第50話 元気になったね

私は「時の加護者」アカネ。

王都カイトに襲撃に来たグレイブ使いのロウゼ。裏で糸を引いていたのはミゼだった。だが、ミゼの襲撃の本命は王都フェルナンなのだ。今、世界一の剣豪赤髪のゼロが「アリアの町」に迫ろうとしていた。


—王都フェルナン—


「カルケン、なぜアコウは王宮内に居ないのですか? 執事長であるあなたなら理由を知っているはずでしょ? お父様はどこですか? 」


ラヴィエは、ギプスからウェイト国経由で王都フェルナンに戻っていた。すると特別療養室にいるはずのアコウの姿がなく、その理由をジイン王に尋ねようとするとジイン王もまたいないのだ。その事についての説明を執事長カルケンに迫っていた。


「はい、ラヴィエ様。アコウ様は自ら王宮内よりも『アリアの町』を望まれまして、そこの衛兵宿舎の一室で療養中でございます。陛下に置かれましては、『シュの山』の異変に何かの謀略かもしれませんので、王宮を離れております」


「なんですって! 一国の王であるお人が我が身可愛いさに、この大事に身を隠したというのですか? 」


「はぁ.. 」


「わかりました。これから『アリアの町』でアコウの様子を確認いたしましたら私がこの事態を取り仕切ります」


「ですが、大臣たちが.. 」


「関係ありません。私はこの国の王女です。嫌とは言わせません」


その姿は堂々と王女としての威厳に溢れていた。


***


—ラヴィエは闘技場で自分のために血を流したアコウの身を心配していた。ついに護衛もつけずに「アリアの町」まで降りてきてしまった。


「ラヴィエ様、よくぞご無事で。しかし護衛も無しにこんなところに来てはいけません」


町の入口で、そう進言するのは衛兵のマジムだった。


「マジム、アコウがここに自ら望んできたていうのは本当ですか? まさか、王宮のものが追い出したなどではありませんね? 」


「まさか、とんでもないです。アコウはどうも王宮内の給仕たちにあれこれと世話をされるのが嫌だったようなんです。今は、私たちの宿舎でゆっくり過ごしています」


「そう.. よかった」


ラヴィエの表情が柔らかくなった。


「あの、では私がご案内いたしますので、私の後ろを離れずに付いてきてください。不審な者がいたならば私が成敗いたしますゆえに」


「では、よろしくお願いしますね」


危険な旅路をひとりで渡り歩いたラヴィエには今更だったが、それでもマジムの忠義の心には、感じ入るものがあった。


部屋の中から何やら陽気な鼻歌が聞こえてきた。アコウは元気なようだ。


—ガチャン!!


扉を勢いよく開けるのはラヴィエの悪い癖だ。


「 ..キャー!! 」


その悲鳴にマジムが剣を抜きながら飛び込んできた。


「何事か!? 〇×△□ お、おのれアコウ! ラヴィエ様に何をした!? 」


目を白黒させたのは2人よりもアコウのほうだ。彼は、ただ部屋で下着を着替えるついでに体を拭いていただけなのだから..


「きさまの〇〇〇を切り取ってくれる! 」


忠義に厚いマジムは頭に血が上っている。一方、ラヴィエは顔を真っ赤にし、手で目を覆ってはいたが、しっかりすき間からその光景を焼き付けていた。


・・・・・・

・・


「いや、びっくりしました。ラヴィエ様、ノックくらいしてください」


ラヴィエとアコウはベッドの端と端に座って言葉を交わした。


「ごめんなさい。でも 元気 そうでよかった。 あ、元気って体が良くなってよかったってことで.. 」


『ゴホンッ! 』若い男の部屋に姫を置いておけるかと、マジムがドアの向こうで見張っている。


「ありがとうございます。俺のことなど気にかけてくれて。だいぶ傷も癒えて来たけど、まだ少しだけ肩と脇の調子が悪いようで.. さっきも少しだけここで軽く動かしていたんです」


「ああ、だから体を拭いていたのですね。背中もちゃんと拭けましたか? 何なら私が— 」


『 ん!! んん! ゴホン! 』マジムの咳払いが強くなる。


「だ、大丈夫です」


「あ、ああ、そうですよね。 あの時はありがとうございました。あなたが凶暴な猛獣に挑んでくれたおかげで、今、ここに私はあるのです」


「あ、でも、俺、吹っ飛ばされてから記憶が無くなって.. ただ脳裏に『パッシュ』という女性の面影が現れたのです。それが不思議とラヴィエ様と重なって.. 気が付いたらベッドの上でした、ははははっ!! 」


ラヴィエがアコウの体に抱き着いた。


そして小声でこう言った。


「今日はもう帰りますね。また来ます」 


『ラヴィエ様.. ウホンッ! ラヴィエ様! マジムはここに待っておりますが、そろそろ.. 』


「はい。マジム、わかりました」


そういうとラヴィエは小さく手を振って部屋を出て行った。


アコウは、ラヴィエの残り香とあのやわらかい身体の感触を思い出すと.. 


また元気になった。

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