第65話 突然の異世界転移で力を得て世界を混乱させたらアカネにやられてしまったので新たな身体で再び挑んでみた!

私は「時の加護者」アカネ。

突然、私たちを襲来した「元の民」の首領ヨミ。彼女の狂気に満ちた恨み言と攻撃に劣勢に追い込まれる。だけど、これは私の想定内のことだった。シエラの逆転の一蹴りはヨミを戦闘不能にした。その時、世界が暗転しひとりの男が現れた。


—レンパス村 宿舎の丘—


ヨミの顔が恐怖に歪む。


「ダメ ダメ ダメ。 時の加護者よ、私の可愛い妹をいたぶらないでほしいなぁ」


「誰? 」


空中から現れた男は、この世界には似合わないスーツ姿だった。その少し冷笑を秘めた言い方がやけに癇に障った。


「これは失礼しました。私は流星。いやここではアブソルトと呼んでほしいかな」


「アブソルト? 馬鹿じゃないの! 」


自分が..いや私の魂がこの男を嫌っている。ついつい言葉に角が立つ。


「へぇ。ラテン語がわかるんだね? 」


「ラテン語なんてわかるわけないじゃない。英語だって赤点ギリギリなんだから。ゲームのキャラでいただけよ。『絶対者』みたいな意味でしょ」


「そう、そう、まぁ、そんな感じ」


「いつまでもそんなところに浮いていないで降りてきて、顔を見せなさいよ」


「ああ、これは失礼」


男はスッと静かに地に足を付くと、大地がブルッと震えた感じがした。


シエラの闘争心は最高潮になっている。まるで大きな虎が威嚇しているような迫力さえ感じた。


そして空の明るさが正常に戻ると男の顔がはっきりと見えた。


「はじめまして.. アカネ様とシエラさん」


「ん? ..あなた どこかで.. 」


「ああ、覚えていてくれたんだね。そうだよ。実は前にもお会いしてるよ。あなたが私を助けようとしてくれたじゃないか」


「あっ、初大駅で私とぶつかったサラリーマンの.. 」


「そうだよ。正確にはあなたが私にぶつかったんだね。はははは 」


「なんであなたが? 」


「そうですね。 復讐.. とでも言えばいいのか.. いえね、私は直接あなたには恨みはないのだけど、私の魂がそれを命ずるのですよ」


「魂? 」


「はい。嫌ですねぇ。この粘着するような憎しみって」


「なら、やめて大人しくしていたらどう? 」


「そうかもね。でも私はポジティブなんですよ。だからこう考えを改めた。あなた方とともに退屈から解放されようとね。この世界に来て彼此30年ほど。この世界はあまりにも退屈すぎる。だから.. アカネ、私自身はあなたが来てとても嬉しく思っているのです。これで面白くなるぞってね」


「あなた、やっぱりこの世界の人間じゃないわね。あっちの世界の嫌な奴の匂いがするもの」


「ははははは。嫌な奴の匂いってどんな匂いだろうね。ははははは」


男はひとしきり笑うと一呼吸した後に語りに入った。


「私はね、少年時代は異世界に憧れてやまなかった。だからこの異世界に呼ばれた時は歓喜したよ! 自分は何か使命があるんだってね。アカネ、君ならわかるはず」


「別にわからない」


「まだわからないのかい?退屈なこの世界。魔王もいなければギルドもない。冒険者チームだって作れやしない。だから私は君の退屈を取り除いてあげているのに。獄鳥パルコに赤髪のゼロ、そうそうロウゼとかいうのもいたな。退屈しなかったはずだ」


「全て、あなたの仕業なのね!」


「おもしろかっただろ?退屈しなかったはずだ。君にはそのお返しをしてほしいんだ。私の心の奥の恨み言だけどね。今こうしている間もうるさいんだ。君たちが私に倒されれば、これも消えると思うんだ。退屈しなかったお礼として倒されてくれないかな」


男の話は支離滅裂だった。はっきりいって意味のない会話だ。男が言いたいことはただ一つだけ。


『私たちを倒して復讐を果たす』


それだけだ。


「『時の加護者』アカネというキャラがいなくなるのは私としては残念だけど、その代わりにエルフとケモ耳娘のハーレムでも作ればスローライフで楽しめそうだから、そっちでがんばるとするよ」


「ケモ耳? もしかしてオレブランってあんたが作ったの? 」


「その通りだよ。子供と獣を魔法でかけ合わせてね。でもあいつらギャーギャーうるさいだけなんだ。あれは失敗作だね。今度は間違えないで創るよ。私は『創造の加護者』になるのだからね 」


「わかったわ。あんたはイカレたゲス野郎だ。きっとあなたはどんなことしても楽しむことができないんだわ。だから命を踏みつけるんだ。でもね、私はあなたの望み通り闘ってあげる。さぁ、かかって来なさいよ」


「ん~.. 今はやめておくよ。妹を引き取りに来ただけだから。それに楽しみは後のほうがいいだろ。そうだ、心の中のもう一人の私からの伝言があるんだ。


『苦痛はこんなものじゃない。もっともっと与えてやる。シエラに両手脚を潰された恨みも含めてな! 』


嫌だねぇ..恨みって.. では失礼するよ。ごきげんよう」


「 !! 逃がすものか! 」


シエラが慌ててリュウセイに襲い掛かったが、ヨミと共に亜空間に消えた。


「ま、まさか、あいつが蘇ったのか!? 」


いつもはどこか余裕のあるシエラが追い詰められたような表情になっていた。

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