第49話 永遠の亜空間
私は時の加護者アカネ。
突然、王都カイトに襲来したロウゼとの決着がついた。ロウゼのことは良く知らないけど、人質を取るなどは彼らしくないやり方だった。何かわけがありそうだ。そんな最中にシャーレがギプス国の救援部隊を引き連れて戻って来たのである。
—王都カイト 時の空間—
王都ギプスからの長い旅を終えた救援部隊の方々には『時の空間』でしっかり2時間ほど休眠をとってもらった。『時の空間』は本来、凄い圧縮時間なのだが、王都カイトの民衆が時間の混乱が起きないように懐中時計の力をほどほどに抑えている。彼らは2時間ほどの仮眠で6時間くらいの睡眠をとれたはずだ。
救援部隊には起きて早々すまなかったが、さっそく第一陣の避難民を運んでもらった。まずは子供、老人、女性そして病人だ。老人と病人は荷車に乗り、女性と子供はシュー族の背中に乗ることとなった。
「スタン陛下、このクリスティアナは生涯を賭してお礼申し上げます。どうか、私の愛する民のことをお願いいたします」
「クリスティアナよ、何を言う。そなたとは古くからの付き合いではないか。それに民を救いたい気持ちは私、いや、各国の王なら皆同じだ。それに今回はフェルナンのじゃじゃ馬娘の代理だ。礼ならラヴィエにするがいいぞ」
それでもクリスティアナは、下げた頭を上げようとしなかった。と同時にその瞳から涙が落ちるのを見た。
いよいよ、本当の避難の始まりだ。
***
——その2時間前、ロウゼとの決着がついた。
「今帰ったぞ。ん? なんだ、アカネ? 何があった。 このズタボロの男は何者だ? 」
「ああ、シャーレ、クローズ。これからこの男を始末するところなの。でも何か言いたいことがあるらしいわ。聞いた後に殺すけど」
「おい、おい.. アカネ、少し落ち着いたらどうだ?」
ロウゼが民を人質に闘いを挑んできたこと、シエラが亜空間に落とされてしまったことを話した。
「そっか。シエラが亜空間にねぇ.. それでアカネ様はブチ切れているのですね」
「クローズ、勘違いしないで、ブチ切れてはいないわ。ただこいつを殺そうと思っているだけ」
「だからぁ 待てって。シエラは亜空間に落とされたと言ったな。それなら助けられるぞ」
シャーレが耳をピコピコさせながら言った。
「本当に!? 」
「まぁ、見ていろ」
クローズの腕から腕輪がはずれると、腕輪がシャーレの前で大きくなった。腕輪が軸回転を始めると、そこに大きな空間の穴が現れた。
「アカネ、そこに顔突っ込んでシエラの名前を呼べ。お前が目印になってすぐにシエラが現れるから」
「シ、 シエラ! 」
その瞬間、白い粒子が集まるとそれがシエラの形に変わった。
「アカネ様!! 」
「シエラ!! 」
私はシエラを思いきり抱きしめた。
間違いなくシエラだ!
腕輪は本来、シャーレが空間を作り出すための道具なのだ。私の懐中時計のようなものらしい。だがシャーレが作る空間はどこにも正解がない永遠の亜空間だというのだ。
人の運命をもてあそぶような悪人を落とすためのゴミ箱のようなものだとシャーレは笑っていた。通常は空間に落ちると意識だけ残り肉体は粒子となってしまうらしいが、トパーズは加護者が死なない限り何度でも復活する。
今回、私が名前を呼ぶと、それを目印に粒子になったシエラは復活したということだ。
「さて、待たせたね。ロウゼ、言いたいことがあるならいいなさい。言い終わったら、今度は私があなたを『永遠の亜空間』に蹴りこんであげるから」
力なく瓦礫にもたれかかるロウゼの目に光るものを見た。
「俺は守れなかった.. 俺の大切な人たちを.. そして愛する娘ライラを.. ミゼだ。ミゼが俺の住む村の水源に、毒を流したのだ」
「そうか。だいたい読めたぞ。お前、解毒剤を餌に闘いに駆り出されたな。お前の動きに迷いがあったのはそれか」
シエラがそう言うとロウゼは頷いた。
「だが、俺は失敗した。今、俺の幼い娘は高熱にうなされながらも俺を待っているに違いない ..っ、ならば俺は、先に死んで、後に来る娘を待っていようと思う。どうか『永遠の亜空間』などではなく俺の胸に風穴を開けてくれ」
そう言いながら、ロウゼは目をつむった。
「私は、そういう人の運命をもてあそぶ人間が一番許せない」
不機嫌になったシャーレの耳が外向きに立っていた。
「アカネ、ロウゼの命は私に預けてくれないか? これからクローズとこの男を連れて、こいつの村にいってくる。そしてミゼをみつけたら『ゴミ箱空間』に捨ててくれるわ! 」
横でクローズが何度も頷いていた。
ロウゼを手当し、『時の空間』で回復させると、3人はラインの背中にのって旅立った。
だが、その時、ミゼはすでにロウゼの村を離れていた。魔獣を呼び寄せ、洪水に混乱する王国フェルナンを襲撃しようとしているのだ。
そして剣豪赤髪のゼロが、今まさに『アリアの町』にたどり着こうとしていた。
私たちはミゼの策略に翻弄され続けていたのだ。
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