第48話 闘う理由

私は「時の加護者」アカネ。獄鳥パルコの呪詛の為、王都カイトの民を「時の空間」へ一時避難させていた。ラヴィエ、シャーレ、クローズはフェルナン国に救援を頼みに出発した。そして、今ここに、「元の民」の暗殺者グレイブ使いのロウゼが闘いを挑んできた。しかも変な能力を身に着けて、前よりも強くなっていた。


—王都カイト—


「シエラ、脇腹! 」


「大丈夫。かすめただけです」


シエラの服にはうっすらと血がにじんでいた。


「ふ~ん」


ロウゼの訳知り顔がイラっとさせる。


「こんにゃろ!! 」


バカンッと空が割れんばかりの音ともに水蒸気が発生する。


(しまった! な、何も見えない)


— シ…パーンッ


「何が起きたの? 」


張り詰めた空気の中で何かを弾く音だけがする。


「アカネは未熟のようだな? しかも俺の話を聞いていなかったのか?そもそもそいつは本物の「時の加護者」なのか?『無限の守り』があるってことは本物なんだろうな.. どちらにせよ、加算できないアカネなど怖くはないな、シエラ」


「くっ.. ヨミか。あいつ、いろいろしゃべりやがって! 」


シエラは同じわき腹を斬られ今度は血が流れている。


「ほう。トパーズにもちゃんと血が通っているんだな。見せかけだけかと思ったぜ」


「何言ってるのよ! バカ!! シエラだって生きてるんだから当たり前じゃない!! 」


「いいえ、僕らトパーズは— 」


「ううん、生きてる。シエラだってクローズだって怒ったり笑ったり生きてるよ 」


「違うな。トパーズっていうのは奴隷.. いや道具だな。 アカネ、あんたのために作られた道具だよ。 そいつらトパーズは加護者が強くなるための道具なのさ。でも、今のあんたはまったくそれができていない。いわば足手まといなのさ」


「 くっ.. 」


「気にしないでください、アカネ様。まだまだ僕は大丈夫だから」


本当に大丈夫なのだろうか?何かいつもよりもダメージが深い。あいつが凄腕だから?


「本当かね? 次で決まっちまうかもしれないぜ。俺はトパーズの弱点を知っているんだぜ。シエラ、あんたはアカネの守りに関しては完璧だ。相手がどんなに速く強い力で攻撃しても、あんたは自動的にその上をいく速さと力で守る。まさに『無限の守り』だ。だが、こと、自分への攻撃になるとガクンとその速さと力が落ちてしまう。そして傷つくんだ。その役立たずのアカネのせいでな」


「うるさい。だまれ! アカネ様は今のままでいいんだ」


「アカネ様よ。あんたにひとつ教えてやるぜ。本当は『無限の守り』によって跳ね上がった速さと力をあんたは記憶しなければならないんだぜ。そしてシエラへの攻撃はアカネ様、あんたが守らなきゃならないんだ。それが、あんたは、まったくできていない。守られてばっかりだ」


「そ、そんな。私のせいでシエラが傷ついているっていうの? 」


「そのとおりだぜ。アカネ様。はははは」


ショックだ。シエラのダメージが深いのはみんな私が未熟なせいだったなんて。私はシエラに顔向けができない..


「それ以上アカネ様をひと言でも侮辱したらぶち殺すぞ」


「おおっ、シエラ様、凄い殺気だねぇ。でもな、俺は奥の手があるんだ。あんたらには楽して勝たせてもらうことにするよ。俺は勝たなければならないんでな」


ロウゼが紫色の種のようなものをシエラの足元に投げた。


「こんなもの! 」


シエラがその種を弾こうと蹴とばすと触れた部分から紫色に包まれていった。


「面白いほどにひっかかったな。足癖が悪いからバチがあたったんだ。そいつは触れたものを亜空間へ落とす種でな。こいつも俺の能力を上げた奴がくれたのさ。じゃあな、シエラ様」


「そんな! シエラ!! 」


「くっ.. 僕はアカネ様がいる限り死にはしません。アカネ様、自分が誰なのかを思い出してください。あなたは『時の加護者』、時を味方に——」


「 シエラーーーっ!! 」


「悪いな。これでアカネ様、あんたは丸裸だ」


「.. 」


「どうした? うつむいて。闘いの最中なのに泣いているのか? 」


「何でこんなことするの.. あなたはミゼなんかと違ってどこか優しい風が吹いていた」


「 ..それは錯覚だ。俺は悪者だからな。この手で多くの人を殺めあやてきた。そして今度はあんたの番だ」


— フ…ッ 


— パシン…


「おおっ。マジか。今のは今までで一番早かったんだ。それを虫を振り払うように最小限で防ぎやがった」


(私はこの目で見ていた。そして全て見えていた。それだけだと思っていたんだ。でもそうじゃなかった。感じるんだ)


— ヒュ  ヒュ  


— パ…  …  


わかる。物が動けばそれと一緒に動くものがある。それは空気。いや、違う。私が感じているのは、動く者の「時」だ。


「なんだ。音すらせずに払うってなんだ。そうか.. それ以上の速さで受け流してやがるのか。しかも脚で.. ならこれならどうだ! 上乗せ2段目だ! 」


— サ      


— パ… シ…  スッ


よけきったと思ったが、さすがロウゼの実践で積み上げた技術と感は凄いと思った。


「今度は防ぎきれなかったな。脇と首にうっすら跡が残ってるぞ。今度はこのグレイブの刃で必ず斬る! 」


そうか。私はまだどこかで頭で考えているんだ。きっと今の私ではロウゼの攻撃を全て防ぎきれない。ならこっちも攻撃に出るんだ。


「花振落脚(かしんらっきゃく)!! 」


「なめるな!! 」


風圧が塊となり周辺の熱波を吹き飛ばす。まるで石と石がぶつかりあうような音がする。そしてロウゼは脚技にグレイブを絡めた複雑な攻撃をくりだす。それをかわし—— いや、グレイブの返し刃に引っ掛けられ壁まで飛ばされた。


「痛.. はぁ..はぁ..  (強い.. このままでは負ける)」


「アカネよ、なかなか強くなってきたな。怒りからか? 」


「怒り? 違うわ。 ただ、私がれたら、この世界の『3主の力』が弱くなる。そしたら、きっとあなた達みたいな悪いやつがのさばるんだ。私はそれが許せない。だから私は負けるわけにはいかないんだ! 」


「そうかい。悪いが、俺も似たような理由があるもんでな。是が非でもあんたには死んでもらう」


「なめるなよ、この三下が! 」


意味は分からなかった.. ただお父さんとアマプラで見た時代劇で聞いた言葉だった。そういえば.. うちのネット、通信が悪かったな.. 動いたかと思うとすぐ静止して、じれったかった.. 動いて.. 静止.. また動いて.. 


可笑しいね。なんでそんなこと思い出すんだろ。


拳に時計が浮かび上がるとエメラルドのように輝き始めた。そして針が動き始める。その動きは不規則に。


もう一回「花振落脚」だ!!


ヒュ— カチ— ヒュ —ヒ—カチ—


それは時計の不規則な動きと連動した全くでたらめな超高速と超スローが入り混じった動きだ。だがその動きひとつひとつを人間の目では見極めることなど不可能。人間の脳の処理能力を超えている。


ドガガガッ!!


「グハッ.. な、なんだ。 何が起きてる。 脚が見えたり見えなかったり3本に増えたり.. 何をした!? 」


「 べつに..  」


なんだろうか.. さっきまではあんなに頭にきていたのに。今はこれが当たり前のように驚くほど冷静だ。


チ.. ヒ —ヒュ—  チ チヒュ—


私の右手かチカチカと音を鳴らしている。


ガッガッ!


と粉砕機が岩を砕くような音が4つ同時に重なり合った。


「ガハァ! くそ.. 見切れなとは!」


「クソ? クソみたいなことしたあなたが言うの.. あなたの両鎖骨、肩甲骨、右上腕は砕けた。終わりよ。あなたはもう闘えない。最後にあなたに質問するわ。死ぬ? 」


「俺は死ぬわけには.. いや.. もう殺してしまってもかまわない。もはや俺だけ生きていても仕方がない」


ロウゼの攻撃的な気がおさまった。彼の中で勝敗が付いてしまったのだろう。決して「時の加護者」には勝てないと。


「なに? 一応理由を聞いてあげる。 話しなさい」


「おお~い! アカネ! 戻ったぞ! 」


その時、シャーレたちが王国ギプスの救援部隊を引き連れて戻って来た。

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