第45話 灼熱に包まれる女王国

私は「時の加護者」アカネ。

カイト国の「ラワン部隊」に拉致されたラヴィエを救うべく、私たちもわざと境界線を踏んだ。計画通り「ラワン部隊」に捕らえられたわけだけど、計画通りラヴィエのもとまで運んでくれるかな。


一方、シュの国では敵の剣豪ゼロが獄鳥パルコの首を跳ね、血の呪いを発動させてしまう。とんでもない災厄の予感。


—そして、永遠の女王国カイト玉座の間ではクリスティアナ王女とラヴィエがバチバチにやり合っていたのだ—


「これはラヴィエ殿下。一国の王女がこのような領土を侵す行為をするとはどういう了見でしょう? 」


「別に私はカイトの国に用があったわけじゃありません。友達を追いかけて来ただけです。それを突然あなたたちが! 」


「ほほほほ。まるで町娘のようなことを言うのですね。さすが.. とでもいいましょうか」


クリスティアナの眼は一瞬、人を見下すような目になった。


「『さすが』なんですか? もしお父様を愚弄するような事でしたら許しませんよ」


「気の強さだけは父親ではなく母譲りなのですね。鼻っ柱が強いのは若さの特権ですが、この国はカイト、そしてこの国を治めるはこのクリスティアナという事を忘れることなきよう。ところでなぜあのような場所にいたのです」


「それは— 」


突然、玉座の間に報告が入った。


「申し訳ございません、女王陛下。ラワン部隊からの報告です。『シュの山』が異常な熱気を帯びているようです。識者の見解ですと、獄鳥パルコが殺され血が流れたのではないかと.. 」


「ば、ばかな!! それは確かな情報か? 」


「いえ、まだ可能性としてですが異常が起きていることは事実のようです」


「すぐに事実を確かめよ.. ラヴィエ殿下、いやラヴィエよ、もしやそなたが関係しているのではあるまいな? 」


「え? 知りません! 」


さらに衛兵からの報告がクリスティアナへ入る。


「女王陛下、『シュの山』の麓で怪しい4人を捕獲したと下層階・留置場からの報告があります」


「『シュの山』の麓!? そやつらを今すぐ連れてまいれ!! 」:


***


—その頃、私たちは下層階の薄暗く鉄と汗の悪臭交じり合う留置場から連れ出され、長い階段を登らされた挙句、乱暴に玉座の間に放り込まれた。—


「ほら、頭が高い!膝を着いて座れ!」 衛兵が肩を掴むと私たちを床へ押し込むように座らせた。


「イテテ、もうちょっと女の子には優しくしてよね」


「アカネ! 」


「ああ、ラヴィエ、ここにいたのね。留置所に居ないからどこへ行ったかと思ったよ」 無事なラヴィエの声を聞いて涙が出そうだった。


「ええい! だまりなさい! 私はこの国の女王クリスティアナぞ。貴様らに聞く。『シュの山』で何をしていた!? 」


「おいおい、クリスティアナよ。そんなに怒鳴らないで少し落ち着け」 シャーレが耳をピコピコさせながらなだめた。


「 ..ググ ..なんだ? この猫の耳をはやした子供は? 」


「クリスティアナ、私を覚えておらぬのか? 」 シャーレは残念そうに耳と眉を下げた。


「お前など知らぬ! ケモ耳め!! 」


「おまえな、その言い方は今の世では差別発言だぞ! 」


「ダメです、シャーレ様。今のお姿では説得力ありません」


「おのれ、クローズお前までそういうこと言うか.. 」 シャーレは尻尾を立てた!


「ねぇ、ラヴィエ、何があったの? 」 クリスティアナの質問に状況がわからない私はラヴィエに向き直して聞いた。


「アカネ、『シュの山』で何かやったの? 」


「ううん。私たちは新たな依り代を手に入れたシャーレを迎えに行っただけよ」


「シャーレ様? 」


「ほら、これがそう」


「これ呼ばわりするな! アホ! 」 シャーレは指さす私の手をはたいた。


「なに? この可愛い子がシャーレ様? 」 ほら、普通の女の子ならそういう反応になる。当たり前だ。しかしクリスティアナはちょっと違った。


「なに!? シャーレ様だと! 」


「そ、そうだぞ! クリスティアナ。こんな姿だが私がシャーレだ」


「シャーレ.. 運命のシャーレ.. するとそこにいるのはクローズか.. 」


「どうした? クリスティアナ.. ブツブツと」 クリスティアナがなおもブツブツ言いながら思案していた。これはクリスティアナが疑心暗鬼になっている時の癖だった。


「もしや獄鳥パルコを殺したのではないでしょうな? かつて『時の加護者』アカネが冷鳥フロワを討伐したように.. アカネ.. 」 クリスティアナの突き刺すような視線が私とシエラに向けられた。


「アカネ様、どうやらまずい展開になりそうですよ.. 」


「だね、シエラ.. 女王がワナワナしてるもんね」


「おのれー! 時のアカネか! 今度は獄鳥パルコを殺したのか!? 」


「まぁ、まぁ、落ち着いて、クリスティアナ。僕とアカネ様がそんなことするはずないでしょ」 シエラがなだめるが灼熱の鉄板に水滴だ。


「そうか、ジインの差し金だな。いいだろう! 兵を集めよ! 戦争の準備だ!! 」


「待ってください。女王陛下。父上はそのようなことはいたしません」


「ええい、だまれラヴィエよ! 」 もはや誰の言葉も聞く耳を持たないクリスティアナだが、ラヴィエは同じ民を思う者として根気強く説得した。


「だまりません。もしも獄鳥パルコの血が流れたならば、この国はすぐにでも灼熱の地になります。それは極寒フェルナンに住む私が良く知っています。クリスティアナ様、まず女王であるあなたがすべきことは戦争ではありません。民を避難させるべきではないですか? 」


その時、玉座の間へ衛兵からの報告が次々と入った。


「陛下、『シュの山』の麓の森では火災、周辺の川や湖には大量の魚の死骸が浮いていると.. 」


「クリスティアナ様、老人、子供が熱波で倒れ民衆が王宮へ救いを求めております」


確かにさっきから凄く気温が上昇しているのがわかる。見ればクリスティアナ女王は額から汗が滴り、ラヴィエは濡れた服が張り付きわずかに息苦しそうだった。しかしなぜか私の体にはさほど負担を感じないのは..これも加護者としての特別な力なのだろうか。


「すぐに特別医療施設を噴水広場に作るのだ。倒れたものをそこに集め、そこで施術せよ」


さすがに一国の長、即座に的確な指令をだしている。


「クリスティアナ様、このラヴィエ、自分の命をかけます。父上は陰謀などしておりません。その上でこの国の民を救うお手伝いをどうかフェルナン国王女としてさせていただきたい。まずはこの王都カイトの民衆の避難をフェルナン国へ」


「うぬぬ.. わかった..」


だが、王宮より町へ降りると、熱波の影響はもっと深刻だった。医療施設に収まらない患者が熱で温まった地面に直寝している状態だ。医療班も大量の患者にどうすることもできずに生温かい噴水の水を掛けることしか手立てがない。


「このような状態では、もはやフェルナン国へ避難すら叶わぬ.. 」


そう肩を落としたクリスティアナに近くで寝ていた老婆が声をかけた。


「女王様、私たち老人はどの道先が短い。どうか私たちはこの町に置いて行ってください。その代わりに子供や若い人々を連れて.. どうぞ」


「誰かを置いていくことなどできない.. 全て私の大切な民だ」


膝の上に握り締めたクリスティアナの手を老婆の手が優しく包み込む。クリスティアナの涙が地面に落ちると一瞬で蒸発した


「クリスティアナ女王様、私は確かに『時の加護者』のアカネだし、冷鳥フロアの過ちから疑われるのも仕方がない。でもね、私はあなたの大切な民を救う方法を知っている。もし救いたいなら、今だけでもいいからこの時のアカネを信じて! 」


私の眼差しをしっかりと受け取ったクリスティアナは尊敬すべき国の主であることを証明した。女王は両膝を地に揃えると、しっかりと私に向かい合い静かな口調で言ったのだ。


「どうか、私の大切な民を救ってください」


「ねぇ!! シエラ!! 時の空間にこの町の全員を移動させるけどできるよね? 」


「アカネ様、移動させる必要などありません。もっとシンプルです。アカネ様が『時の空間』を開き心で願えばいいんです」


「そっか」


振り上げた拳に懐中時計が浮かびあがると針が動き始める。そして私はこう叫んだ!


『この王都すべての人々が「時の空間」に入ることを許可する!! 』

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