第4章 万物流転 panta rhei

第58話 悩殺カレン

私は「時の加護者」アカネ。

世界一の剣豪ゼロや猛獣との闘いにおいて、アコウは「時の加護者」と「運命の加護者の」の恩恵を使った。これはただの人間のアコウにとって、かなりの負担になった。アコウは闘いからまだ一度も目を覚ましたことがなかった。


—王都フェルナン 特別療養部屋—


「大丈夫?ラヴィエ?」


「うん。南極タイサントかぁ。カレンから話だけは聞いた事あるんだけどね」


「なら、ラヴィエも来なよ。護衛はこの僕が引き受けるよ」


「ありがとう。シエラ。後ろ髪は惹かれるけど、私、今はこの方から離れたくないの。私を2度も救ってくれた。私はこの命を捧げても良いと思っているんです」


私はその直球の愛の告白に赤面してしまった。こんなに堂々と言えるほど人を好きになった事なんてないから、凄くドキドキしてしまった。


「料理屋のバカ息子だったアコウがこんな風に言ってもらえるなんて思わなかったですね、アカネ様」


「 ..」


「どうしたんです?具合悪いんですか?顔真っ赤にして」


「ん? あ、そうね。ほんとにそう」


ラヴィエが私たちのやりとりにクスクスと笑っていた。


確かにただの料理屋の息子のアコウ。身分の違いもあるし様々な問題が待ち構えているのは確かだ。


でも、このラヴィエの気持ちは本物だ。きっとみんなも納得してくれるだろう。


それに近衛兵団の隊長に昇格したマジムさんや執事長カルケンさんも力になってくれると思う。


そして私たちはラヴィエ、マジムさん、王様にまで見送られて王都フェルナンからギプス国へ出発したのだ。


「ライン、ソックス頼むわよ。風より早く走って!」


***


—そして..王都ギプス ギプス港—


ギプスの港は造船所まで完備している大きな港だった。


ギプス国は名工の国という二つ名が付くほどに腕の良い技師が多い。この国が栄えているのはそのような技術力の高さ故なのだ。


だから港も活気盛んなのだ。屈強そうな船乗りがあちらこちらで荷揚げや荷積みに忙しそうだ。


[ ちょっとお姉ちゃん、ごめんよ。通るよ! ]


「わわっ、凄い活気だね」


「そうですね。あっ、アカネ様、あそこに果物が売ってます。ちょっと買っていきましょうよ」


私たちはリンゴを齧りながら港にあるカレン調査船を探した。っていうか、もう最初から目にはついていたんだけどね。


「うわ~、大きな船だね」


「そうですね。僕もこんな大きな帆船を見るのは初めてですよ」


しっかりと大きな字で「カレン調査団」と船に書かれているし、のぼりもたててあった。一見すると『調査承ります』と商売でもしてる気配さえある。


私たちが船への渡り板を踏むと後ろからひとりの青年が声をかけて来た。


「あ、アカネ様ですね。私は副団長のロッシと言います。船上でカレン様がお待ちしてます。どうぞ」


船に乗り込み操舵室の向こう側にまわってみると、露出率90%の水着を着たカレンが、船上デッキの上で酒を片手に出迎えてくれた。


「ようこそ!! カレン調査船へ! 」


カレンの水着姿は女の子から見ても目を覆ってしまうような過激なものだった。


「ちょっとカレン! なんて格好してるのよ! 」


「はい? 別に普通じゃない?」


「全然普通じゃ— 」


いや、まわりで働いている船員たちは、何か普通に働いている。


「ところでアカネ様とシエラ様、船は大丈夫ですか? 私たちはもう生活の一部のような状態ですが? 」


「はははは。心配無用だよ。僕はトパーズだからね。ただアカネ様は? 」


「私だって平気よ。遠足のバスだって酔ったことなかったし! 」


「何かよくわからないけど、時の加護者であるアカネ様なら平気ですよね。なら、出発しましょう! 」


[ おらぁ、お前ら出発だぞ! ]威勢の良い船長の声が聞こえた。


カレンがそのスッと長い手を上にあげると渡り板が外された。そして多くの船員が櫂をもって港を出発した。


—1時間後


「ちょっと大丈夫ですか? アカネ様」


何とも情けない.. まるでお約束のように.. ううっ..


「なるほど。時の加護者様でも酔うものは酔うんですね。アカネ様、これはサイフォージュの枝です。これを口にくわえてみてください」


「あいっ.. 」


カレンのセクシーな手から渡された木の枝を咥えてみる。鼻に通るのはミントの香りだ。そしてこれは力を使う時に時々する香りにそっくりだった。


「ん~? 何、これ? 今まで酔っていたのが嘘みたい!! 」


「変ですね。こんなにすぐ効くものでもないのですが..  まぁ、元気になったのならいいですね」


力を使う時に香るミントとこのサイフォージュの木とは何か関係があるのかもしれない。


さて、あれだけカレンに何かを羽織れといった私だが、太陽と海があって服を着ているのもなんだかって感じで、旅立つときにラヴィエに持たされた水着に着替えることにした。


私はレモンイエローでシエラは白い水着をきていた。


「ふふん、どう? シエラ 似合うでしょ? これで船員を悩殺しちゃおうかしら」


「この色ならアカネ様が海に落ちても見つけやすいですね。それにカレンに張り合っても勝負になりませんよ」


何てことだ!シエラが私にレモンイエローを着せた理由はそれか! しかもいろいろはっきり言ってくれて!(涙)


「ねぇ、カレン、ここからタイサントのレンパス村まではどれくらいかかるの? 」


「ここからですと、一旦、レータ国の港町ベルに寄りますので、そこまで2日。そこから沖合に出ると強い潮流がありますので、そこから5日ですので合計で7日間とみてください」


「えー! そんなにかかるの? 」


「そうですよ。だから船の上ではそんなに肩肘張らずに楽しんでいった方がいいのですよ」


そう言うとカレンは再び裸同然の.. いや、ある意味、裸よりもエッチな水着姿に戻っていた。


「シエラ、アコウを連れて来なくて良かったね」


「はい。間違いなく出血死するでしょう」


しかし、カレンの水着姿に約1名、アコウのような反応をしている若者がいた。


それは副団長のロッシだった。

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