第4話

ラーガは快晴の空の下、ゆっくりと街外れ歩く。この世界をどうしようか迷いながら歩く。蔓延る草木を掻い潜って歩く。途中で金属の服を外し、まだラーガは歩く。


やがて世界はオレンジに包まれ、ラーガは自然と切り離される。身を隠していた猛獣たちは目を光らせ、ラーガを睨む。


ラーガは銃を手に取る。


「かかってこい…世界を変える俺だ。そう簡単に文明の最下点に負けはしないぞ!」


動物たちは一斉に飛び出て来、ラーガを囲む。


ラーガは銃を持った手を下ろす。


「ダメだ。できない。俺にはできない。」


銃が地面に落ちる。


「俺は結局なんもできない。もう無理だ。変えられない。早く殺してくれ!」


「お前、世界を変えるっていったよな?」


「え?」


気づかぬ内にラーガの目の前には一人の男が立っている。


「言ったよな?」


「ああ、言った。けど、無理みたいだ。」


ラーガは下を向く。


「顔をあげろ。そして俺を見ろ。」


男は大剣を軽々しく振り動物たちを風で後方に飛ばした。


「すまんが、帰ってくれ。」


男が剣をしまうと、動物たちは闇に身を投じた。


「ほらよ、お前の銃だ。みたところ武器を持っていないんだろ?簡単に捨てれるもんじゃないはずだ。」


男は銃を固まったラーガの手にしっかりと握らせる。


「俺はセザール。ただの兵士だ。標準よりちょっとばかし強いけどな。」


ラーガはセザールを見つめる。


「黙ることはないだろ?教えてくれよお前の名前を。世界を変えるお前の名前を。」


ラーガは息を飲んでから口を開いた。


「俺の名前はラーガ。ハリアーから来た。」


しばらく沈黙の時間が続く。


「おいおいそれだけかよ!?"世界を変える"のところをいっぱい聞きたいんだよ。」


「……驚かないのか?」


「何に?」


「ハリアーから来たことに…」


「何言ってんだよ。そこはどうでもいい。お前の世界を変えるって部分に今俺は惹かれてんだ。早く具体的に聞かせてくれ。」


セザールはラーガに近づきながら言う。


「俺…夢のためにハリアーを出て、だけどその夢はテールに到着する前に呆気なく散って、しかも悪いのは俺で。だから何か大きなことしないとちっぽけな俺の存在を認めてもらわないと…死にたくなる。なのに、あんな動物たちにも勝てなくて…だから、あんたにとって楽しい話ではないよ。」


ラーガは後退りする。



「要するにお前は夢を失って途方に暮れてるわけだな。で、突拍子もない夢を掲げたけど、うまく行くはずがないと。」


セザールは鞘から大剣を抜く。


「この剣はな、ハリアーに眠る財宝の一つなんだ。俺は剣を盗んだ罪から免れるために、この大地に降りた。けどな、理由はそれだけじゃない。テールにはこの剣と相対する剣が存在する。」


セザールは剣を強く縦に振ると、刀身から風が強く吹き出た。


「これが、この剣…驟雨(しゅうう)の力だ。しかし、まだ本来の力を発揮していない。こいつはさっき言った反する剣、イルージョンと対峙した時にこの世界を大きく動かしてしまう力を持ってしまうんだ。」


「大きく動かす?」


セザールは剣を鞘にしまう。


「過去に驟雨とイルージョンはこの世界を分断した。魔法の存在するハリアーと存在しないテール。」


「そんな力がそいつに…!?」


「信じられんだろ?まあ、いずれ分かってくる。世界を変える力を望むのなら。」


「その世界を変えるってのも俺にはピンと来ない。一度は分断されたけど、もう一回分断する必要はないだろう?」


「その逆をしたいんだ。」


「逆…なんで?」


「大半のやつは知らないが、この大地の外にはもっと広い大地がゴロゴロと転がっている。大地間の戦争で負けたのがほとんどだ。この大地に住む人の頭はお花畑なのか過去の戦争を知らない。こんな状態ではいつハリアーとテールが負けてもおかしくないんだ。だから2つの大地をまた1つにして、力を倍にしようってわけだ。わかるだろ?」


「ちょっと待て。信じきれない。ピンとこない。そんなに世界ってのは広いのか?ハリアーとテールの2つの大地だけじゃなかったのか?なんだよ外の大地って。」


「面白いだろ?いっぱい考えてきたことが全部パーになる。己がちっぽけに感じられる。みんな空っぽのマスクをかぶって生きているんだ。誰が誰であっても関係ない。向こうからしたらそうだし、こっちからしてもそうだ。だからその中で輝こうとは思わんか?」


「もしかして…」


「そのもしかしてだ。イルージョンをお前に任せたい。俺は次にハリアーで用事があるんだ。だからその間にイルージョンを手に入れておいてほしい。時間はもう迫っている…お前の優柔不断を発動させる間もないんだ。だから頼む…お前にも守りたい何かがあるだろ?」


ラーガは家族を思い浮かべる。


「……。頑張ってみるけど、失敗しても文句は言うなよ?」


「そん時は俺らはもう死んでる。」


「なんだよそれ。」


「世界ってのは意外と早く進むものでな、気がつけば置いていかれてしまうもんなんだよ。じゃあ、俺は死ぬ前に精一杯をやってくる。お前も頼んだぞ。」


セザールは後ろを向いて、夜を走っていく。

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