5: ち、ちかよるな!!
草むらを掻き分け秋篠は進んでいると、大声で泣いている声が聞こえてきた。それは聞き覚えのある、元気な子供のような。やはりパティであった。
パティは番人にしがみつき、無言である彼の頭を手で叩いて泣いていた。
「秋篠様!申し訳ございません〜!!気がついたらこんなとこに来て、秋篠様がどちらにもお見えになられなくて〜!!」
「大丈夫だよ、パティ。心配かけたな。ああ、やっと森から出られたのか。」
パティを慰め、3人揃って歩き出した。
秋篠は既に疲れきっていた。しかし、やっと仕事道具を持たせたパティと再会できた。ここで帰るのは癪だと秋篠は思った。
暫くすると、小屋が見えてきた。
「あ、あれか。レインが言ってたのは。」
「?」
秋篠は小屋の扉まで来た。ノックをしようと手を差し出したその時、
「ち、ちかよるな!!」
子供の声がした。
振り返ると、赤髪の小さな女の子がこちらに銃を向けていた。彼女の左頬には、ガーゼが付けてある。
「銃!?ち、ちょっと待て!」
「秋篠様!」
小さな女の子の後ろにいる番人が、剣に手を添え少しづつ近づいて来るのにパティは気がついた。パティは秋篠の前に出て、庇うように両手を広げる。
「えと、お嬢ちゃん。俺たち何も怪しい人じゃないよ!ここに住んでいるおじさんにご挨拶したいだけなんだ。」
小さな女の子は銃を向けピクリともしない。
すると、小屋の扉が開いた。
「こら!シアル、客に銃を向けるでない!」
老人が出てきた。
短髪の白髪、細身。左足は関節があり得ない方向に曲がっており、彼は杖をついている。
彼の言葉を聞くと、彼女は銃を下ろした。
「シアン、謝りなさい!」
「………ごめ、んなさい。」
老人は秋篠達を小屋の居間へと迎えた。
老人は杖をつき、ゆっくりと椅子に座った。
今日は何度、命が危なかったか。秋篠は今生きているという事を噛み締めていた。
「私の名はハル。はて、お客さん。私に何か用があるんだろ。」
「あ、はい。申し遅れました。秋篠秀輝と申します。建築士です。」
秋篠は老人に、事の説明をした。
「なるほど人間界から、魔王は何を企んでおるのか。あと、レインに会ったのだな。そうか元気だったか。」
柱の影から、シアンがこちらをジッと睨みつけていた。まだ10代前半くらいの青っぽさがあり、彼女の赤い髪は肩まで伸び、くるくるとカールがかってる。
彼女の左頬は白いガーゼをつけている。よく見ると赤く腫れあがっていた。
「シアン、外に出てもらえるか。」
シアンは老人をチラッと見た。少し俯いた後、彼女は小走りで外へ出た。
「私は見ての通り、足が悪くてな。シアンに生活のほとんどを任せているんだ。あの子は最近保護してな。酷く心の病気があって、他人を信じない。先程の事は申し訳ない。」
「左頬が腫れてましたが、怪我されたのですか。」
ハル老人はグッと口を閉ざした。
秋篠は何か聞いてはいけない事だったと感じ、質問を変えようとしたその時、老人は語り始める。
「彼女は、元々召使いでな。物心つく頃から。主人が酷い者でな、虐待が多かったそうな。彼女は逃げてきたんだ。」
ハル老人は口元を手で押さえ大きな咳をした。
「ああ、それより秋篠さん。この辺りの土地は勿論詳しい。そうだ、教えてあげよう。この辺りの地盤はガッチリとしているが、あの山は木がなく脆い。城を建てるには基礎をしっかりしなくては。」
ハル老人から沢山の情報を秋篠は得た。
山近くは崖崩れがある事、迷いの森以外の城下町に適した候補地、、、
「ゴホッ、ああ、失礼。私はもうそう長くないからな。お前さん人間よりは、長く生きてきたが、私はもう十分だ。だが1番はやはりシアンが心配だ。私が死んでは、あの子は誰を信じて良いかも分からなくなってしまう。1人で生きる者もいるが、レインとは違い幼く、弱い。」
ハル老人は体勢をゆっくり整え、秋篠の目をしっかり見た。
「私が逝ってしまった時は、よろしく頼む。」
「ハルさん、、、」
秋篠とパティは小屋を出て、ハル老人と別れた。帰る2人を外でずっと待っていた番人も付いていく。木の影から、シアンはじっと見つめていた。
「おい。」
目が真っ赤なシアンが出てきた。秋篠とパティは立ち止まる。
「し、しなせないから。だいすきなおじいちゃん。」
そういうと彼女は老人の小屋に走っていった。
魔王城を建築したい!! 秋光 @aokichan
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