第64話 恨み言
私は「時の加護者」アカネ。
私たちは獄鳥パルコの呪いを解く方法を求めて南極タイサントまで来た。その手掛かりは掴んだ矢先に「元の民」の首領ヨミが襲来。シエラが空間の穴に呑まれた。
—レンパス村 宿舎の丘—
空間の穴はシエラを呑み込むと消えてしまった。
「シエラ! ..あぁ ..またシエラを.. 許さないっ.. 」
「久しぶりだわ.. この世界を震わすようなあなたの怒りの感情。再びこの身に感じられて感激です」
「それなら、ついでに怒りの足蹴りを味わうといいわ!」
「あっ、アカネ様、私に攻撃はダメですよ。いくら私でもあなたの攻撃をまともに受ければ死んでしまいますから」
「何言ってるのよ。当然するわよ」
「私の右手を見てください。今、時計がグルグル回ってますよね。この場には私が作った船乗りたちを閉じ込めた『時の空間』が存在しています。もしもここで私が死ぬとどうなると思います」
「 ..なるほど、無限空間に落ちるって事ね」
「あら、知っていたのなら話が早いです。 実は今日、アカネ様に会いに来た一番の目的はあなたに私の恨み言を聞いてもらうことなんですよ」
「恨み言? 」
「ええ.... あなたが私たちを置いていった後の私の苦労をね」
「 .... 」
「あなたがいなくなった後、私はあなたの責務を代わりに果たそうと考えました。あなたが戻られた時、荒れ果てた世界なっていたら、あなたが悲しんでしまいます。あなたの悲しみが、私の一番の悲しみなのです」
「それなら、今すぐシエラを戻しなさいよ」
私の言葉にヨミは口元に指をあてた。
「『運命の加護者』シャーレ様。あの方は役立たずだ。すぐに運命を受け入れろと言う。でも優秀な私は違う。私はあなたの片腕として世界に目を配り、争いの火だねを摘まなければなりません。しかし「秩序」と「時」の加護者が居なくなったこの世界の力は弱まった。そして私の力も弱くなると、ある日を境に私は急に年を取り始めた」
ヨミは当時を思い出したかのように目が泳ぎ始め、まるで恐怖に取りつかれたような表情になった。
「あなただ!もともと人間だった私を妹としてそばに置いたのは。私の停まっていた時ははあなたが居なくなったことで加速したのだ。恐怖だった。あなたにわかるか!14歳のこの手が一晩で皺が入った別人の手になる恐怖を。私は10日もしないうちに老婆となってしまった。『嫌だ。老いたくない!私はいつまでもアカネ様の可愛い妹でいたいんだ!』私は神に叫んだ」
ヨミの表情が豹変した。目を見開き口角が限界まで上がった不自然な笑みの表情だ。その目くるめく変わるヨミの表情に私は心が痛かった。それは彼女の心の波そのものだったからだ。
「恩恵です。新たな恩恵が舞い降りたんです。見てください。私のこの最も美しい身体を。私はもう老いることはない。私のお兄様が約束してくれた!だからね、アカネ。あなたはもういらないのよ」
「何言ってるのよ、あなた。年を取るのが怖いですって? それが本来の人間の在り方でしょ。そんな事の為、世界を混乱させてるなんて勝手だわ」
男勝りのカレンが口をはさんでしまった。
「そ..そんな事.. そんな事だと.. 何千年も生きて来た私が年を取るのと、お前たちゴミが年を取るのとを一緒にするな!! ならお前に私と同じ恐怖と悲しみを教えてやる! 」
「カレン! 逃げて! 」
私が叫ぶよりも早くヨミの手はカレンの頭を掴もうとした。
だが、護衛のロッシがカレンに覆いかぶさるとヨミの手はロッシの肩を掴んだ。
「ならば、おまえからだ! 」
ロッシの黒い髪は瞬く間に白髪になっていく。
「やめなさい!! 」
私の蹴りがヨミに炸裂するが、ヨミは瞬時に身を引いた。
「さすがはアカネ様、少しかすってしまいました。だが、まだまだですね」
ヨミが『落花蘭脚(らっからんきゃく)』の脚型を構えると天からいくつもの脚が降り注ぐ。
そのスピードは尋常じゃない! 脚で防ぐことが出来ず両腕でガードをする。
「私たちの技は腕よりも脚。堪らずガードをしたのでしょうが、あなたの腕は相当なダメージを受けましたね。アカネ、なんて弱い加護者だったことか。あなたはもう時代遅れなのよ」
確かにヨミの攻撃を避けきることもできないし、こちらからは全力の(殺す気)の攻撃をするもできない。なら、これでどうだ!
アカネの手の時計が不規則に動き出した瞬間、アカネの脚も不規則に動き出す。そして残像から8本の足がヨミを捉える!
ガガッと掘削機のような固い音がする。
アカネの8本の脚は、ヨミの8本の脚に防御された。
「甘いですよ。私の右手にも懐中時計が入っているのです。あなたの時計に同調させれば防ぐことなど容易い。あなたに出来ることは私にもできるのですよ!」
「 ..ふっ、そうね、ヨミ。だから、『あなたに出来ることは私にもできる』のよ。ほら、見なさい」
アカネの拳の時計の回転がヨミの拳の時計の回転が同調するとお互いが共鳴し始めた。
「時の空間よ.. 開け..」
『んなろーっ!』
一撃の蹴りにヨミは吹っ飛び、そのまま2つコテージを破壊して地に転がった。
「ただいま! アカネ様」
「シエラ、予定通りみんなを無事に連れて来れたわね」
シエラはラオス船長をはじめカレン調査団の隊員を引き連れて戻ってきたのだ。
「 ..がはっ.. 何だと.. まさか、全て計略していたというのか.. あの瞬時に」
「そうよ。私は、ずる賢いんだから。先のロウゼの闘いで敵がまずシエラを排除しようとするのは学習済みよ。当然、あなたはシエラを空間に落とすと思った。そしてその行先には、ラオス船長たちがいると思ったわ。あとは、あなたの右手の時計の回転に同期させさえすれば、あなたの時の空間に穴をあけられると思った」
「そうか。時計を不規則に動かす技を出したのもわざとか」
「そういうこと」
「 ..ぐ.. やはり.. アカネ様は凄いな.. ガッ.. 」
「動かない方がいいよ。僕の蹴りで体中の骨にひびが入っているはずだ。ヨミ、お前はもともと戦闘向きじゃないはずだ。なぜ自ら闘った? 」
「 ..それは—— 」
その時、空と大地が暗転し黒い影が光った。
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