第52話 運命のトパーズとしての責務

私は「時の加護者」アカネ。大変だ。「アリアの町」に世界一の剣豪赤髪のゼロなんてのが攻めてきた。まずはアコウが先制したけど、絶対やばいじゃん。そんな風に焦ってばかりいる私だけど、シエラは落ち着いている。その理由とは。


—アリアの町—


先制の拳一発をお見舞いしたアコウだったが、ゼロの攻撃は速く重い。ケガも完治していないアコウに余裕はなかった。


「はぁ.. はぁ.. さすがかっこつけてるだけのことはあるね。あんたのスピードはあの処刑場の化け物以上だよ」


「おまえは大したことないな。少しはやるかと思ったが残念だ」


ゼロは落ち着きを取り戻した顔で言う。


「もうやめて、またアコウが傷ついてしまう! 」


アコウに近づこうとするラヴィエをマジムが制止する。


「王女があのように言っているが止めるか? 」


「何言ってるんだよ。そういうわけにはいかないだろ。あんたは容赦なく女や子供を殺す部類の人間だ」


「そのとおりだっ! 」


ゼロの振るう大きい剣は想像できないスピードでアコウを襲う。一発でも貰えば腕は吹っ飛び、胴は切断されてしまうだろう。


だが、まだ完治していないアコウの足が一瞬遅れを取った。蹴った砂が音を鳴らし体制を崩した。


「終わりだ!」


— ガーンッ!!


「な、何だ!?」


凄まじい質量の剛剣が、咄嗟に出した右手ごと体を両断するはずだった。


だが、そうはならなかった。


そればかりか、とてつもなく固い鉱物と接触したかのような衝撃音が鳴り響いた。


ゼロは信じられない光景に目を見開いた。


そりゃそうだ、ゼロからしてみれば大地を割る力を込めた剣が、細い枝のような腕に止められたのだから。


「ゼロさん、どうやら驚いているようだね。正直言うと俺も驚いているんだ。まぁ、あんたの驚きとは、また違うんだけどな。俺が驚いているのは右腕から声が聞こえるんだ。何て言ってると思う?」


「 ..」


「右腕はこう言ってるんだ。『我を構えよ』ってね」


何も持たないアコウが構えるポーズをとると、右手から剣が生えて出て来た。


「き、貴様! 何だ、それは?」


「剣豪のあんたが聞くかい? こいつは剣だ。名は『アリアの剣』だ」


その瞬間、地を揺らすような闘気がアコウから放たれた。


そして今、アコウの髪の色がシャーレやクローズのような銀色に輝き始めた。


***


—王都カイト—


「アカネ様、アコウはトパーズなんです!」


「え..   ええーーーー!!」


そのまま30秒ほど固まった。


「ちょ、ちょっとアカネさま大丈夫ですか?」


「私、もしかしてこの異世界に来た時以上に驚いたかも..」


「あのですね、正確には——」


—シエラの話はこうだ。


大昔、シャーレは生身の人間をトパーズとして傍らに置いていた。シャーレは『運命を切り開く人間の心こそが何よりも強い』と思っていたからだ。


人間のトパーズもただならない能力を持つが、石像から作られたトパーズと違うのは、歳を取る事と傷つけば死んでしまう事だ。


シャーレは何年かトパーズとして過ごした人間に必ずある選択をさせた。それはシャーレが告げる『運命』を見つける旅にでるか、そのままトパーズを続けるかだ。


そして何人ものトパーズが、人として『運命』を見つけるための旅を選び、シャーレの下を離れていった。


ある者は自分の村を作り富を築いた。またある者は、ただの父親となって家族に囲まれながら幸せに残りの人生を終えた。


運命を全うした時、トパーズの恩恵は消え、最後はひとりの人として死んでいく。そしてそれこそが運命のトパーズの役割を終える事なのだ。


だが、ここに例外が発生してしまった。それが伝説として残ったアリアと村の出来事だったのだ。


***


—ロウゼの村へ向かうシャーレ一行—


「ロウゼ、心配するな。アコウに『アリアの剣』が付いている限り負けはしない。私はあの選択の時、アリアには『大切な人を守り抜く』それがお前の運命だと告げたのだ。だが、それは叶わなかった。アリアが守り抜いたと思っていた愛しのパッシュは、既に死んでいたのだからな」


「では、『運命』を成就できなかったトパーズはどうなるのですか?」


「それだよ、ロウゼ。アリアの魂は転生を繰り返しながらパッシュの魂を探し続けたのだ。だけど、魂は同じ時代に転生するとは限らない。アリアの魂は何千年もの間探し続けてやっと見つけたのだ」


「では、そのパッシュの魂を持つものは誰なのですか?」


「ふふ.. ラヴィエ王女だよ」


「しかしシャーレ様、アコウがどんなに強くてもゼロには遠く及びません」


「ロウゼ、「運命の加護者」の恩恵は今も生き続けているぞ。それにアコウは「時の加護者」の恩恵も持っている。2つの恩恵を持つ人間だ、アコウは。それが解放されてみろ」


ロウゼは思わず生唾を呑み込んだ。

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