第73話 最果ての世界

「ザイゲル....バシティアラーズ」


「今、茜、お前の頭にも聞こえただろ。これはな、お前の時間を止めてしまう魔法だ。だが思考だけは動き続けている。動けないだろ。口が間抜けに開いたままだぞ、キヘヘ。そうだ、せっかくだからお前に悪戯してやろうかね。あの偉大なるアカネ様が悔し涙を流すのも面白いな。どれどれ。止まった時でも涙は流れるかな?」


リュウセイが舌を出しながら私の空いたままの口に押し入れようと顔を近づけた。だから私は言ったのだ


「私はこの私に魔法をかけることを認めない」


そして私の拳がリュウセイの左の頬にめり込むと12.5m先まで吹き飛ばした。


「アガ.. ハガ.... ハガガ..ッ....」


「え? 何? 何言ってるかわからない。早く魔法で治したら? 何ならこのサイフォージュの枝でもかじる? ああ、頬骨が砕けてかじれないか....」


リュウセイの左手が光ると頬を治療した。


「あ、茜、お前.. 何をした! そ、その目はなんだ! その白色の右目は! 」


「そう。右目に出たのね。よかったおでこが割れて出るとかしないで。教えてあげるわ。これが『審判の瞳』よ。トバリ.... 私の何代前かわからないおじいちゃんが持っていた秩序の加護者の力よ!」


「 ば、馬鹿な! お前は『時の加護者』だろ!」


「そう、それはおばあちゃんの力。トバリを追いかけたアカネは異世界で、つまり私たちがいた世界でトバリの子孫に出会うことができたのよ。そして私はその2人の孫『一ノ瀬 茜』よ」


「そ、そんな、お前に2人の力が!?」


「3人の加護者がどのように永久の時を歩んできたか私にはわかったの。時の加護者は『永遠の時』、運命の加護者は『魂の転移』、秩序の加護者は『子孫へ』受け継がれる」


「だったら、お前に『時の加護者』の力があるのはおかしいだろ」


「そうね。でも、それを今から証明してあげるわ。あなた、歳をとらないって言ったわよね。今、禁言を解除してあげたわ。私に魔法でも何でもいいから、私の歳をとらせてみなさい。私は.... 妹ヨミの力であなたの時を掴むから!」


「ははは。面白い。その誘いに乗ってやろう」


『エリサイド ライサ、ミドラン ラージン』


リュウセイの魔法の詠唱が世界に響くと私も彼の肩を掴んだ。


「ふはは。俺はさらに『永遠の氷結』という時が停まる魔法をかけた。さぁどっちが先に骨になるかな」


私には見えた。リュウセイにも見えるのだろうか。この世界の時が見える。人が生まれ、一生懸命生きて土にかえる。森も、そのほかの生物も全てが自分の生を見納めると、その次の生命への礎となり、新たな命が生まれる。それが物凄い速さで見えるのだ。


「ははは。どうした茜、お前、鼻血が出ているぞ。ひとつ教えてやる。私とて神だかわからないが、何かから力を授かっているのだ。お前たち加護者と同等だ。見くびるなよ」


一気に時が飛んでいく。生命は幾度も存在の危機を乗り越えていく。もう何億年たったのだろう。


「お、おい。茜、もういいだろう。お前にも見えているはずだ。もう人間など見当たらない」


「まだ、生命はあるわ」


「わ、わかった。もういい。やめろ! 引き分けだ」


振りほどこうとするリュウセイの肩をさらに強く握りしめる。


何十億年すぎたかわからない。


「茜、もう意味がない。このまま続けても勝負などつくはずがない。意味のないこ―」


その瞬間、地球は命を終えた。そしてそこに存在していたリュウセイの肉体はホログラムのスイッチが切れたように一瞬にして無くなった。


「リュウセイ.... 教えてあげるわ。『3主の力』は魂の力なのよ。地球が無くなっても魂の力は永遠に続くのよ」


そして私の右目の光がほのかに空間を照らすと、そこに堂々と私の事を待つシエラの姿が見えた。ひとつ歩を進めるとリュウセイの作った異空間が消えていった。


「お帰りなさい」

「うん、ただいま」


シエラと固い握手を交わした。

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