ジオラマ2040武蔵野 🚵‍♀️

上月くるを

ジオラマ2040武蔵野 🚵‍♀️





 二十年前のオープン時には前衛の最先端と評された建築物にも歳月の苔が生えた。

 成長した樹木は繁茂し、併設の⛩️は威厳を加え、堀の水面には藻が浮いている。


 特徴あるアート・博物・本の複合文化ミュージアム の一階グランドギャラリーのスペースの大半を使って、見たこともないほど巨大なジオラマが設置されている。


 隙間ないビル群からふたつのタワーが突き出た緻密な都市空間が構成される一方、ゆるやかな起伏の広野に丈高い屋敷林が植えられ、谷戸やとと呼ばれるかいの村がある。


 ゆたかな緑の一帯に、大宮・氷川神社から引いて来た水が標高の高いところから順に棚田のように流されてそれぞれの田を潤し、異国装束の男女が田植えをしている。


 大小の古墳が点々とばらまかれたゆるやかな起伏の地域があり、最大の古墳の頂上に立つ石田三成が、かなたの忍城おしじょうを水攻めにしようとて陣頭指揮をふるっている。


 少し離れた鎌倉・鶴岡八幡宮では源頼朝と北条政子が義経の愛妾・静御前の舞いを見物し、のち舅・北条時政に謀殺されることになる畠山重忠が銅拍子を打っている。


 江戸城では二代将軍・徳川秀忠と御台所・お江の方が一対の雛人形のように並び、幼い竹千代(家光)と国松(忠長)兄弟が、それぞれの乳母や家来に守られている。


 府中・大國魂神社おおくにたまじんじゃでは名物の暗闇祭りが行われており、揃いの法被に身を固めた氏子衆が威勢よく神輿を練り、大太鼓を打ち鳴らし、山車行列を繰り広げている。


 


      🎎




 時代を超えた武蔵野各地の風景がみごとな職人技で再現されている巨大なジオラマから少し離れたところに、虹の橋でつながれた出島が置かれ、そこは未完成の感じ。


 本島とはかなり趣の異なる、一見、SF的な街や駅や住宅地や樹林などが創られ、道を行く人たちはみなおだやかな笑顔で、スマホ画面を見ている人はだれもいない。


 道路にも各種施設にも段差というものがまったくなく、たぶん隅々までAIの力が行き渡っているのだろう、白杖の人、車いすの人たちも安心しきって通行している。


 異様に映る(笑)のは電車の乗客もスマホを持たず、視力の弱い人や高齢者だけが電子書籍(それも紙のように薄く、文庫本のようにしなやか)を読んでいることだ。




      🍀




 あれだけのスマホはいったいどこへ消えたのだろう。

 この未来の出島の人びとの通信手段はなんだろうか。



 ――その答え、あなた自身が考えてみて。(^_-)-☆


 

 出島の横のサインボードにそう書いてあることを知った人たちは、一瞬たじろぐ。

 当たり前だと思って生きて来た世界が普遍でないことは本島を見ても一目瞭然だ。


 ひとつのヒントは、米国生まれの詩人で『原爆の図』(丸木位里・俊)を紙芝居化したアーサー・ビナード氏の言(『武蔵野樹林』創刊号)に見つかるかも知れない。



 ――人間は結局、哺乳類だから。哺乳類として声を出す。汗をかく。

   顔の表情を相手に見せて、何か言って、それで伝わる。(*'ω'*)

   タブレットを通すより、肉体を経た伝わり方が強くて、残るはず。



 さて、これからわたしたち千万人の武蔵野人はどこへ行こうとしているのだろう。

 宮沢賢治が希求した「ほんたうのさいはひ」は、この台地の何処にあるのだろう。





 

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