第62話 奇跡の光鳥

私は「時の加護者」アカネ。

7日間の航海の後、私たちは南極タイサントのレンパス村に到着した。いよいよ獄鳥パルコの呪詛を解くヒントの調査が始まる。


—南極タイサント レンパス村—


私の世界を「現世」というならば南極大陸は年内通してマイナスの気温、例え夏でも-1℃になってしまう。しかしこの世界の南極タイサントの気温はまるで「現世」の4月くらいの気温だ。夏になっても最高気温が26℃という快適な気温らしい。


レンパス村は400人程の村民が暮らしている海沿いの村だ。ラチャグの家は草原の丘にあり、近くに5棟のコテージが並んでいる。水仙や菜の花が咲き乱れ、美しい永久蝶(とこしえちょう)が飛び立てば、ここは夢のリゾート地のような場所だ。


『すごい! すごい! 』とラインとソックスが大好きな草原で蝶を追い回して遊んでいる。


「本当にすごい永久蝶の数だね」


「はい、ここの南極タイサントはここだけではなく中心に行くほど、永久蝶の群れは多くなっていきます。世界に分散している永久蝶は皆、ここから飛び立ったものといわれているのです」


そう言いながら遠い目をするカレンは、この神秘的な地の浪漫(ろまん)に浸っているようだった。


コテージは『私とシエラ』、『カレンとロッシ』、『ラオス船長と船員』でそれぞれ一棟ずつ使わせてもらった。


「ねぇ、ねぇ、シエラ、カレンとロッシは何で一緒なの!? ねぇ! ねぇ! 」


「そんなの特別警護するためじゃないですか。何言ってるんですか 」


シエラではやはり女子トークは無理だった.. せめてラヴィエがいれば..


***


部屋に集まりこれまでの調査の概要を確認した。


—レンパス村の祖先は太古の昔、南極タイサント大陸のもっと中心部で暮らしていた遊牧民だった。だが、空から大きな岩がいくつも降ってくる天災があり、遊牧民は分散して大陸の端に移住していった。その大陸の中心部にはいくつもの太古の記録が残されていて、遊牧民が信仰していた神聖物を描いた壁画がいくつも発見されている。そこに描かれたのは光り輝く巨大な白い鳥であった。


そう冷鳥フロワ、獄鳥パルコに並ぶ伝説の光鳥ハシルだ。その鳥は言葉を理解し奇跡を起したという。壁画の絵には冷鳥フロワと獄鳥パルコを踏みつけにしている光鳥ハシルの絵が描かれているというのだ。


そしてカレン調査隊はある洞窟の奥でひとつの壁画を発見した。それは光り輝く鳥の足もとに3つの卵のようなものがある絵だった。


絶滅したといわれる奇跡の光鳥ハシル。



—この地が光鳥の恩恵により暖かいというのならば、その理由とは何なのだろうか。


—光鳥の生命力に永久蝶の群生が発生するのならば、未だに群生が絶えないのはなぜ?


カレンたちはひとつの仮説をたてた。奇跡の光鳥ハシルの卵は南極のどこかに埋まっているのではないか?しかもそれは今も生き続けていると——


「じゃあ、その卵からヒナがかえれば光鳥は復活するの? 」


「たぶんそうだと思います。かつて光鳥ハシルを中心に2羽の鳥が平伏するような壁画もありました。もしかしたら光鳥は冷鳥と獄鳥の上位に位置する鳥だったのかもしれません」


(なるほど、光鳥が人間の言葉を理解していたのなら、もしかしたら呪いを解く方法をおしえてくれるかも?)


「まずは卵が埋まっている場所を探すのが先決だね」


一瞬の間のあとカレンが言った。


「実はもうだいたいの目星はついているのです」


「え? そうなの? じゃあ、掘り起こそうよ」


「儂たちが調査しているのはそこへたどり着く洞窟なのだよ。だが先日、そこも大きな岩盤で塞がっているのがわかって困っているのだよ。とにかく一度その場へ案内するよ」


港に着いた時、カレンとラチャグはこの事を話していたのだ。


***


南極タイサントはそれほど大きな大陸ではない。ラインとソックスに乗ると1時間程度で大陸の中心部が見えて来た。


—南極タイサント 中心部—


南極タイサントの中心部分には南極の背中と言われるなだらかな山脈がある。だがその山脈には、岩というにはあまりにも大きな岩がめり込んでいる。言ってみればオーストラリアのエアーズロックを彷彿させるような岩がそこに鎮座しているのだ。


そしてその岩の周りの草原がぼんやりとコバルトブルーに光っている。


私がひと足草原に踏み込むと、ブルーの輝きに白い光の尾びれを放ちながら、永久蝶が次々と飛び立った。


永久蝶はまるで地中からエネルギーを充電しているように見えた。もしそうならば、やはり光鳥は今もこの地に生きているのだ。


「アカネ様、見てください。おそらくこの巨岩が光鳥の巣の入り口を塞いでしまったのです。私たちは他に巣までたどり着ける道を探しているのですが.. 」


「 ..  」


横にいるシエラから、生唾を飲む音が聞こえた。


「シエラ、どうしたの? 」


「あ、あのアカネ様、ちょっとこちらへ 」


カレン達と距離を置いてシエラは小声で話し始めた。


「アカネ様、声を立てないでくださいね.. あの岩の犯人はおそらく私とアカネ様です」


「え..ええーっ!! 」


「しっ、静かに。カレンたちの言う太古の昔は、それほど古い話ではありません。ほんの800年ほど前の話です」


「800年くらいでも十分昔の話だよ」


「そうですね。人間の感覚ならば.. 覚えていますか? かつて秩序のトバリ様がこの世界から姿を消した時の話を.. 」


なんかまた先代アカネがやらかしたのだろうか..

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