第68話 最後のトパーズ

凄まじいスピードでその闇の炎を纏った手刀は私の背中を貫こうとした。そして、その闇の炎を恐れることなく、誰かがリュウセイの手を握っていた。


「やれやれ、仕方がないなぁ。今回だけ助けてやるか。お前に死なれては困る」


「人?光の人?」


「ああ、そうだよ、アカネ。少しそこで休んでいろ」


光だけどわかる。懐かしさを感じる。そんな姿かたちをしている。


「 ..ぉまえは.... ティム」


倒れたシエラが光の人を見てそうつぶやいた。


「よう、シエラ、元気だったか.. そんなに元気じゃないようだな」


「 ..うる....さい。この天邪鬼め、だけど.. なぜだ」


「だれだい? 君は? ..私の手刀を素手で握って何ともないのか? 黒い業火の手刀だぞ.. 」


リュウセイは自分の知らない存在であるティムに対して、わずかながらイラついているように見えた。


「おい、シエラと会話しているのにじゃまするな。まぁ、いい。俺はティムだ。シエラとクローズの同僚だ」


「同僚?..トパーズか? 」


「その通り」


「でも、せっかくの登場だけどすぐに眠らせてやるよ。そのシエラのように。そうそう、闘うのも面倒だから文字通り 『眠れ』 」


リュウセイは指印を結んだ。だが..


「 ん? こんな昼から眠れないね」


ケロッとしているティムに向けて何度も指印を結ぶリュウセイが滑稽に見える。


「 ..な!? なぜ眠らない。それなら目が覚めるような衝撃に眠ればいい。アカネの様にのたうち回れ! 」


リュウセイが渾身の一撃をティムの腹に打ち込んだパスン....全ての衝撃を吸収し、その瞬間に湿った花火のような音が鳴った。


「な、なんだと.... 馬鹿な! まるで手ごたえがないだと!? 」


リュウセイの炎を爆発させた凄まじい拳はティムに当たっていた。しかしティムはその拳が腹に届いた瞬間に同じスピードで後退して威力を殺しているのだ。ボクサーが行うスリッピングアウェイと同じ原理だ。それを完璧な精度で体全体を使い行ったのだ。


「じゃ、今度はこっちの番な」


リュウセイの顔面に普通にジャブが入る。


「 ..がっ.... 」


顔を押さえる指の隙間から鼻血がしたたり落ちる。


「汚ねぇ。手についてないだろうな。まぁ、いいか。さて、よくもアカネとシエラをいたぶってくれたな」


『ハリュフレ.. シオ』


リュウセイの詠唱により憤怒の業火がティムを包んだ。


「 ..フ..ハハ.... 骨が白い粉になるまで燃やしつくせ! 業火よ! 」


ティムを覆っていた業火が、より激しく、地獄のような赤い炎に包まれる!でもなぜか私にはわかっていた。その攻撃は効かないことが。そして、ティムが次に口にする言葉も。


「「この世界の敵となり、秩序を乱す力を私は認めない」」


ティムがそう唱えると業火は空気の中に消えていった。


「 ば、ばかなっ! 封印魔法!お前、魔術師か? 」


「魔術師? そんなんじゃない。俺は『秩序の加護者』のトパーズのティムだ。それより、あと5,6発殴り足りないな 」


ティムが指をバキバキ鳴らす。


「ま、待て!! ..俺に何かあれば、ヨ、ヨミが無限空間に落ちるぞ! 」


「あっそ? だけどな、今更、ヨミなんか関係ないね! 」


「ダメ!! ティム! 私、ヨミを救いたい。ヨミを助けて 」


「え? アカネ、それ真面目に言ってるの? 」


するとリュウセイがブロンズの懐中時計を空中に投げつけた。皆がそれに気を取られた隙にリュウセイは亜空間へ逃げてしまった。


「ほらっ! アカネが変なこと言うから逃げられたじゃねーか」


「ごめん、ティム。ごめん.. 本当に.... 」


私はまた目の前が真っ白になった。そして夢を見た。


「お姉ちゃん、どこにいっちゃったの。ねぇ、お姉ちゃん。私だけ置いて行かないで!寂しいよ..お姉ちゃんに会いたいよ」


そうか.. あの夢の女の子って.. ごめん。ごめんね、ヨミ。


『茜、大丈夫だよ。茜ならきっと大丈夫』(この言葉は.. 私に最初にその言葉を言ったのは..おじいちゃんだ)


・・

・・・・・・


「大丈夫か?アカネ! 起きろ! 助けるんだろ、ヨミを」


ティムの声..


「アカネ様、奴が投げた懐中時計です。早く助けないとヨミは無限空間に投げ出されます」


シエラの声だ..


「 ..あっ、そうだ」


寝ている場合じゃない。時計を同期させて、空間を開かなければ!シエラに渡された懐中時計が私の左手の中に入り込んだ。右の時計と左の時計が同期し同じ時を刻んだ。


「『時の空間』よ。開け!」

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