滅びかけた世界で青年は出会う
いちのさつき
青年は出会う
その城は辺境の島にあった。大部分の壁が崩れ、城の原型すらなくなりつつあった。雨が止み、日差しが灰色の雨雲から降り注ぐと、神秘的だが悲しく思わせるものがあった。住民でさえ、名前を知らない忘れられた城である。更に近くの住処が消失し、訪れる可能性がより低くなった。数十年もすれば、人々の記憶どころか、跡形もなく消え去る。本当に忘れられた城となるだろう。
珍しく青年が辺境の城にやってきた。コートを纏い、ゆるい半ズボンを着て、革のブーツを履いていた。飾りというものはない旅人の格好だが、質の高いものを使っていることが分かる。絹のように綺麗で短い金髪が風になびきながら、彼は崩れかけている城に入る。
城であるという名残は既にない。太陽の光に当てられた海と足元にある『ⅩⅢ』の本だけだ。青年はしゃがみ込んで、分厚い本を手に取る。青年は言葉を出した。
「これで第13番聖典か」
聖典はかつて天界から地上に贈ったものだと言われている。0からXXIまであり、それぞれにタイトルと意味が施されている。それを元に人格を付与し、古代の国を作り、役目が終わり次第、聖典の姿に戻ったという話がある。どこまで本当かは分からない。だが青年はその言い伝えに縋っていた。
何故縋るのか。復興をしたいからだ。神々が怒るような行為をした愚かな者がおり、天罰をくだされた後が今なのだ。天空から雷と大雨と嵐。地上では噴火や地震。海上からは大津波。ありとあらゆる知的生命体が住まうところに与えた。自然に逆らえることなんて出来ない。築いたものが破壊されるだけではなく、命を失う者が多かった。
青年は本を開ける。表紙の裏に逆さまのカードが貼り付けられていた。白い馬に乗り、黒い旗を高くあげている骸骨の騎士の姿がカードに描かれている。カードに触れるとほんのりと温かい。そう感じた瞬間、貼り付いていたはずのカードが勝手に取れた。宙に浮き、ピカリと光る。青年は思わず目を瞑る。そして聖典は彼の手から離れ、光るところに飛んでいく。誰かが喋る。
「これが新たな始まりというわけか。よろしく頼むよ。人間」
国は滅んだ。だが人はいる。どれだけ災厄があっても、この聖典にとっては新たな始まりの通過点でしかないようだ。
「ああ……マジか」
ようやく目を開けることが出来た青年は驚いた。縋っていたとはいえ、本当に聖典が人のような姿を取っていたとは思ってもみなかったようだ。
「マジだよ。マジ」
第13番聖典は爽やかな白い騎士様だった。相棒の白い馬もいる。両手には聖典と黒い旗がある。不気味な象徴を有しているのだが、整った顔立ちと良い花の香りで払拭している。騎士様が微笑み、手に持つものを見えなくした。その後、右手を差し出してきた。
「さあ。行こう」
握手を軽く交わし、何故か青年は騎士の馬に乗せられている。困惑しながらも、突っ込む精神を忘れない青年は聞く。
「何処に!?」
騎士様は笑って答える。
「どこって俺の仲間達のとこにだよ!」
これが青年と第13番聖典との出会いである。忘れられた城から出発をし、これから様々な仲間と出会い、復興していくのだ。
滅びかけた世界で青年は出会う いちのさつき @satuki1
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