第55話 天秤の砂

私は「時の加護者」アカネ。

私とシエラが王都カイトの避難活動をしている間、アリアの町ではさらにミゼにより魔獣、猛獣の襲来にさらされていた。孤軍奮闘のアコウだった。しかしラヴィエや王の言葉に町の人々が勇気を出してアコウと共に闘うことになった。もうアリアの悲劇の時とは違うんだ!


—アリアの町 外—


もはや、出血のためにアコウの意識は朦朧としていた。ここに来てまた新たな敵とは..


猛獣トリュテスクローは護衛部隊ゾルネブルの総攻撃で動きが鈍くなっている。このまま彼らに任せておけば倒すことが出来るだろう。問題は土から出て来たこの魔獣だ。


「アコウ、もう町に逃げて。あとは私たちで何とかするから.. お願い」


ラヴィエの目元をその指で拭うと、落ちた涙がぼんやりと光を放ち始めた。淡い光は大きくなるとアコウの視界を真っ白に変えていく。アコウは、いや、アコウの魂は思った。


(ああ.. ついに意識を失ってしまうのか。俺はまた大切な人を守れないのかな.. )


—『アコウ.. アコウよ』


今まで聞いたことのない男の声だった。それは『アリアの剣』の勇ましい声ではない。


「誰だ? 」


『お前は気が付いていないのだな。まぁ、気づかなくても良い事か。今回だけお前に力を貸してやろう。力を使うがよい』


「何のことだ? 」


『俺は秩序を乱すものを許さない。あのような魔獣はこの世界には存在しない。お前はそれを思いながらあの魔獣に触れるだけでいい。そしてお前は今の事を忘れるのだ』


光は去り際に一瞬、人の形を作ると空気の中に消えていった——


「ラヴィエ、君を守るよ.. 」


そう呟きながら、アコウはおぼつかない足取りで土から現れし魔獣に近づいていく。


「今日の俺はついてるぜ。王と王女を同時に殺れる上に、このミゼ様の計画を台無しにしやがった小僧も殺れるんだからな。しかしゼロもだらしねぇな。同情だけはしてやるぜ『かわいそ! かわいそ! 』 ははははは」


ふらふらと無防備に魔獣へ近づくアコウ。


「なるほど、気味の悪い顔している」


「小僧、あの方の傑作にケチをつけるなんざ、お前は終わりだぜ。俺様がこの魔笛を吹けば、その魔獣はここにいる人間を皆殺しにするまで暴れるからな。俺は一足先に逃げるがな。 じゃあな」


ピィーーーーーー!!


その笛の音とともにミゼは姿を消した。


まるでブルドーザーのエンジンのごとく魔獣が唸り始めると、土を掘るその鋭い前足をアコウに突き立てた。


「アコウ!! ダメ―!! 」


涙を流し叫ぶラヴィエの喉は擦り切れ、もはや声にすらならなかった。


涙..  ラヴィエの涙で未だに濡れている右手がまばゆく光り輝くと、アコウは魔獣の前にその右手をかざした。


『この世界はお前など見たことない。故にこの世界の秩序はお前の存在を認めない』


魔獣の鋭い爪がその光る手に触れると、そこからサラサラと砂になり、やがて魔獣だった砂は風に吹かれて消えていった。


『この砂にて天秤はつり合った.. 』


そう言葉をもらすと、アコウは意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る