第61話 海の壁カームタップ
私は「時の加護者」アカネ。
今、私たちは南極タイサントのレンパス村へ向けて航海中。船の中に密航していた子供2人が実はラインとソックスなのには本当にびっくりした。航海はまだ続く!
—カレン調査船内—
子供2人が密航しているという騒ぎがカレンの耳に届いたようだ。酒を飲んで昼寝をしていたカレンがぼやきながら自室から降りて来た。
「昼寝どきなのになんなのよ.. 騒がしいわね」
(ちょっ!その姿っ!)
「見ちゃダメ!」
とっさにラインの眼をふさぐ。
『すご~い。おっぱい』
ソックスが感嘆の想いを綴った。
「カレン! ちょ、あなた、もうちょっと胸を隠しなさい! 」
「アカネ様、お言葉ですが、先端は隠れております」
(ゆ、指をさすなっ!)
「まっ.. とにかく上着を着なさいっ! 」
「はぁ~い。意外に口うるさいな.. ばぁやみたいだ」
「なにっ? 何か言った?(# ゚Д゚) 」
「いいえ! 着替えてきます!! 」
***
「というわけで、ラインとソックスです。よろしくお願いします」
「「よろしくお願いします! 」」
まるで急に弟、妹が出来たようでうれしかった。
「みんな、ほら、こっちに来てみてください! 」
カレンが私たちを手招きする。船員もそろい踏みで海を見ながらその瞬間を待ち遠しそうにしている。
「いいですか? 来ますよ! 」
船からほんの20m付近の海面が盛り上がったかと思ったら、大きな鯨が宙に跳ね上がると体をひねらせる。バシャン! その巨体が海面に落ちると、頭上から大量の水しぶきが降りかかる!
『うわぁ! すげぇ! 』
とラインが興味津々なのにたいして、ソックスはシエラの脚に抱き着いて不安そうな顔をしていた。
「大丈夫だよ。ソックス」
そう言いながらシエラがソックスの頭をなでる。
「ほらっ! あの鯨、親子だよ」
さっきの大きな鯨の右後ろにもう1匹小さな鯨が離れないように泳いでいる。
『ははは。まるでシエラにくっつくソックスみたいだ! 』
ラインがからかうとソックスは下まぶたを指でひっぱりアカンベェをした。
「アカネ様、しっかりと潮流に乗れましたよ。鯨に出会えたのがその証拠です。彼らも同じように潮流に乗り、海を渡るからです。でも、この先、少し揺れが大きくなる『カームタップ』を通過していきますので落ちないようにしてくださいね」
その言葉に私はサイフォージュの枝を口にくわえた。
それから2日後、カレンが言っていた『カームタップ』がやってきた。説明はいらなかった。とにかく船体が激しくゆれ、きしむ音がなかなかに恐怖だ。
「ねぇ、カレン、船大丈夫だよね?バラバラにならないよね?」
「アカネ様、並みの船ならばバラバラになってしまいますが、我がギプス国の職人の腕は世界随一です! 絶対大丈夫ですので安心してください」
カレンは慣れっこで余裕の笑顔で答えた。
『カームタップ』とはこの大洋を陸沿いに円を描きながら周る潮流と南極にそって周る潮流がぶつかるポイントで、船が南極タイサントに近づくには、このカームタップを斜めに横切っていかなければならないのだ。
数時間経過すると、急に海は水を打ったように静かになった。船はカームタップを通過し、静かな南極海に入る事が出来たのだ。
「アカネ様、あそこに陸が見えますよ」
シエラが指さす方向には、ほんのり青白く発光する陸地があった。海鳥が船のマストに止まると、いよいよ船員が到着の準備を始めた。
『わ~、わたし鳥嫌い! 糞落とすんだもん』
ソックスのそんな言葉に船の上は笑いに包まれた。
***
南極海の上では今までの暖かい空気が一変し、少し乾いた涼しい風が吹いていた。寒いとまではいかないが日本の4月頃のように長袖を上に羽織って丁度良い気候だ。
さすがに水着から普段着に着替えた。カレンも調査団らしく長袖に長ズボンを着用しているのだが、胸元のボタンだけは上まで留めると苦しいという理由で3つ目まで外している。
「アカネ様、アカネ様まで何故2つ目まで外しているのですか? アカネ様は外す必要などないじゃないですか? 」
「 ..ぐっ うるさいわよ、シエラ」
船がレンパスの港に着き渡り板が降ろされる。そこに小柄の初老の男が待ち構えていた。
「ラチャグ!! 」
男を見つけるとカレンが大きな声とともに手を振った。彼の名は『ラチャグ』レンパス村の住人で、カレン調査団の協力者だ。南極タイサントをガイドしてくれる。
「待ってたよ。カレン! 」
カレンがラチャグにハグすると小柄なラチャグの顔が胸元に押し付けられる形となった。..心なしかラチャグの口元が緩んでいるように見えるのは気のせいだろうか..
「カレン、例の場所は調べたけどまた大きな岩盤に阻まれてしまっているよ」
「そうか.. また手詰まりか.. 仕方がない、別のルートを探しましょう」
このラチャグという男が王女カレンに対して敬語を使わないのは、レンパス村がカームタップという海の壁により他国と交わることがなかったからだ。彼らにとって敬意を表するのは自然と精霊だけなのだ。
ラチャグは私たちを自分の家兼調査団宿舎へ案内した。
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