緩いイメージみたいなのも嫌いだったし。

 だから絶対、成り行きでセックスした。

 みたいな事は、あり得ないって思ってたのに。


「いつの間にか……壱正に、抱かれたくて仕方なくなってんじゃん……」


 半年前までのアタシに言ったら、ふざけんなってキレてるだろうな。

 でもそっか、好きな人が出来たら、一つになりたいって気持ちが、湧いて来るモンなんだな。

 

 別にセックスしなくたって、恋人同士でいられるし、ずっと仲良く好き同士で居られると思ってた。

 実際、そういう人達だって普通にいるとは思う。

 思うけど……。


「アタシは、好きな人とは、ちゃんと、エッチしたいタイプなんだ……」


 16歳で知る自分の新しい部分に、心臓が凄く、ドキドキしてた。






ーーーーーーーーーー



「新しく出来る支社の、新設される部の責任者をやってくれないかって、言われちゃってるのよ」


「部長さんって事?」


 玄関に突っ立ってるのもどうにも居心地が悪くて、おばあちゃんと言い合ってる母さんの前に、姿を現した僕。

 おばあちゃんは自分の部屋に戻って、僕と母さん二人きりにしてくれた。

 おじいちゃんは地区の集会で出掛けてる。


「そんな感じ。母さん、最初は悩んだんだけど、やっぱお金はコレから必要になるだろうから、受けてみようかなって」


「僕の生活費とか、学費とかも、色々あるもんね」


「そうね。片親だけど、壱正大学にも行かせてあげたいからさ」


「……」


 母さんは今まで、僕の人生を殆ど一人で、育ててくれて。

 それこそ、中学を卒業する時には、僕は一度本気で働こうかなって思った時もあった。

 それでも『学生はちゃんと最後まで学生やんなさい。転校ばっかりなのはゴメンだけど』って言いながら、高校生にもならせてくれて。


「この街なら、壱正も大丈夫だと思うしさ。おじいちゃんおばあちゃんに、学校の友達もいるし、ゆっくりじっくり、高校生活送れんでしょ?」


「うん…」


「もう16だし、お母さん居なくたって平気だしね」


「そりゃあ勿論」


 もう大分冷めちゃってるコーヒーを飲み干す母さん。

 勿論、もちろん平気だ。

 だけど、僕には一つ、気掛かりがあって。

 

「ただ…仕事から帰って来て、僕いない……けど」


「っ…それはそっか。あははは…」


「うん…」


 母さんは強い人で、仕事の愚痴や、弱ってる所みたいなのは、殆ど言った事が無い人だ。

 だけど時々、たまに、ボソっと溢す事がある。

 『壱正のいる家に帰れるから、頑張れるわ』って。

 

「なーに大丈夫よ。母さんだって良い歳だもの。ちょっとの単身赴任くらい、もうどーって事ないって!」


「そっか。わかった」


「ん!」


 この日は、それでおしまいになった。

 というか、これ以上何か話す事も、多分無いんだろうけど。

 もう少し話しておきたいけど、何を話せばいいのか、分からない気もして。



















 そうして、二学期が始まった。

 厳密に言うと僕たちの通う万葉高校は、前期と後期で分かれてるらしくて、十月がその境目だから、まだ前期らしいんだけど。


「(て事はまだ半分も終わってないのに、色んな事あり過ぎてる気がする)」


 ちょっと気が重たいままだけど、バイクを駐輪場に置いて、今日からの久しぶりの高校生活、特に部活を楽しみに頑張ろうと思ってた。

 そんな矢先。


「結城君おはよう」


「おはようござい……えっと?」


 背中に挨拶されたから振り返ると、知らない男子生徒だった。

 しかもそれで終わらず。


「あ、結城君だおはよー」


「ホントだおはよ〜」


「???」


 男女問わず、何人かの知らない生徒が、どんどんコッチに集まってきた。

 みんななんだか特異な眼差しで見てる様な…?


「ねぇ結城君、私もバイクの免許欲しいんだけど、どうやったら取れる?」


「えっ?」


「俺も俺も!」


「めっちゃプロいんでしょ!?教えてくれよ!」


「っ……(そういう事か)」


 あんまり気にしない様にしてたけど、思ってた以上に身バレが早かったみたいだ。

 それにしたって動画に映ってるのが僕だって特定されて拡まるの、早過ぎる気もするけど……。


「結城くんって大人しそうな顔して結構イケてる「ねぇ、そいつ通れないんだけど」えっ?」


「行くよ。壱正」


「裕美子さん……!」


 面食らってた僕を安心させる、女の子の声。

 八方塞がりの中に割って入って、僕の手を引っ張ってくれた裕美子さん。

 デートの時とは違う、ココから抜け出そうとしてくれる、強い握り方で。







「すいません。ありがとうございました…!」


「いーよ。壱正ああいう野次馬みたいなの突っぱねるの、苦手そうだし」


「まったくもってその通りです。たはは…」


 そのまま学校まで引っ張られて、階段裏で漸く一息つけた。

 だけど、裕美子さんの手はしっかり握ってくれてるままだ。


「てかその……アタシ、壱正の、彼女だし…こんくらいフツーにやるし…」

 

「だとしたら、僕も彼氏としてもっと頼り甲斐あるように、ならなきゃですね」


「!壱正はもう充分アタシの頼りになるカレシだよ……?壱正、なんか、疲れてる?」


「へっ?」


「目にクマっていうか…少し痩せた?」


 ジッとコッチを見つめてくれる裕美子さん。

 相変わらず健康的な肌と、長い睫毛と、綺麗な瞳だなぁなんて呑気な事を思う僕を他所に、裕美子さんは凄く心配気だ。


「夏休みもウチで働かせ過ぎたよな…」


「いやいや!アルバイトの消費カロリーは裕美子さんのまかないの美味しいご飯でプラマイゼロっていうか寧ろプラスですから!あー…暑くて朝ごはん抜いちゃった日が多かった所為かもです!はい」


「そっか。なら良いけど。あ、今日午前授業だけど部活やる予定だから弁当持って来てんだ。一緒に食べよ」


「やった!あったら良いなって思ってたんです!ありがとうございます!」


「無かったらどうするつもりだったんだよ。ウケる」


「へへへ……」


 考える事が少し多いけど、今日は裕美子さんの久しぶりの学校でのお弁当を楽しみにして、頑張ろう。

 その時だけは、煩わしい事みんな忘れられるから。











ーーーーーーーーーー



「あー涼しいわ。マジで部活最高」


「ホントそれよ。裕美子あざまる〜」


「流石に今日屋上じゃ死んじゃいますしね。助かりました裕美子さん」


「いーよ。てか、そこら辺はセンセに感謝だけど」


 始業式も終わって、午後からの部活前。

 フツーに九月でも猛暑日な手前、家庭科室でエアコン点けて先にお昼にしてるアタシ達。

 青戸センセに頼んで、部活中って名目で早めに使わせて貰ってた。


「ん。壱正」


「ありがとうございます!………コレは冷やし中……華ではない…?」


「ふふん。まぜそばだよ。上の段が具な。良く混ぜるんだぞ」


「うわぁタレの良い香りが……いただきます!」


 手を合わせたら具を入れてニコニコしながら良く混ぜ出す壱正。

 食べる前から美味しそうな顔してんの、やっぱり何回見ても良いな。


「あんだよイッチー新学期早々愛妻弁当かよーうらやまー」


「しゃーねぇ真白。猛暑も敵わねぇのよ。コロニーレーザーよりアチアチ」


「つーか二人ともそのパピコの食い方やめろって」


 昼メシより先にアイスな二人なんだけど、しっかり乳をテーブルに乗せたら、谷間にパピコ挟んで手を使わずに飲んでる。

 まぁ昔っからやってんだけど、男の壱正いる手前、絵面がエロに振り切り過ぎてんのが……。


「タレの絡んだもやしとワカメとチャーシューと一緒に啜ると美味しいです!」


「っ……(無駄な心配かな)チャーシュー自家製だからな」


「すっごい柔らかくて味染みてて美味しいです!」


 ただまあ少し恥ずかしそうな顔はしつつも、アタシの弁当に集中して食べてくれてる壱正。

 そういう辺り、アタシの事が一番好きなんだなぁなんて、ちょっと心の中で惚気たりした。


「あと食べ終わったらコレな」


「おにぎり?」


「追い飯。余ったタレと具と混ぜると美味いぞ」


「はぁい!」


 うん。

 大丈夫そうかな。

 朝の顔見た時、ちょい不安だったんだけど、今は顔色も良さそうで良かった。

 もし悪くても、アタシのご飯で、元気になれるなら、それで良いし。









「ていう訳で、外でも使えるキャンプグッズ的なのを作ろうと思います」


「ていうと?」


 昼メシ食べ終わって休憩したら、部活開始だ。

 文化祭まであと一ヶ月ちょいだから、やる事はテキパキ進めてかないとだし。

 そうなると、先ず壱正がやる事の発表になった。


「ランチョンマットとか、コースターとかです。裕美子さんの料理を敷くのに、良いかなと」


「黒ギャルの尻に敷かれてるって事かー?イッチー!」


「真白だまれ」


「おん?でもいっくんそれってーと」


「ハイ。縫製の技術が必要なので……真白さん姫奈さん。忙しい中すみません!少しで良いので教えて下さい!」


 律儀に頭下げる壱正。

 普段あんだけちょっかい掛けられてるけど、真白と姫奈がガチでやってる事だけは、大真面目に向き合ってあげる、ひたむきさがあんだよね。


「良いぜイッチー!手取り腰取り教えてやんよ!」


「オッサンか真白ぉ〜。ちゃんと裕美子に二人っきりで教える許可を取ってから出撃「それとこれとは別だぞ姫奈」チッ」


「まぁ…壱正の為になんなら、付きっきりなのは許す」


「りょ〜。いっくん気持ち良い指の使い方教えたげんね〜」


「イッちまう位シゴキまくんぞイッチー!」


「あ、ありがとうございます!お願いします!」


 言葉は不安だけど、きっと良い経験になるだろうし、大丈夫大丈夫。

 ていうか、壱正が何やりたいって、自分から言い出した事だもん、彼女だし、部長のアタシとしては、願ったり叶ったりだし。








「キャンプ用品って考えたな、壱正」


「あっ、はい。バイク用品も兼用出来るんで、良いかなって」


「ちなみにキャンプって誰と行くん?」


「そっ、それは……勿論、裕美子さんとです!」


 帰り道、真白と姫奈とも別れて、アタシん家までの道も、壱正は送ってくれる様になった。

 バイク軽くないのに、『彼氏なので』なんて言って。


「あ、嫌……ですか?」


「うーんどうしよっかな。虫刺されるかもだし」


「春とか秋とか涼しい季節にしますし!虫除けスプレーもちゃんと持ってきます!」


「ふふっ、大丈夫だよ。ちゃんと行くって。キャンプ料理とかも面白そうだしさ」


 焦る壱正も、ちょっと可愛い。

 っていうのを知ってるから、少しいじわるしたくなる。


 それで笑ってくれてるなら、良いんだけど。


「っ………よかったぁ。行くのは、来年以降になっちゃいますけどね。へへへ…」


「(……やっぱりか)壱正、なんかあった?」


「えっ、どしたんですか急に」


「声が元気ない」


「っ!」


 いつも、出会ってからずっと、優しい声の壱正だから、少しの違いでもなんとなく分かる様になって来た。

 明らかに、無理して明るくしてる声だもん。


「言いたくないなら、言わなくていいけど、前言ったじゃん。頼ってって」


「裕美子さん……」









「そっか。お母さんが」


「たはは……すみません。別にもう、決まった事なのに引っかかってて。マザコンみたいで嫌ですよね」


「そんな事言うな。女手一人で壱正育ててくれたんだろ。アタシも……ばあちゃんいたとはいえ、片親の時期もう大分長いから、心配なの分かるよ」


「裕美子さん…」


 壱正も、多分ずっと、なるべく親の足引っ張んない様に生きて来たんだと思う。

 普段からあんまりわがまま言わないのは、そういう所が良く出てるなって分かるから。


「アタシさ、調理場入れる様になったの、つい最近なんだ」


「!そうだったんですか?あんなにテキパキこなしてるから、てっきり小さい頃からだと」


「もちろんずっと、見てはいたけどさ。ただ、中々父ちゃん、やらせてはくれなかったんだよね。だけど…去年かな。大分身体にガタ来てるのがわかって、いい加減立たせろって喧嘩した」


「……親が昔より元気ないのって、日に日に目に見えてわかりますよね」


「ホントそれ。ジジイになったなーって、分かる時あってさ。そこら辺のタイミングで、アタシが少しは助けになるの、受け入れてくれて良かったけど」


 子供の自分でも、なんとなく分かる。

 親の体力がマイナスになる時と、自分の力がプラスになるタイミングって、大体おんなじ位なんだなって感覚。

 自分が成長したって、ポジティブに考えられるけど、1番元気な時の親を知ってると、少し寂しくもあって。


「でも僕は、裕美子さんみたいに「ストップ」あてて…」


「それ以上、言うなよ壱正」


「チョップ…」


「チョップだよ。また後ろめたい事言おうとしてんもん。アタシが好きな男の悪口言うの禁止」


「それは……!」


 見透かされたからか、元々なのか、しゅんとして肩落とす壱正。

 だから、ちょっと頭を引き寄せて。


「多分、今の壱正が、今までで1番良い壱正だって、お母さん思っててくれてるよ。安心出来るから、一人で行くんだろうし」


「っ…」


「アタシのお墨付きじゃ、信じらんない?」


「そんな!大好きな裕美子さんにそう言って貰えるなら、信じられます」


「…ん」


 埋めてた顔を上げて、アタシの肩を掴んで真っ直ぐ目を見て言う壱正。

 こういう時の相変わらずなストレート具合は、慣れないでドキッとする。

 それでも、漸く今日、心から笑ってる顔になった気がした彼氏の笑顔に、ホッとした。















ーーーーーーーーーー





「環境も変わってってるけど、僕自身も変わって行ってるんだな…」


 裕美子さんを送り届けて、一路ハンドルを取る。

 少し頭の靄が晴れてスッキリしたからか、運転の一体感がいつもよりある気がする。


「!………センターラインはみ出してるよ」


 対向車がカーブでセンターラインをはみ出して曲がって来る様な時も、早めに察知して、アウトラインに沿って回避しながらやり過ごすなんて事も、苦も無く出来る様になって来て。

 そんな、少しだけ成長が自分で分かる気がしてる僕に。









「ただい……?」


 家に着いて、見慣れない車を、見かければ。

 入った先に、見知らぬ男の人二人。

 そして、困惑気味の、おばあちゃんの顔。

 其処に。


「ああ、貴方が結城壱正さんですね」


「どちら様ですか?」


「申し遅れました。私万葉警察署の、刑事課の者です」


「!」


 新しい靄が、降りかかって来た。



つづく

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遠回り系ギャルと真っ直ぐ系草食男子 川崎そう @kawasaki0510

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