第44話 作戦と策略

私は「時の加護者」アカネ。

「シュの山」で「運命の加護者」シャーレを無事保護して麓まで降りて来た。ところが王都フェルナンからアカネを追いかけて来たラヴィエの馬がカイト国の境界線を踏んでしまった。一瞬のうちにカイト国のラワンに連れ去られてしまったラヴィエ。さて、どうやってラヴィエを連れ戻そうか..


—シュの山 カイト国の国境—


「さて、おまえらいい案はないか? あの疑心が服を着ているようなクリスティアナが治める国に入るのは容易じゃないぞ。それこそ親交深き者の紹介状でもなければ、まともに入国するなどできない」


「じゃ、フェルナンのジイン王に書いてもらったら? 」


「アホッ! おまえ、話聞いていなかったのか? ジイン王はクリスティアナにとって信用の対極にいるような存在だ。おい、シエラ、アカネはだいぶアホになったな? 」


「はぁ.. まぁ.. 」


「アホですって!? シエラもちゃんと否定しなさい! 」


「仕方がない。東の太陽の国レオの女王レイフュに頼むか? あいつはクリスティアナをなだめるのが上手いからな」


「しかしシャーレ様、レオの国までには幾分か時間がかかりすぎかと.. 」


腕を組み唸りながら思案するシャーレ。みんなも黙りこくってしまった。


「ラヴィエ.. 今頃、ひとりで心細いだろうに.. 一緒にいてあげられたら.. 」


「なるほど! アカネ様! さすが! 僕たちが一緒に行けばいいんですね! 」


突然、私の言葉にシエラが手を打った。


「おおっ、アカネ、冴えてるな! 前言撤回だ。なるほど、私らも捕まってしまえばいいのだな! 」


何がどうなったかわからないが、作戦が勝手に出来上がってしまった。私たちは、わざと王国カイトの領土に踏み込みラワンに捕縛された。後はラワンが私たちをラヴィエと同じ牢屋に運んでくれるという算段だった。予定では..



++++


だが、その時、既にあのミゼの策略も始まろうとしていたことなど、私たちは知る由もなかった。


『シュの山』の頂にひとり登る剣豪ゼロだが、その時、既にあのミゼの策略も始まろうとしていたことなど、私たちは知る由もなかった。


[ グガァー!! ]


獄鳥パルコの雄たけびに熱風が吹き荒れる。


「なるほど。間近で見るのは俺も初めてだ。お前には気の毒だが、どうしてもお前の血が必要なのだ。悪いな」


人など簡単に握りつぶすこともできる趾足、炎のようなエンジ色に真っ赤な冠を付けた獄鳥パルコは伝説の鳥と呼ばれるだけの覇気を醸し出す。彼女は自分の城に足を踏み入れる知れ者に怒り狂っていた。


羽ばたきと同時に剣先のように鋭利な羽をゼロに放下するパルコ。そしてムチのような3本の尾をたたきつける。


だがどれもゼロの剣は軽々といなす。


「お前は勝てないとわかっていながらも逃げないのだな。その心意気良し! 」


パルコは大きく天空に舞い上がるとクチバシ鋭くゼロにめがけ落下する。頂がその衝撃で大きく砕け、巨岩が崩れ落ちる。だが、その岩に混じってパルコの首も落ちて行った。


「悪いな.. 」


獄鳥パルコの体から流れる血液が地面にしみこむと、地獄の火炎が舞い上がった。今までとは比較にならない灼熱の風が『シュの山』からフェルナン、ウェイト、カイトの国々へ吹き荒れる。


一方、ミゼはある村へ向かっていた。自然と調和を大切にする国シリダのプレシャ村。そこはロウゼが身を置く村だった。

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