第69話 可愛い妹よ....

私は「時の加護者」アカネ。

私とシエラはリュウセイの魔法の前に完敗した。だが、光の体を持つ「秩序の加護者」のトパーズ=ティムにより助けられた。土壇場でリュウセイはヨミを人質の駒としようとしていた。おそらくヨミはどこかの時間軸の「時の空間」に閉じ込められているに違いない。私はヨミを助けたい。理由ははっきりしないが私の魂がそう叫んでいた。


—シュの山 シドの森—


シエラに渡されたリュウセイが投げ捨てたブロンズの懐中時計を手に取ると、時計は私の左手に溶け込んだ。そして浮かび上がった左右の時計を同期させると2つは同じ時を刻んだ。


「『時の空間』よ、開け!」


霞が晴れていくと水色の空間が広がった。


「アカネ様、私が先に入ります」


苦しそうな息づかいが聞こえてきた。 そこには傷つき弱り果てた老婆が横たわっていた。


「..ア、アカネ.. さま.. 」


紛れもなく年老いたヨミだった。


ヨミを抱きかかえ空間からでると、ティムがまだ待っていてくれた。


「ああ、ティム、あなたもいたのね。懐かしいわ.. アカネさま、すいません。わ、わたし、年老いたくなかった.. い、いつまでもア..カネさまの妹でいたかったの.. 」


「わかってる。ごめん。ごめんね、ヨミ」


ヨミは既に致命傷の傷を負わされていた。懐中時計を取り出すために潰された右手、「時の加護者」の眷属の命である両足の半分は黒炭となっていた。


「わ、わたし、いっぱい悪いことしちゃった。ごめんなさい。もう償いようがない.. きっと私の魂..闇に落ちちゃうね.. こんなおばあさんになっちゃったけど.. 昔みたいに『お姉ちゃん』って呼びた.. ガハッ.. 」


「ヨミ! 」


「あぁ、もう少し待って神さま.. 目の前が真っ白になってきたよ.. まぶしい.. 」


空を飛ぶ光鳥シドから光りの羽が無数に落ちて来る。その羽が優しくヨミの体を包み込んだ。彼女の身体が14歳の女の子に戻っていく。光鳥シドが彼女の最後の望みを叶えてくれたのだ。


「はは.. うれしいな.. これで、わたし妹に戻れるよね.. お姉..ちゃん.. 」


そう言うとヨミの身体は力を失いアカネの頬に近づけた左手はポトリと地に落ちた。


その身体からエメラルドの光の玉が抜けでると私の身体に入って来た。


「そうだね。私の可愛い妹よ。おやすみなさい」


光の玉はヨミに与えた恩恵そのものだった。その中には滅びた村に取り残された少女とアカネとの出会い。そしてヨミと名付けられ、ともに歩んできた想い出が詰まっていた。笑い、泣き、時にはケンカをして、仲直りして.. その想いの洪水に涙が止まらなかった。


私たちはヨミをサイフォージュの森に埋葬した。ここならきっと傷ついたヨミの心を癒してくれそうな気がしたから。


「ところで、ティム。何で出てきた? ティムはこの闘いに関係ないじゃない。お前が天邪鬼ってだけじゃ理由にならないと思うが..」


シエラがきつめに理由を聞く。


「まぁ、こっちにもいろいろと事情があるんだよ。しかしあの闘神といわれたシエラがピンチになるとは思わなかったな」


「もう言わないでくれ。それじゃなくても落ち込んでいるんだ.. 」


シエラががっくり肩を落とす。


「ううん。シエラは私を守ってくれたじゃない。私こそ未熟なせいでごめんなさい」


「そうだな。アカネは未熟だ。というよりもお前はもっと自分の真なる力を知るべきだ.. さて、長居しすぎたかな。それじゃ、しっかりな、アカネ。お前ならきっと大丈夫だ」


「 私なら大丈夫?」


ティムは大きく頷くと、太陽の光の中に溶けていった。


「どうしたんです? アカネ様? びっくりしました? ティムは実態を持たないトパーズなんです。少し光鳥に似た性質を持ってるんですよ 」


「 ..ねぇ、トパーズって主の分身だって言ってたよね。クローズもそうなの? 」


「クローズ? はい。クローズの姿もその時のシャーレ様の依り代の姿ですよ」


「シエラも先代アカネの姿だよね。じゃあ、ティムもそうなんでしょ?」


「アカネ様? 」


『茜。お前なら大丈夫だ』あの言葉とその後見せた『はにかんだ笑顔』

私の記憶に残っている。


あの懐かしき言葉。


そして今、おぼろげに思い出す昔に見たあの写真.. 若いおばあちゃんの肩を抱くおじいちゃんの姿。


そうか。私のおじいちゃんはきっと..

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