第3話

「ホントお前はだらしないよな!武器持ってても勝てっこないんだから!テールに行ったお前の姉ちゃんが泣いてるぜ!」


「あんたの傷なんてラクシャンの運命に比べたら何のことないでしょ!?そうやってすぐ辛いふりをするのはやめて!見てて腹が立つのよ!」


今日こそ幕を閉じよう。ラーガはそう決め、ハリアーにある大穴の前に立つ。胸に手を当て、息を呑む。


「ラーガ!何をしてるんだ?今すぐそんなことはやめるんだ!!」


家に居ないのを心配し、探しに来たラーガの父が呼び止める。


「父さん…もう嫌なんだ。辛いんだ。もうこんなの耐えられない。父さんには悪いけど、俺が孤児として生きていた時の方がよっぽどマシだ。そのぐらい心が苦しい。知りもしない姉の型を押し付けられてばっかで…無理だろ。生きれないだろ。意味ないだろ。」


「そんなこと言わないでくれ!父さんはな、お前にそんな顔してほしくて拾ってきたんじゃない!頼む!戻ってきてくれ!」


「世間体でしょ、それ。心の奥からそれ思っているの?思ってるわけないよね?」


「何言ってるんだ!!」


「もういい!近付かないで。もう降りるから…終わるから。」


ラーガは片足を上げる。


「やめろ!」


その叫び声と共にラーガの身は再びハリアーの大地に押し付けられる。


「父さん…!?」


「お前は……姉の、ラクシャンの代わりだ!ラクシャンの代わりとしてお前を拾った!所詮お前はそんなもんだった!だけど…お前はラクシャンじゃない。ラクシャンとは良くも悪くも全然違う…だから、存在を否定しないでくれ。」


「凄いな、ラクシャン。」


「?」


「俺の慰めの中でも更にまだその存在感が浮き立たされる。」


「ち、違う!そんなつもりは…」


「大丈夫。もう決まったから。」


ラクシャンは体を起こし、大穴を見つめる。


「待ってろよ、疫病神。」


その目には炎の如く燃える闘志と、雨の如く流れる涙があった。



あれから5.6年経ち、彼の願いは彼の優柔不断で叶わぬものとなってしまった。そして、そこに偶然居合わせた男を標的にすることで、彼は救われようとした。だが、実際そんなことはなく、救いの念はピンピンに尖って打ち返され、彼の心は今にも爆発しそうだった。


「なんであんなに強いんだ。武器すら持っていないのに…」


ラーガのグラディウスへの感情は憎しみや憧れが何回も交差して彼自身でも何がなんだか分からなくなっていた。


「俺はどうしようもない!いつも人を気にして、そんな自分が凄いと思ってた…人に気を使えてると自負して…だのにいざとなったら何もできない、ずっと追い続けてきた夢にも真剣に付き合えない…今だってこうやって声に出すことで、誰かに助けを求めている!なんなんだ俺は!なんでなんだ俺は!もうダメだ。耐えきれない。やってやる!もう止められないぞ!俺の人生をかけてこの世界を変えてやる!変えてみせる!」


ラーガは沸々と湧いてくる謎の感情に身をとりこまれ、その場を後にした。



「……?」


平野を歩いていたグラディウスは人集りを見つけ、その方を見つめる。


(おばさんや母さんたちがいる。あんな小規模な墓が夢を追い続けた人への最期の贈り物か…。)


グラディウスは視線を前に戻してそのまま歩き進む。


(夢か…)


グラディウスは石ころを蹴る。跳ね飛んだ石ころは再び地面に落ち、コツンっと高い音を鳴らした。

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