第67話 圧倒的強さ
私は「時の加護者」アカネ。
カレンの身代わりに「元の民」首領ヨミの攻撃を受けたロッシは90歳の老人になってしまった。愛する人を守れたことを誇るロッシ。シエラは「理不尽な悪から世界を救う」と彼に誓う。
私たちがハシルの巣に入ると、天災から3つの卵を守ろうとした光鳥ハシルの亡骸を発見した。だが光鳥ハシルの生命力は卵に引き継がれ、今ここに新たな光鳥が誕生した。
—タイサント中心 ドライアドの森—
今でこそ希少価値のあるサイフォージュの樹は、太古から光鳥の巣の近くに群生する木々として存在していたという。光鳥の生命力を身近に受けたサイフォージュの葉や枝は薬用として万能であった。
ここタイサントとの中心で光鳥ハシルは永久蝶(とこしえちょう)に生命力を与える代わりに世界の移り変わりをそれらから見ていた。当然、シュの山で起きた獄鳥フロアの呪詛のことも知っていた。
「『時の加護者』よ。どうか私の子供シドを『シュの山』へ、クリルをフェルナン国の北の山脈へ無事に届けてください」
「うん。わかった。でも..」
「呪いのことですね?大丈夫です。私たちにとって獄鳥と冷鳥を鎮めることは世界の調和のひとつなのです。この子たちがその役目を果たしてくれます」
「ほんとに!じゃ、カイト国だけじゃなくフェルナン国も豊かな国に戻れるの?」
ドライアドは頷いた。私とシエラがひとつずつ卵を抱くと、ドライアドは祈りを捧げてくれた。
「『時の加護者』アカネと守護者シエラの旅に星の祝福がありますように」
光鳥レイが空から高く澄んだ声で鳴いていた。それは離ればなれになる兄弟へ別れの言葉と希望を呼び掛けているようだった。
私は胸元に抱くこの卵を光鳥レイに向けると、空気を吸って大きな声で言った。
「任せておいて!『時の加護者』の名にかけて絶対に守るから!」
―カレン調査船―
南極タイサントを離れる船の中で、シエラはリュウセイについて気が付いたことを話してくれた。あのリュウセイの魂は間違いなく先代アカネにより無限空間に落とされた魂だというのだ。おそらくは時の歪みから発生した「時の狭間」を利用して抜け出すことに成功したに違いない。そして、依り代となる流星をこの世界に召喚したのではないかと推察していた。
とにかくリュウセイという男はとてつもなく強いのは事実だ。そして両手、両足を粉砕し苦しめたシエラと無限空間に落とした先代アカネに歪み切った憎しみを抱いている。
「ねぇ、シエラ。先代アカネの恨みもやっぱり私に受け継がれるのかな? 」
「当然です」
「うっ..やっぱりそうだよね」
なんか質の悪いストーカーに狙われている嫌な気分がした。
―シュの山―
それから数日をかけ私たちはギプス湾へ到着するとそのままラインとソックスに乗って「シュの山」へ急いだ。
シュの山の麓の西側は既に森さえも消滅していた。ここに住んでいた小動物たちの亡骸も枯れた砂に埋もれていた。
「シエラ、じゃあ、光鳥シドの卵から行くよ」
「はい」
卵を砂の上に置くと卵と地面が共鳴しはじめた。卵から発せられるリズムパターンがある波長が時々砂漠の砂を揺らしていた。やがて卵が眩しく光ると天に向かって柱をたてた。
「タイサンドの時と同じですね」
「うん、そうだね。いよいよ来るよ!」
光の柱は集約すると一気に大地へ広がった。辺りがサイフォージュの香りに包まれると、空から優しい光が降り注ぐ。それは光鳥シドから注がれた生命の光だ。
大地からサイフォージュが芽吹くと一気に育ち、シュの山の麓はサイフォージュの森として復活した。いつの間にか熱風はおさまり、山からは穏やかでさわやかな風が吹いている。獄鳥フロアの血の呪いは調和されたのだ。
「これで女王国カイトは復活するね。クリスティアナ女王も喜ぶね」
「そうですね。では次はフェルナンですね、アカネ様! 」
何千年前の冷鳥フロワの討伐で起こしてしまった事とはいえ、やはりシエラの心には棘が刺さっていたのだろう。このシュの山の奇跡を目の当たりにし、同じようにフェルナンが穏やかな地に戻れると確信したシエラは安堵の表情を浮かべていた。
私たちがフェルナン国側のサイフォージュの森に通る小川を渡った時だった。
「まさか、まさかの奇跡続きだな。大岩の中の卵が生きているとは思わなかったよ。しかも余計なことまでしてくれたものだ。奇跡を何度も起こすのは映画でも陳腐になるもんだよ」
声が聞こえると同時にシエラが後ろを見もせずに蹴りを繰り出した。『パスン』とキャッチボール鳴るような軽い音でシエラの蹴りを受け止めたのはリュウセイだった。
「アカネ、私とこんなにも早く再開するのが意外そうだね。でもよく考えてごらんよ。君たちがその馬に積んでいるものを考えれば、私が現れるのも当然さ」
『馬』と呼ばれたラインとソックスは鼻を鳴らして怒っていた。
「『卵』を奪うつもり? 」
「まぁね。そんな面白そうなもの見逃す手はない」
「おまえ、僕らをなめてるだろう」
私もシエラの意見に同意だ。リュウセイは私たちをなめている。
「 ..なめてはいないよ。ただ私のほうが強いだけだよ」
「それをなめているって言うんだよ」
「わかった、わかった、そういきり立つなよ、シエラちゃん。相手してやるからかかってきな」
言い終わらないうちにシエラの渾身の一撃がリュウセイの顔面をとらえていた。
「え? 」
シエラは顔の前で寸止めしたまま動かない。いや、動いていないように見えるのだ。
[ どっかーん! ]
リュウセイはまるで子供のように擬音を口にしてシエラを蹴り飛ばした。
「シエラ!! 」
「ゲホ.. アカネ様、気を付けて..ください」
リュウセイは冷笑しながらシエラを見下していた。
「今何をやったか聞きたそうだね。うん、教えてあげるよ。私がやったのは時空間魔法さ。シエラを包む空間の時間だけを極限まで遅くしたんだよ。するとこれが物凄く高質なクッションになるんだ。そして攻撃が私に届くことがないんだよ」
「 ..ライン、ソックス全力で逃げなさい!! 」
リュウセイが『ハリュフレシオ』と唱えて指印を結ぶ。
「キャン!! 」という叫び声がするとラインとソックスの周りに業火がはりめぐらされた。炎は意志を持つヒョウのように2人を見据えている。
「 ああ..『馬に動かないように』と注意した方がいいよ。その炎は動くものにとびかかるからさ」
「ライン、ソックス ..じっとしてなさい」
「さて、さて、さて、アカネ、次に私は君の腹に渾身の一撃を与えて風穴あけるけど、『無限の守り』はどうでるかなぁ.. シエラ」
「そんなの僕が許すはずないだろ」
シエラは体に重りをつけられているように力を込めながら動いている。リュウセイは私を攻撃することでシエラをいたぶろうとしていた。やはり私への恨みよりもシエラへの憎しみの方が強いようだった。
「さぁ、いくぞ! 魔法でスピードも威力も上乗せってやつだ。見切れるかな? 」
モーションもない初動から光に近いスピードだ。シエラが動けないなら私が自分自身で受け止めてやる。
ガギンと岩が砕けるような音がする。シエラがその身体でリュウセイの脚を受け止め、しがみついている。
「シエラ!」
「アカネ様、僕はアカネ様を守るためにあるんです。僕を頼ってください」
シエラの手首や足首は砕けた岩のようにひび割れていた。
「驚いたなぁ。さすが『無限の守り』だ。だけど.. 放しやがれ! 人形!! 」
サイコキネシスだろう。 大きな樹木がシエラの身体めがけて飛んできた。それでもシエラは自らの使命の為に一歩たりともよけずに私を守る壁となっている。
自分の頭が沸騰しているのがわかる。感情任せになったらだめだ。でも、こいつだけは!あのタイサントの大岩を砕いたように、全てを粒子に変える蹴りをぶち込めれば..
「女子高生がそんなに怖い顔するもんじゃないよ、茜ちゃん」
頭に血が上った。考えなしにリュウセイへ攻撃していた。そんな攻撃が通用する相手ではないのに。
私の顔面に衝撃の津波が押し寄せた。リュウセイの姿を見ながら身体が地面にバウンドしている。やがて頭が白くなり耳鳴りだけが鳴り響いた。
「 -いな。–して–まごは-- ぉ-ぃ、立たないと卵は -らっていくから」
ミントの香りがする。いや、サイフォージュの香りがわずかだけ体を回復してくれているんだ。そうだ..寝ている場合じゃない。立たなきゃ。
「まだ.. まだやれる.. 私はみんなに誓ったんだ。お前なんかに..」
「まだ楽しめそうだね。クククク。 でもスピードが出せないお前と上乗せされた俺様では勝負は見えている。次で終わりだな。じゃぁなクソ女! 」
リュウセイのどす黒さがついに表面化した。
心の黒さにも負けない闇色に手刀が光っている。あれはきっと何でも貫くのだろう。
..だけど.. だけど..
「 負けてたまるかぁ! 」
渾身の一撃がソニックブームを起こしたがリュウセイに軽々とかわされた。次にリュウセイの手刀に背中から貫かれるのがわかった。
( くやしいな.. くやしいよ! あんな奴に負けるなんて)
『 やれやれ、アコウといい、お前といい。 今回だけ手を貸してやる。死なれては、トパーズの名折れだからな.. 』
水蒸気で霞む白い空間に誰かが立っている。そしてあの凄まじい闇色の手刀を片手で握り止めていた。その手は闇も踏み込めないほどの光を放っている。いや、体が光そのものなのだ。
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