第51話 ハエの一発

私は「時の加護者」アカネ。

自国の心配に王都フェルナンへ戻ったラヴィエ。しかし王宮内にアコウの姿とジイン王の姿がなかった。アコウが「アリアの町」の衛兵宿舎にいることを知るとラヴィエは護衛もつけずに町まで降りてきてしまう。そこに世界一の剣豪赤髪のゼロが迫ろうとしていることも知らずに。


—アリアの町—


マジムがラヴィエを護衛しながらアリアの町を出ようとした時、2人の男女が立ちふさがった。


「何者だ!? 」


マジムがラヴィエを自分の陰にうつす。


「失礼いたします。お待ちくださいラヴィエ様。手前どもはジイン王直属の護衛部隊です。ラヴィエ様、ジイン王はこの『アリアの町』におります。場所は言えませんが、ジイン王はこちらから災害に関する指示を出しております」


ラヴィエはすぐに気づいた。彼らこそがフェルナン国王直属護衛部隊ゾルネブルだ。


「そうでしたか。安心いたしました。それならば私は王宮に戻りましょう。私が王宮に居れば敵が現れようと逆を突くことが出来ます。そのようにお父様にお伝えください」


護衛部隊は闇に溶けるように消えて行った。


「ラヴィエ様、恐れ多いことですが、このマジム、王族の責務と覚悟というものを知りました。私はラヴィエ様の— 」


「なるほど.. 王はこっちにいるのか? 」


マジムの声をかき消すように男の声が響いた。その威圧感にマジムもラヴィエも一瞬で毛穴が逆立った。


「な、何者だ!? 」


「ダメです! マジム、逃げてください」


そういうとラヴィエはマジムを突き飛ばした。同時にラヴィエの肩に斬撃が走った。


「ラヴィエ王女。衛兵を庇うなんて相当な変わり者だな」


「貴様! よくもラヴィエ様を!! 」


「待って! 私は大丈夫です。マジム。闘ってはダメです。この男は強い」


普通ならば衛兵の誇りに傷をつけることをラヴィエは言わない。だが、今は違った。そんな場合ではない。この男はやばいのだ。


「そうだ。マジムとやら。俺はとっさに剣をひるがえしたから王女は死ななかった。お前は王女に命を助けられたのだ。王女が庇わなければ、お前もあいつらのようになっている」


壁の外側には護衛部隊の亡骸が横たわっていた。


「お、おのれ、かくなる上は、このマジムの命をこいつにぶつけてラヴィエ様を守って見せる」


「ははははは、こりゃ傑作だな。いま、その王女に命を救われた奴が言う言葉か? 」


「くっ、言うな! いざ、勝負」


直属の護衛部隊を殺った男だ。勝てないのはわかっていた。マジムはただ、ラヴィエが逃げる時をかせぐために、震える手足に『しっかりしろ! 』と命令していた。


「待てよ、マジムさん。あんたはうちの料理屋の顧客様だ。ここで死んでもらっちゃ、売り上げが下がっちまう。こいつは俺がやるよ」


ゼロのただならない気配はアコウをここまで呼び寄せたのだ。


「ちょこまかとハエが次から次へと鬱陶しい」


ゼロは大きな剣を唸らせマジムめがけ振り下ろした。


グァバンッ!!


踏み込みは誰にも見えない。アコウの拳がゼロを壁に吹き飛ばしていた。


「 ..グハッ! な、なんだ?何が起きた? 」


「俺が相手するってんだ、筋肉バカ。てめーは今、そのハエに一発もらって吹っ飛ばされたんだよ。目が覚めたか? 」


「ば、馬鹿な.. そうかお前も恩恵を預かっているのか」


そういうとゼロは大きく深呼吸をした。そして、目を見開いて立ち上がった。


「ほう、あんたなかなか屈強だね。俺の一発もらって立つなんて猛獣なみだ」


「小僧、俺の名を教えてやろう。俺はゼロ。俺の前に立つ者はゼロだからだ」


「そっかい。俺の名も教えてやるよ。アコウだ。料理屋のアコウだ。けど今からあんたをぶちのめすぜ」

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