第59話 専属護衛ロッシ

私は「時の加護者」アカネ。

シュの山の獄鳥パルコの血の呪いを解く方法を求めに今、南極タイサントへ向かっています。レンパス村に伝わる伝説にヒントが隠されているらしいのです。


カレン調査船に乗せてもらい7日間の船旅だ。まずはレータ国のベルの港へ向かいます。


—カレン調査船—


船の旅はさぞ退屈かと思っていたがそうでもなかった。時に船員とカードゲームをしたり、釣竿を持って1m級の魚を釣っては競い合ったりした。これは単に私の性に合っていたのかもしれない。


釣り勝負に至ってはカレンに勝つことは困難だったが、さらにその上を行くのが船長ラオスだった。


「はっはー! 俺が釣るんじゃなくて『魚が釣ってください』ってやってくるんだよ」と昭和のおじさんが言うような冗談を恥ずかしげもなくのたまうラオスは、まるで、ひげを蓄えたヒュー・ジャックマン。


歳の差あっても胸キュンしてしまいそうだ。


そんな船旅も2日間が過ぎ、私たちはレータ国とフェルナン国の国境の港町「ベル」に到着した。


—ベルの港町—


冷蔵庫のないこの世界ではまずは水、そして食料の鮮度を保つのは難しい。もし寄れる港があればその補給をするのは当然の理だ。


船員が補給をしている間にカレンは「ベルの町」を案内してくれた。そして副団長ロッシも王女の護衛として共にした。


「アカネ様、どうです? 凄い活気でしょ? ここ「ベル」は海の中継地点となる港町として世界で2番目に大きな町なんですよ」


確かに港からすぐに商店が立ち並び食材から旅に必要な船具や小物、またはサイフォージュの枝のような薬草まで様々なものが売られている。これらの物は確かにギプス港には無いものばかりだった。


「ここは表通りで、あちらの方が裏通りになります。実は王国ギプスも目をつむっている場所です」


空が見える場所なのに何故か暗い雰囲気が漂うのは気のせいだろうか。そこには世界を旅する船から降ろされた珍品、お宝が並べられている。


「アカネ様、なんか胡散臭そうなのがありますね」


「そうね。シエラ、財布のひもをしっかりね」


「そしてこっちがアレの通りです」


「アレ?? 」


「つまり性欲処理をする場所ですよ」


「ちょっとっ!!! (焦)」


「アカネ様はウブですね」


そうカレンに指摘されると私は顔が真っ赤に火照るのがわかった。


『へへへ。いいのがいるじゃね~か。商売女もいいが俺はこういうのが好みだな。そっちの色っぽいのはお前にやるぜ』


シエラが『やれやれ』と首を振っている。


そうお決まりの奴らだ。


まぁ、カレンの悩殺的なボディがあるからには、こうなりそうな予感はしていた。それに私も水着に薄いパラオを羽織っているだけだし!


「じゃ、僕がさっさとおっぱらいますね」


シエラが指をぱきぽきと鳴らす。


「いいえ、ここは私にやらせてくださいませんか。王国ギプスの恩人であるシエラ様に手をわずらわせるわけにはいきません」


そう言って腕まくりをするのは副団長のロッシだ。


「ねぇ、カレン、ロッシは大丈夫なの? 相手は3人だよ 」


「まぁ、見ていてください、アカネ様。お二人を失望させませんから」


カレンは腕を組みながら自信満々にロッシを見つめる。


『なんだ鼻たれ! 俺たちとやるのか? なめるなよ。俺たちは北の地で猛獣ザンバの群れを— 』


ズガッっと踏み込む音がするとロッシの肘が既に相手の胸にめり込んでいる。


『うがぁ!! ..ぐへ.. 』


男は前のめりに倒れた後、うめき声ひとつ立てることができなかった。


ヒュ~♪と珍しくシエラが口笛を鳴らした。


『野郎。兄貴をよくもやりやがったな。殺してやる』


「待ってください、ゼンジさん。俺が相手しますよ。これでもあんたらの用心棒だからね」


腕の太さはロッシの2倍以上はありそうな口ひげをたずさえた大男がでてきた。


「ねぇ、シエラ、なんか強そうなのがでてきたよ。大丈夫かな? 」


「まぁ、見てみましょうよ」


[ フオォォ..  ]


男が独特の呼吸で腰を沈め両腕を前に出すと、周りの空気が男に集まり始める。かなり腕の立つ格闘家のようだ。


「アカネ様、どうやらあいつは気功岩掌拳(きこうがんしょうけん)の達人のようですよ」


(シエラが知っている格闘術ってことはやっぱり強いんだ..)


「さぁ、どこからでも来たらいい。この両腕の間合いに入った瞬間にその部位を寸断する」


『へぇ.. そうかよ。でもな、あんたは俺が入ったこともわからないまま気を失うと思うぜ』


ロッシの言葉遣いが変った。と同時にロッシが脚を大きく広げ体制を低く踏み込んだ。


砂煙が立ったかと思うと目の前からロッシがいなくなった。


「消えた! 」


口ひげ男は目を見開いたがどこにもロッシが見当たらない。


だが、地を這ったかと思ったロッシは、いつの間にか男の死角である頭上から舞い降りると、身体をひるがえしながら男の延髄に肘を打ち付けた。


どんなに鍛えた男でも首の後ろの延髄は弱点となる。そこを寸分たがわぬ正確さで打ち抜いたのだ。瞬間に口ひげ男は白目をむいて崩れた。


「やるねぇ。目線を下に移しておきながら尋常じゃない速さで空に舞い上がったね。かなりの身体能力だ。強いね」


シエラが掛け値なしに褒めるとはロッシはかなりの手練れの証だ。


「そうでしょ。ロッシは副団長だけど私の専属警護する凄腕なのですよ」


カレンは少しだけドヤ顔をしてみせた。


「カレン、君は僕たちにロッシの実力を見せるためにわざとここに来たね」


シエラがそういうとカレンは、目ざといウィンクをしてみせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る