第71話 友の抱擁

私は「時の加護者」アカネ。

リュウセイによって人質の駒とされたヨミ。この腕の中で彼女の最期をみとった。あの日以来、ティムが私に言った言葉「真の力に向き合うべき」が頭から離れなかった。


—フェルナン国 アリアの町—


「アカネ様、アカネ様!!」


「あっ.. 何? 」


「『すっかり暖かくなりましたね』って言ったんです」


「うん ..そうだね」


「今夜はアコウが腕を振るって故郷ウェイト国の名物料理を振る舞ってくれるらしいですよ。アリアの町の人々はもちろん、ラヴィエやジイン王も来ます。何か僕は今までこんなこと思わなかったんですけど、久しぶりにみんなに会える気がして楽しみなんです」


「そう ..よかったね」


「 ....  」


その日の夜、「元の民」を壊滅したことに対する祝勝会には女王国カイトからも使者が来ていた。クリスティアナがジインと直接顔を合わせるのはもう少し時間が必要なようだ。アコウの料理は凄くおいしく、誰もが一口目を口に運ぶと言葉を失い、夢中で食べてしまうほどだ。


その中でも大食いぶりはシエラが他の追随を許さなかった。


酒も差し出されほろ酔い気分になっているラヴィエはアコウにべったりだ。アコウはジイン王から鋭い眼光を向けられて困っていた。


「ねぇ、アカネ様もお酒一杯くらいどうです? 」


「ん ..んん いいよ。私は未成年だから」


「ふ~ん。変なの。ここにはそんな決まりないのに」


「そうだね。これはあっちの世界の決まりだもんね.. 」


目の前に数匹の鳩が降り立ち、私とシエラのまわりをエサを期待しながら歩いている。


「 ....ねぇ、アカネ様、僕はね。アカネ様の事が大好きだよ。ちょっとおっちょこちょいで、直ぐにすねたり、泣いたり、笑ったり、そんなアカネ様が好きです。昔のしっかりもののアカネ様ももちろん好きだったけど.. ほら、僕は分身でしょ。だからね、何ていうのかな.. 今のアカネ様は僕の大切な友達っていうのかな? そういう感じなんだ.. だから、アカネ様、元気になってほしい」


「ありがとう、シエラ。本当にうれしいよ.. でもヨミはどうだったのかな。14歳のあの子をずっとひとりぼっちにしていたのは間違いなくアカネなんだ。トバリを追いかけて自分勝手にこの世界をほっぽりだして。そのせいであの子は悪いことに手を染めて、そのせいでフェルナンでは何人もの人が亡くなった。このアリアの町だって.. あの石碑に刻まれた数だけ人が死んだ。王国カイトは壊滅させられそうになって.. みんなアカネのせい― 」


シエラが私を抱きしめた..


「茜、見てみなよ。ここにいる人の顔。町の人々、アコウ、ラヴィエ、ジイン王。みんな笑顔じゃないか。その笑顔は茜のおかげなんだよ。そして僕がこんな風な思いになっているのも茜のおかげだよ」


「 ..ウェ.... ゔか.. ゔが.... シエラのくせに.. 」


私はシエラの胸で思いっきり泣いた。太鼓の音が大きいから思いっきり声を出して泣いた。


祝勝会は朝まで続き、やっぱり最後は飲兵衛の親父どもだけが残っていた。


***


―数日後—


「俺も付いていこうか?」


「ううん。アコウにはここにいてほしい。王都フェルナン、ラヴィエを救えるのはアコウだけだよ」


「アカネ、気を付けてね。私、この王都フェルナンより祈っています」


「うん。ラヴィエの祈りならきっと神様も味方してくれるね。力強い」


アリアの町の門を出た私とシエラが向かう先は、王国フェルナンよりもはるか西の辺境の地。かつて「秩序の加護者」のトバリの『審判の瞳』によって砂漠になった地だ。砂漠の名はかつてのあった都の名に由来して『デュバーグ砂漠』という。


「でも、なぜそこにあいつがいると思うのですか? 」


「あいつは大昔に私たちにやられたことを根に持っている。言い換えれば、こだわってる。だからあいつは『審判の瞳』によって自分の軍が町ごと消し飛ばされたことにこだわっている気がするの。それに闘いの中で、私はあいつの服に付着した砂を見た。きっとあいつはデュバーグ砂漠にいる」


・・・・・・

・・


ラインとソックスの背に乗り王国フェルナンを横断する途中、『運命の祠』の近くを通ったが、シャーレとクローズには声をかけなかった。きっとシャーレは戦いには参加しないだろう。彼女は進んで運命を見守り続けるだろうと思ったからだ。しかし、本当のところは、あのリュウセイの力の前にはシャーレとクローズでも歯が立たないと思ったからだ。


では、私たちはどうだろう。一度、完敗しているのになぜ自らリュウセイに挑むのだろう。


その理由はたったひとつ、私には『勝算』があったのだ。

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