第3章 天秤の砂 sable d'équilibre

第43話 境界線

私は「時の加護者」アカネ。

私たちは新しい依り代に転移した「運命の加護者」シャーレを迎えに行った。そこにいたのは耳と尻尾を持つシャーレだった。オレブランの子供の姿のシャーレは、「時の空間」を出してくれと言うのだが..


—シュの山—


「こらっ! 出来ないとはどういうことだ」


「だから出来ないではなくて、もうちょっと待って.. 」


「ヤダ ヤダ ヤダ ヤダ ヤダ」


「まるで子供ね、まぁ、子供だけど、ぷぷっ 」


「シュの山」から駆け下り、ふもとの森に入るとシャーレが『「時の空間」を出せ』と要求してきた。そこで1日くらい過ごせば17歳くらいになれるというのだ。でも、『ここは森の真ん中だから王国フェルナンに戻ってから』と言うと、地面に寝そべって両手足をバタバタさせて駄々をこねる始末。


「シャーレ様、そのような恥ずかしいマネはどうかと思いますが.. 」


さすがに見かねたクローズが助言をする。


「にゃんだとー! クローズお前もそういうこというにょか! 」


鼻水まで垂らして泣くシャーレは言葉まで可愛い!


「ミゼは逃げました。だが、すぐに自分の計画が失敗したことに気が付くでしょう。今は早く王都フェルナンに戻って体制を整えたほうがいいです」


クローズからは正論を言いながらも主人の醜態を晒さないようにする努力を感じた。


「クローズよ、まったく.. お前らは勘違いしているな」


シャーレは海外ドラマ風にやれやれと肩をすくめる。


「なに? シャーレちゃん、どういうこと? 」


「こらっ! アカネ、だれが『ちゃん』だ。 あいつらの真の目的は私の命だ。確かにギプス国王スタンを毒殺し、フェルナンとギプスを敵対させるのも計画にはあっただろうが、奴らが本当に恐れているのは私たち『3主の力』が本来の力を取り戻すことだ」


シャーレは話しながら無意識に耳の毛繕いをしはじめた。


「なるほど。じゃ、王国フェルナンはもう安全てこと? 」


「安全とは違うが、あやつらは策略家だ。一度、警戒された場所には現れないだろう。計画が余計に回りくどくなるだろうからな」


「あーっ! 見つけた! アカネー! シエラー! 」


大きな声を出して馬に乗り走ってきたのはラヴィエだった。


「アホ!! ダメだ! その場所に入るな! 」


シャーレが慌てて声をあげたが、『気を付けよう 車は急に止まれない 』は馬にも当てはまったようだ。馬の上にいたラヴィエが一瞬のうちに消え去った。


「なんであの女はここに来たのだ? まったく.. 女王国カイトの『ラワン』などに捕まりおって! 面倒な!! アホー!! 」


妖艶だったシャーレはすっかりキャラが変ってしまったようだ。後にクローズにこっそり聞いた話だと依り代の資質や性格がかなり影響するという事だ。


「シエラ、『ラワン』て何? 」


「『ラワン』というのは女王国カイトの女王クリスティアナ直属の偵察、警備を行う部隊の者たちのことです。奴らはかなり訓練されている部隊で侮れません」


「なるほど! じゃ、すぐにでも助けに行かなきゃ! 」


「またここにも単純アホがいるな。そんなものはフェルナンのジインにでもやらせておけばいい。だいたいあの疑り深いクリスティアナが私らを国に入れるわけない。父親なんだから責任とらせればいいんだ。一応、王になったのだから」


「シャーレ様、それはダメです。ほら、ジインは昔にクリスティアナと.. 」


そのクローズの助言を聞くとシャーレは頭をワシャワシャとしはじめる。


「何があったの? 」


「はい。ジインが若い頃、ある女性との恋沙汰を『運命の祠』まで相談に来たことがありました。『ここは恋占いの館』ではないと追い払おうとしたのですが、シャーレ様はひと言だけ『変わりはいる。お前が思うようにしろ』と糸口だけを与えられたのです」


「あのアホ、違う解釈しおったのだ。私は『国など弟に任せて、自分の想う女とどこかの国で暮らせばいい』と思って伝えたのに、頭の固いジインは『変わりはいる』を『女に相応しい男は他にいる』と勘違いしおって、女と別れる選択をしたのだ」


「もしかして、その女って? 」


「クリスティアナじゃ!! あのアホ、別れ方も知らんで、こじらせおった。そのおかげで、あの素直なクリスティアナは『疑心の女王』と二つ名がつくほどに変貌してしまった」


これは一筋縄ではいきそうもないなぁ..


***


王国フェルナンでは警備が固められ、組織内の連絡や情報共有が徹底されていた。


だが、ヨミに追い詰められたミゼの行動は私たちの上をいっていた。


私たちが『シュの山』へ出発した時から既にミゼの手下が監視していたのだ。


そして、逐一、ミゼに情報を握られていた。


「へへへへ、そうか、奴ら『シュの山』に登ったのか。何の為に登ったのかはよくわからないが、あのラヴィエが女王国カイトに連れ去られたとなると.. いい事思いついたぜ。剣豪ゼロさんよ。あんたの腕の見せ所だ」

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