第47話 危険な蜃気楼

私は「時の加護者」アカネ。

獄鳥パルコの呪詛の為、王都カイトは灼熱の地となる。私が開いた「時の空間」に王都の民は一時的に難を逃れる。ラヴィエは救助を要請するために王都フェルナンへ向かうが国境付近は洪水の為、道がふさがれていた。ラヴィエは急遽、南へ下り友好国であるギプス国へ向かうことになった。


—王都ギプス—


王都ギプスのスタン王はラヴィエの要請に即座に救援部隊を編成してくれた。馬車のほか、王都にある荷車、そしてラインとソックスが近くの森から連れてきた同族53頭にて救援に向かう準備が進められる。


「『シュの山』の異常の知らせは、この王都ギプスにも届いている。幸いギプスはもともと熱帯の国だからさほど影響はないが、フェルナン国は極寒の地、ラヴィエ殿も心配であろう。王都カイトの民の受け入れはこのスタンが責任をもって行う。ラヴィエ殿は東からウェイト国を経由しフェルナンへ戻られよ。お父上も心配しているだろう」


「でも.. 」


「ラヴィエ、人の好意を遠慮するということは時において失礼にあたるぞ。せっかくスタンがこう言っているのだから任せてみてはどうだ? 」


「わかりました、シャーレ様」


ラヴィエはラインにまたがり『よろしくお頼み申し上げます』と言うと風の速さでフェルナンへと向かった。


救援部隊は2日かけてやっとフェルナンとカイトの国境付近へ辿り着く。その被害たるやスタン王の想像を遥かにしのいでいた。


「これは酷い.. 」


フェルナン側は洪水、一方、カイト側は吹き降ろす熱風が森をからし、実りのカイト国という二つ名さえあった果実畑はひとつ残らず枯れ果てていた。


「スタンよ、あと数時間で王都カイトだ。急ぐぞ」


現状の有様はシャーレたちの旅立ち時とは似ても似つかぬ状態だった。つい、言葉に力が入った。


***


—王都カイト—


ラヴィエたちがフェルナン国へ出発して留守の間、王都カイトには招かれざる客が襲来した。


「なぜまた戻って来たんだ」


「まぁ、こっちにはこっちの都合って言うのがあって、どうしてもアカネ様の首を取らなければならなくなったのさ」


そいつは『時の空間』から私とシエラを引きずり出すために、町に物資を取りに行っていた民を人質にしていた。


「あなたはこんな手を使う人じゃないと思ってたわ。人質を取るなんてミゼがやりそうなことを.. 」


「へぇ、ちゃんとミゼがどんな野郎かわかっているんだな。だがな、あんたらはまだこのロウゼの事はよく知っちゃいないだろ」


そう、暗殺者ガゼの弟でグレイブ使いのロウゼだ。レギューラの丘にて一度対峙したが、『守るべき者がある』という言葉を残し、逃げて行ったはずだ。それが、なぜ今になって..


私もシエラも彼の考えが読めなかった。


「知ってるさ。ロウゼ、お前は強い。とても危険な奴だ」


「さすがはシエラ様だ。『闘神』と呼ばれているだけある。兄のガゼはアカネよりもあなたを崇拝していた。そしてその影響は俺にも及んだ」


そういうとロウゼはグレイブをおおきく振るい風を起こした。


「影響が及んだ程度だったら、修行をやり直した方がいいよ。僕には絶対に勝てないから」


そう強気な発言をするシエラは小声で私に言った。


『アカネ様、僕から絶対に離れてはだめだ』


その言葉が『ロウゼがいかに危険で強い男であるか』を示していた。


「そうかい。なら、この闘いをおれの修行の一つとするよ! 」


グレイブに反射した太陽の光が蜃気楼にゆがむと闘いの合図となった。


真っ先に私の首に向かってきたグレイブの刃頭をシエラが蹴り飛ばすとその反動を利用してロウゼの蹴りが飛んできた。


かろうじて防いだ腕がこんなにも痺れるなんて。何度もシエラと実戦練習をしてきたがここまで痺れたのは初めてだ。


これが練習と本当の実践の違いなんだ。


「シエラ、本当だ。このロウゼってかなり危険ね」


「ほほう。今のでアカネ様にもスイッチが入ったようだな。うれしいね。その言葉は俺への最大の賛辞だぜ」


ロウゼはグレイブを振ると見せかけ態勢を低くしてカポエイラの風脚で攻撃をしてきた。


私はさらに低くロウゼの軸足を狙い、逆にシエラは高く飛びロウゼの頭を狙った。


だがロウゼはそれに反応、自分の足蹴りの反動で体を宙に浮かせると、今度は手に握るグレイブを振り回す。


身を起こすと同時に私の胴を狙いに来たがかろうじてブーツでその刃を受け止めた。


「惜しいな。そのブーツが無ければ足ごと両断で来たの— 」


着地と同時に繰り出されたシエラの後ろ開脚蹴りがロウゼの背中に炸裂する。


「グハッ..  信じられねぇ.. あんな動き物理的に不可能だろうがよ」


「そういうお前もだよ。普通なら今ので背骨はグシャグシャのはずだ。お前、何をした? 」


「やっぱりすげぇな。今の一瞬で俺の切り札まで見抜くとはな.. 達人になるとだな、渾身のひと振りを極限にまで高めることができる。つまりあんたらでなくても、俺でも音速を超える速さでグレイブを振ることはできる。だが、こと闘いにおいてはそんなものは役に立つことは少ない。なぜなら渾身の一撃は隙をつくるからだ。だからみんな連続攻撃の中で最大公約数の速さを身に着けるんだ」


「『闘神』と呼ばれる僕に闘いの講義とはありがたいね」


「へへ.. そりゃ、どうも。さて、ここからが本題だ。俺はミゼにある場所に連れて行かれた。そしてその声はこう言ったのだ。俺が望めばその最大公約数を上乗せすることができるってな。こんな風に! 上乗せ1段! 」


ヒュ..


もはや音すら鳴らずにグレイブが飛んできた。全ての事象が終わるころ『スパーン』とシエラの足ではじいた音が聞こえた。


「おお~。あれを防ぐかよ」


「僕を見くびるなよ。鼻たれ小僧」

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