第46話 気丈な女たち
私は「時の加護者」アカネ。
獄鳥パルコの呪詛によって灼熱の熱風が吹き荒れるカイト国。クリスティアナ女王は私たちを犯人と責め立てていたが、事態はそれどころではなかった。想像以上の災厄に子供、老人など弱い人から倒れていく。王都の民を避難させるため女王は「時の加護者」に願った。「私の大切な民を救ってください」と。
—王都カイト 時の空間—
「はい、女性は一旦あちらの変な建物に入ってくださいね」
劇場型「時の社」へずらずらと女性が入っていく。
『男・立ち入り禁止!!』
入り口に紙を貼りつけていた。なぜかというと..
・・
・・・・・・
—15分ほど前—
振り上げた拳に懐中時計が浮かびあがると針が動き始める。
『この王都すべての人々が「時の空間」に入ることを許可する!!』
霞が晴れると王都内の全ての民が「時の空間」の中に移動していた。しかし..
『キャー』という女性の声や『おおーっ』という男性の声が入り乱れる。
「ち、ちょっとシエラちゃん、これってどういうことなの? 」
「あのですね、僕らは別として、この方法をやるとこの空間には生態しか入れないんですよ」
「だからみんな素っ裸なわけ!? 」
「そう。衣服や必要なものは、後でひとつひとつ運び込まないといけないんです」
さすがに女性を丸裸で放っておくことはできないので、いったん劇場型「時の社」へ入ってもらうことにした。そして劇場の扉のひとつを避難所体育館にしてみた。
体育館には用意良く仕切りの段ボールや毛布が置かれている。なぜそんなものが用意されているのかをシエラに聞いてみると、私の避難所イメージがそのまま反映しているのだそうだ。
そういえば、私は中学の時、学校行事として体育館の避難生活をしたことがあったのだ。それが今、こうして役だったのだ。
「アカネ様、まずは民を救っていただいたこと、素直に感謝いたします。ありがとうございます」
クリスティアナ女王は包み隠さず豊満な身体をさらけ出しながら歩み寄ると感謝の意を示してくれた。
「いいえ。私は私が今できることをしたまでです」
「 ..しかし私はまだあなた方を完全に信用しているわけではございません」
「わかっています。でも、その容疑は自分たちの手で晴らさせてもらえませんか? 」
「わかりました。失礼無礼の私でございます。その上、都合の良い願いと思われるかもしれませんが、どうか、もうしばらくお力をお貸しください。私には民を救う責務があるのです」
そう言うとクリスティアナ女王は深々と頭を下げた。
「大丈夫だよ。僕のアカネ様はどう仕様もないくらいお人好しで、やさしいからね」
「シエラ、それほめてるの? 」
「ふふふ。アカネ様、私はあなたを信じてみたくなりました。どうか容疑を晴らしてください」
その様子を見ていたラヴィエは可愛らしくにっかりと笑っていた。
女性、老人、子供が「時の社」の避難所に入ると、男たちはいよいよひと仕事を始める。
必要な物資や食料を町から集めると台車に積んで『時の空間』へ運ぶのだった。作業は交代しながら昼夜を問わず行われた。熱風吹き荒れる中、町にある食料、食材を出来るだけ多く確保しておかなくてはならないからだ。
確保してしまえばあとは安心だ。「時の空間」に持ち運ばれた食料は決して傷むことはない。その理由は私が食料や食材の許可しかしていない為だ。例えば大根を運び入れれば大根の中に紛れる微生物は死滅してしまうのだ。その結果、大根は腐らないというわけだ。「時の空間」は貯蔵庫としても有能なのだ。
さて、問題なのがこの先の避難活動だ。この空間は何でもありのような場所だが、開いた土地から移動することができない。つまり、灼熱の王都カイトから避難するには、実際に馬車に乗って安全な地へ移動する必要がある。
「ねぇ、シエラちゃん、この人たちをこのまま空間に入れたまま、私が他の場所で空間を開いて避難させることはできないの? 」
「アカネ様がこの空間を閉じると、空間はアカネ様という座標を失くしてしまいます。すると人々は無限の空間に落とされてしまいます」
「無限の空間? 」
「はい。死ぬこともなく永遠に彷徨う空間です」
「おそろしいわね.. 」
クリスティアナ女王とラヴィエは話し合うと、全ての民を一時的にフェルナン国へ避難させることにした。まずは、その手筈を整える為、一足先にラヴィエは国へ戻ることにした。
その護衛として、シャーレとクローズも同行することになった。
「私も行かなくちゃいけないか? やっとここで大人になろうと思っていたのに.. 」
「仕方がありませんよ、シャーレ様。駄々をこねちゃだめですよ」
「クローズ、最近、お前、私を子供扱いしているな.. あっ、今笑っただろう!(プンスカ! プンスカ! )」
こうしてラヴィエ、シャーレ、クローズはフェルナン国へ出発した。
「ラヴィエ..大丈夫かな?」
「アカネ様、シャーレ様とクローズが付いているんです。大船に乗った気でいても大丈夫ですよ」
だが、その大船に乗ってもどうしようもない現実が3人を待ち構えていたことを私もシエラも想像できていなかったのだ。
—ラインとソックスは3人を乗せると風のような速さでフェルナン国の国境までたどり着いた—
そこで3人は絶望的な光景を目の当たりにしたのだ。
王国フェルナンから吹く冷たい風と『シュの山』の灼熱の風がぶつかり合うと超巨大積乱雲を生み出していた。その化け物のような雲はあざ笑うように雹が混じる豪雨を吐き出し続けていた。穏やかだった川は豹変し、濁流の大河となり全てを飲み込もうと音をたてていた。
突然、空気を裂く轟音とともに稲妻がクローズの腕輪めがけて落ちてきた。
「ギャー!! 」「キャー! 」
ラヴィエとシャーレが叫ぶがクローズは何もないような顔をしている。
「おい、クローズ、少しはびっくりした顔をしろ! びっくりしたこっちが恥ずかしくなるだろ。ポーカーフェイスが常にいいものではないのだぞ! 」
怒るシャーレだったがクローズは現実的に次に行うべきことを聞くのだった。
「シャーレ様、これではフェルナンに渡る事は不可能です。いかがなさいますか? 」
「どうする? ラヴィエ? お前、この異常気象にフェルナン国が心配だろ? 父親が心配だろ? 」
「もちろんです。私は国が心配。お父様が心配です。ですが、私はクリスティアナと民の避難の手筈を整えると約束しました。フェルナン国に渡れないのであれば、南に下りましょう。そしてギプス国スタン王に頼むのです。行きましょう」
「ラヴィエ、お前も気丈な女だな」
「はい。私、それだけはシャーレ様にも負けませんよ」
雷鳴がけたたましくなる中、シャーレは大笑いをしていた。
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