第57話 伝説を探しにレンパスへ進め!

私は「時の加護者」アカネ。王都カイトの民は無事にギプス国の救援を受けることが出来た。プレシャ村に向かったロウゼはその凄惨な村の姿に闇落ちしそうになるが、「運命の加護者」シャーレに助けられ、新たな人生を歩むこととなる。


そしてアリアの町では..


—アリアの町—


・・・・・・

・・


『アコウ、死なないで。 神よ、どうか私の大切なひとを連れていかないで.. 』


・・

・・・・・・


「痛っ.. ベッド!? 」


まるで手足に鉛でも付けているようだった。それくらいアコウの体は限界を超えていた。


ギシギシと関節の油が切れているような状態の中、背中だけは心地よい温もりと草原に咲く花のような香りがする。


すると後ろからやわらかい手が肩にかかり、耳元にやさしい声が..


「よかった。アコウ.. 気が付いたのね」


そう涙ぐむ声の主は、ラヴィエだった。


ここはアリアの町の衛兵宿舎だ。とすると王女のラヴィエとベッドをともにしているなどとんでもないことだ。


マジムに、いやいや、ジイン王に見られでもしたら、また処刑場送りにされてしまうかも。


だが、アコウは今しばらくこの温もりを感じていたかった。その心地よさに眠りについて再び目が覚めたのは、周りの騒がしさのためだった。


「あ、アカネ様、アコウの奴 起きましたよ」


「ほんとだ! アコウ大丈夫? 強い敵をやっつけたらしいじゃない! 凄いね! 」


「おいっ! アコウ! 大丈夫か? 俺がわかるか? 」


「 ..うるさいなぁ。騒がしいんだよ、シエラ、アカネにマジムさんも! 」


細めを開け悪態をつくアコウに室内が沸いた。


あの闘いから6日が過ぎていた。アコウの傷は深かったが、アリアの町のダメージは最小限に済んだ。


それでも戦いに参加した人の何人かは帰らぬ人となってしまい、手放しで喜べるものではなかった。


だが、亡くなった方々の遺族は、自分の夫、または兄、息子が町を救った事を誇りながら天へ送ったという。


フェルナン国王ジインはその功績を称え、アリアの町に碑を建てると『勇者のもとに町の栄華あれ』と記され、そこには勇者アリアの名と同列に亡くなった方々の名前が刻まれた。


***


「そうですか.. それはよかった。我が国もできる限りの食料や物資をギプス国へ送ることにします」


王都カイトの人々がひとり残さず無事にギプス国へ避難したことを知るとジイン王はホッとしていた。いや、もしかしたらクリスティアナの無事に胸をなで降ろしたのかもしれない。


女子としてはジイン王とクリスティアナの〇〇な話に興味津々なのだが、ジイン王の顔を見れば、彼が未だにクリスティアナを大切に想っている事は十分にわかった。


一国の王子と王女が恋仲となっても、そこには政治的なものがあったのだろう。ラヴィエを取り巻く様々な事柄をみていると何となくその大変さがわかる。


やがて、シャーレとクローズもアリアの町に到着した。


「ほう。ゼロがやってきたのか? 」


「シャーレ、ゼロって奴を知ってるの? 」


「知っているぞ。何年か前にあいつと出くわしたことがあってな。クローズにこてんぱんにやられたぞ」


「ああ、シャーレ様。今、思い出しました。あいつですか」


クローズが手をたたいた。


「クローズ、なんでそんな奴の相手をしたんだ? 僕らトパーズは『主を守る』のが仕事だろ? 」


「むかつく顔して『俺の前には誰も立ってはいられない。ゼロだ』など思いあがったことを言うものだからな。ちょっと教育してやったのだ」


クローズは指先でちょいちょいとしていた。


「クローズは、僕と違って怒りっぽいなぁ」


「馬鹿を言え、あの生意気な態度を見たら、シエラ、お前なら殺しかねん」


クローズは当時の事を思い出し、また少し憤慨しているようだった。


「しかしアコウの話だと奴も『恩恵を授かった』と言っていたというが.. ヨミには恩恵を授ける力などないはずだ。どうも気になるところだな」


シャーレはどうにも腑に落ちない顔をしていた。


「ところでシャーレ、これから私たちは南極タイサントのレンパス村へ行くんだけど、一緒に行かない? 」


「いや、私たちは一旦、『運命の祠』に戻るとする。奴(ロウゼ)が助けを求めに来るかもしれんからな」


「相変わらずシャーレ様は面倒見がいいねぇ.. 僕なんか仕返ししたいくらいなのに」


シエラがロウゼを想定して拳を突き出していた。


「シエラ、もし旅先で会ってもいじめるなよ。あいつは今後、過去の自分の過ちを見つめながら旅をするという過酷な運命を歩むのだからな」


シエラはプイッとそっぽを向いたが、そんな事はしないのはみんなが知っていた。


「しかしアカネ、なぜレンパスになど行くのだ? 」


「それがね、いい話を聞いたんだ。もしかしたら『シュの山』を安定させることが出来るかもしれないの。この前、避難するときにギプス国のカレン王女がね——— 」


―カレンは南極のレンパス村に古くから伝わる伝説を調査していた。それは冷鳥フロワの呪詛を解く伝説がレンパスにあると聞いたからだった。もしも冷鳥フロワの呪詛が解かれれば、フェルナン国は再び実りの多い国になる。動機は親友であるラヴィエの笑顔を見るためだった。


「——というわけで私とシエラはカレンについていって、その伝説を調べてみようと思うの。たぶん冷鳥フロワの呪いを解くことが出来れば、同じく獄鳥パルコの呪いも解くことができるからね」


シャーレとクローズは『運命の祠』へ、ラヴィエとアコウは『アリアの町』に、そして私とシエラは南極レンパスへ向かうことになった。


***


—王都ギプス ギプス港—


「うわ~、大きな船だね」


「そうですね。僕もこんな大きな帆船(はんせん)に乗るのは初めてですよ」


南の国ギプスには腕の良い職人が多く、名工の国ギプスとも呼ばれている。


「あ、アカネ様ですね。私はここの副船長のロッシと言います。船上でカレン様がお待ちです。どうぞ」


私たちは渡り板から乗船した。甲板には露出率90%以上の際どい水着姿のカレンが、酒を片手に出迎えてくれた。


「ようこそ!! カレン調査船へ! 」

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