第56話 ロウゼの旅立ち

私は「時の加護者」アカネ。

アリアの町の剣豪ゼロ、猛獣の襲来を防ぎ切ったアコウと町の人々。一方、こちら王都カイトはギプス国の救援部隊が、順調に王都の人々を安全なギプス国へ運び出していた。


—王都カイト 時の空間―


女王国カイトの民の避難は順調に進んでいた。第2救援部隊が到着すると、そこに思わぬ人物が乗っていた。


「お初にお目にかかります、アカネ様。私はギプス国のカレンです」


ギプス国の王女カレンはラヴィエの新たな王国体制に共感してくれている人物だ。年齢は私よりも上で20歳くらい。お嬢様的なラヴィエとは違ってタカラジェンヌのような凛々しさを感じさせる人物だ。


カレンが調査団を編成し南極タイサントのレンパス村に滞在している時、王国フェルナンでの毒殺未遂事件の事を聞いたという。彼女は急遽ギプス国へ帰還した。


男勝りなカレンは、今後どんなことが起きても対処できるようにスタン王に助言をしていたという。今回の救援部隊の編成が早かったのも、カレンがいればこそだった。


ラヴィエにしろ、カレンにしろ、じゃじゃ馬娘なのは一緒のようだ。


***


—海岸沿いのプレシャ村—


一方、シャーレ、クローズ、ロウゼは丸半日かけて女王国カイトを西へ抜けると、海岸にある小さな村へ辿り着いた。そこはロウゼの家族や彼を慕うものが住むプレシャ村だ。


ロウゼが王都カイトに2日かけて辿り着いたことを考えれば、ミゼが毒をばらまいて、今日が3日目だ。もしもミゼの毒がウィルス性の四死病(ししびょう)ならば、一刻も早くミゼを捕らえ、解毒剤を処方する必要がある。


だが、プレシャ村に着いた瞬間に全てを理解してしまった。村からは血の匂いと死臭が漂っているのだ。


娘のところへと全力で駆けるロウゼ。彼の悲痛な叫びは海岸に打ち付ける波音にかき消された。


そうなのだ。ミゼは最初から約束など守る気などなかった。解毒剤を村人に与える気など無かったのだ。何故ならば、ミゼはそのころ王国フェルナンへの襲撃準備をしていたからだ。


「おのれ..ミゼ!! そしてヨミめ! 許さんぞ! このロウゼの命、貴様らへの復讐に使ってくれよう.. ぐっ..ぐ.. 」


ロウゼの嗚咽はまるで彼の心を引き裂いている音のようでもあった。


「 .. 」


「シャーレ様、何をお考えですか? 」


シャーレは『どうしようかな..? 』と考えるときいつも身体を前後ろに揺らす癖がある。だが大概はもう心に決めていて、言うタイミングを計っているのだ。それをいち早く察するのは、いつもクローズだ。


「おい、ロウゼよ。そんなつまらない事に自分の人生を使うのはやめろ。お前の運命はそんなのじゃない」


「シャーレ様、いいのですか? 人の運命に口を出さないと言っていたではないですか? 」


「ああ、あれな。アカネがこっちに帰ってきた以上、既にそういうことにはいかない事態になっているよ。あれがこっちに帰ってきたのはそういうことなのだ」


ロウゼはシャーレを睨みつけていた。愛する娘の命が奪われ、村人が殺され、その復讐を『つまらない事』と一蹴した事に怒りを感じているようだ。


「ロウゼ、そんなに敵意をぶつけるな。私はお前がやるべきことを教えてやろうと言うのだ。その為に今から私はお前たちの為、『ひと苦労』してやろうというのだ」


「どういうことだ? シャーレ様。俺は今、虫の居所が悪い。変な事を言わない方がいい」


「ったく。お前の娘や村人、お前の運命を再構築してやろうというのだ! ありがたく思えよ」


「!! 再構築? 」


ロウゼは全身の力が抜けそうになった。


「ああ、私の能力でな。滅多にこんな事はしないのだが、私も今回の事には少々はらわたが煮えくり返える思いなのだ。人の運命をもてあそぶ奴らにな。幸い今、魂のない依り代が世界に散らばっている。ロウゼよ、私の姿は何だ? 」


「オレブラン? 」


「そうだ。こいつらは誰かが意図的に作り出した魂のない可哀そうな連中だ。お前の娘と村人の魂をそこに移す。お前の運命は世界に散ったその者たちを探し、オレブランを守り幸せを築くことだ! 」


そう言うとシャーレを中心に辺り一面、植物の芽がでると一気に成長し花が咲き乱れる。それらは村人の亡骸、ロウゼの娘を優しく包み込んだ。すると大地が一度だけ大きく震えた。パタンと小さなシャーレは地面に尻もちをついた。


「いやぁ、この体にはちょっぴりきつかった。久しぶりだし.. クローズ、私は少し眠るぞ」


「シャーレ様! いったい? 」


「ロウゼよ、さっき言ったとおりだ。お前の娘は私のような姿だが愛せるよな? お前は探して幸せに.. 」


そういうとシャーレは眠りについた。


「ありがとうございます! ありがとうございます.. 愛せますとも! どんな姿でも私の娘だ。そして恩人であるシャーレ様の姿と同じならば.. 」


シャーレを誇らしくそして愛おしく抱くクローズは強い言葉で言った。


「ロウゼ、お前、シャーレ様の想いを踏みにじるなよ。そんなことしてみろ。このクローズが許さぬからな」


「はい。もちろんです。このロウゼ、この先、必ずやオレブランとなった娘、村人を探し、人生を歩みます」


「それならば、早く見つけ出すんだ。オレブランは異形だ。人間に酷い目にあう者もいるはずだ。救い出してやれ。さぁ、行くんだ。ここからはお前の旅だ」


ロウゼはシャーレとクローズに深々と頭を下げると、自分の運命の旅を始めた。

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