第53話 天と地
私は「時の加護者」アカネ。私たちが王都カイトの民をギプス国へと避難させている頃、アリアの町では世界一の剣豪赤髪のゼロとアリアの剣により覚醒したアコウが苛烈な戦いを繰り広げていた。料理の腕もさらに上達しているかも..
—アリアの町—
「お、お前が持っている剣は、それは.. 『アリアの剣』か? 」
「 ..ああ、そうらしい。剣がそう言っている。そして俺の中のもうひとりの俺も」
アコウの髪は銀色に輝いている。
「 ..カビの生えたような伝説の剣を使うお前は何なのだ。この異常な圧迫.. 」
「さぁな、ただ剣は俺の手にあるのが自然のように感じる。そしてたぶんゼロ、お前では俺にかなわないだろう」
「なめるなよ。お前に恩恵の力があるように俺にも与えられた力があるのだ。俺はもともと誰よりも強い剣の使い手だ。その俺が力を上乗せできるのだ。お前には最初から最大値3段目でいかせてもらうぞ! 」
ゼロが白目を
「俺は天を轟かせ、お前は地を唸らせる。おもしろい。天と地の闘いだな」
ダンッと大きな音が鳴った時にはゼロの剛剣は、アコウを剣もろとも防御壁まではじき飛ばしていた。
「何が起きたかわからなかっただろう? 」
「 ..くっ 」
アリアの剣でふさいだがその凄まじい剣圧がアコウにダメージを負わせた。左肩の古傷から血が滴り始めた。
「アコウ、もうお前はお終いだ。その傷ではもはや剣を両手で握ることもできない。俺の一撃はアリアの剣をはじき飛ばすと同時に、お前の体を引き裂く。さぁ、これでまたゼロになるのだ」
ガンッとさっきとは桁違いな踏み込みの音がする。
だがゼロがアコウのもとに到達することはなかった。
ゼロの凄まじい速さ。それは拳銃から弾きだされる弾丸に例えられよう。弾丸の速さは人間が作り出した最も速いもののひとつだ。
だが、アリアの剣の軌跡は人智を超えていた。剣が静かにアコウの腕を導き、その先にあるゼロの剛剣を水に溶けていく砂糖のごとく破砕する。
1枚の絵をカッターで切ったようにゼロの胸はその背景ごとパカリと切られた。速さではない.. 空間が割れたのだ。
『 ..アッ...... 』
ゼロは何が起きたかわからず、そのグルっと動いた瞳は自分の胸元を見ていた。やがて、ドシャと生々しい音をたてゼロは地面に倒れた。
「アコウ! 」
ラヴィエがアコウに駆け寄り抱き着いた。
「へへへ。っ痛! そんなに強く抱きしめたら痛いですよ」
「ご、ごめんなさい」
「でも、悪くないですね」
アコウはラヴィエを抱きしめた。
森の奥でピシっとかすかな音がすると、アコウはラヴィエを突き放した。
「マジムさん、ラヴィエを町の中へ! そして外門を閉じるんだ! まだ終わっていない」
大声でアコウは叫んだ。
マジムはアコウに従いラヴィエを町へ連れ戻した。外門を閉じる。
「アコウ、お前.. 死ぬなよ」
マジムがそういうと肩と脇の傷から血を流すアコウは、ラヴィエを愛おしく見つめ、そして、微笑んだ。
「いやー! アコウ! 」
外門が閉じた大きな音がラヴィエの悲痛な叫びをかき消した。
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