第70話 狂獣の魂は何処に
私は「時の加護者」アカネ。
リュウセイは私たちに歪んだ憎しみをぶつけていた。その歪んだ男は、世界に向けて一匹の狂獣を放っていた。おそらくは奴の退屈しのぎなのだろう。だけど、私たち以外にも、世界にはしっかりと正義が存在するのだ。
—イバニス国の森—
「ふざけやがって! ..なめるなーっ!! 俺は最強なんだ! この世界で俺の前に立つ奴などいてたまるか! くそぉ! おのれ~..」
赤髪のゼロはかつて最強の剣士と謳われたが、今ではイバニスの森で狂気に取り憑かれていた。アコウに敗れ胸から上下に両断されたゼロの体はミゼに回収されると、リュウセイの魔法により再生された。屈辱の炎に焼かれる思いのゼロだったが、リュウセイの言葉がさらに追い打ちをかけた。
『おまえはもう限界だな。それ以上は強くならない。まぁ、極東の王国イバニスに行って適当に暴れて国を混乱させてきてくれ。それくらい出来るだろ、お前でも』
森の中の動物、猛獣、鳥やリスなどの小動物まで目の前に動くものなら片っ端から斬り刻んだ。
「しっ、静かに! 」
「 ..う..ん」
草陰に隠れた小さな子供2人は震えながらゼロが通り過ぎるのを待っていた。しかし、運の悪いことに、彼らの頭上のオウムが枝を揺らしながら飛び立った。
『誰かいるのか! 俺の前には誰も立たせない! ゼロ..ゼロだぁ!! 』
近くの若木がゼロの剛剣によって断ち切られた!
「キャッ! 」
倒れた木の振動に驚きの声をあげてしまった。
『やはり居やがったな。しかも醜悪な耳を持ったガキが2人.. 今、俺を笑っていたのか』
「笑ってないです」
「 .. 」
『口答えするな! 下等な生物のくせに.. 俺の前に存在することが既に罪だ。いたぶり殺してやる。オラァ』
ゼロの剣が鋭く子供の腕を斬りつける。
『どうだ.. 反抗した罪を.. そうだ.. また思い出した.. あいつめ、俺の腹に拳を当て壁まで吹き飛ばしやがった。許せん。 ゆ..るせん.. ぐあぁ!! 』
もはやまともな思考ができないゼロは、その大きく重い剣を2人に叩きつけようと、上段から振り下ろした!
—ガギンッ!!
銀色の火花が飛ぶと、ゼロの剛剣は弾き飛ばされた。
『な、なんだ!! 誰だ!? 』
「俺は『大切な命』を守る者だ」
その男はオレブランに姿を変えた村人を探す旅をするグレイブ使いのロウゼだった。
「あ、あぁ、ロウゼ様」
「ロウゼ様!」
オレブランたちはロウゼの近くに走り寄った。
「お前たちケガはないか?さぁ、俺と一緒に新たな村へ行こう」
ロウゼはオレブラン2人とそこから歩み去ろうとした。
『お、俺を無視するな!』
充血した目玉がもはや飛び出るくらいに見開いたゼロの顔は、まるで狂獣のようだった。
「やめろ。俺はもはや無暗に闘いたくはないのだ」
『なめた口ききやがって、このまま素通りできるとでも思っているのか?』
ゼロが剛剣を構え強い殺気を込めると、ロウゼは黙ってグレイブを握った。
『ふふふ、そうだ。俺を目の前にして生きて帰れるはずないだろう。そうか、お前も俺をなめてるのか?なめてるんだろう!』
「 ..なめてなどいない。あなたは、あの赤髪のゼロだ。俺よりも遥かに上の剣士だった」
『「だった」だと? ふ、ふざけるな! 俺は世界一の剣士だ!!』
「いや、もはやあなたは剣士でもなければ、世界一でもない。悪いがあなたにはここで倒れてもらう」
『そうか.. ははは。思い出した。貴様は腰抜けのロウゼだな』
「ああ、俺は腰抜けだったよ。だから、俺はその償いのために生きるとシャーレ様とお約束したのだ。それが私の運命の道だと」
ロウゼがそう言うと、彼の髪は銀色に変わった。
『ひっ! ..その髪、貴様もか!? ふざけるなっ..—』
その瞬間、銀色の光がゼロを通過した。ロウゼの振るったグレイブはもはや斬撃という概念を超えたものとなっていた。ゼロの体は正確に真ん中で2つに開き地に落ちた。
「俺は命を守るために生きていくが、お前の中に魂はゼロだったな」
ロウゼはケモ耳の子供を連れて、新たに造った村ヴィタニマへ向かった。ヴィタニマの語源は「何よりも尊い魂」。ロウゼが育った国の伝説の人の名にちなんで付けられた。
その人物の髪もまた銀色をしていたという。
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