第35話 嫌疑と苦悩

私は「時の加護者」アカネ。

サリカの謀略にはまってしまったラヴィエ、アコウ、料理長タニシは逆賊者として捕まってしまった。そしてギプス国スタン王や料理を食した給仕たちも四死病に感染してしまった。四死病を直す方法はただ4日間、病気に耐えるのみ。4日たてば四死病は死滅するのだ。しかし4日間はあまりにも長すぎる。とここで私はひらめいちゃったんだよね。私には「時の空間」があるってことを。この時を司る「時の加護者」をなめないでよね。


—フェルナン王宮 時の空間—


『時の空間』、通常卵から成虫まで10日かかる永久蝶(とこしえちょう)がわずか4分で羽ばたける空間。『四死病(ししびょう)の細菌は許可しない』と言葉にだすと、細菌は急成長し、2分かからずに死滅した。当然、体への負担はほとんどないものと思われる。


「カルケンさん、王様や給仕さんたちの事、あとはお願いしていいですか? 」


「はい、アカネ様。あとはお任せください」


カルケンさんの指示に従い王宮内の給仕たちがスタン王を特別休養部屋、他の患者を医務室へ運び誠心誠意の看護を行った。


・・・・・・

・・


「よくやってくれた。フェルナン国王として、このジイン、礼を言う。これで何とか戦争は回避できそうだ。ところで、そなたたちのその力は何だ? 」


しごく当たり前の質問だ。


「あの.. 気にしないでって言ってもダメですよね? 」


「プッ.. ははは。そのような力を見せておいて『気にしないで』とはな.. 」


「へへへ ..ダメですよね」


「わかった。気にしない事にしよう。そなたたちにはひとつ恩ができたな」


まさか通じるとは思わなかった。この世界では「3主の力」は伝説。そのひとつ「時の加護者」がここに現れたとなると大騒ぎになるかもしれない。今はできるだけばれないようにしたかったのだ。


「あの.. じゃ、その恩でラヴィエ達の— 」


「それはならん! あ奴らは王殺しの容疑者だ。釈放するわけにはいかないのだ.. 」


即答だった。


「でも! 」


その時シエラが私の肩を掴んで言葉を制止した。


(でも、自分の娘じゃない!)


私はそう言いたかったのだ。


しかし、私たちが部屋を出ると何かを投げつけた大きな音と悲しみの混じった叫び声が王宮内に響き渡った。


「アカネ様、シエラ様、部屋をご案内いたします。しばらくお休みになってください」


「ああ、カルケンさん、あの、私たち自分の服がラヴィエの部屋にあるんです」


「わかりました。それを運んでくるよう命じましょう」


執事長のカルケンさんは今回の件で私たちを信用してくれたみたいだ。案内された部屋で、ラヴィエ、アコウ、料理長タニシの嫌疑を晴らす方法を考えたが何も浮かばなかった。なにせ、サリカの謀略にドツボにはまってしまっている状態だ。


「もうあのサリカって奴を捕まえて、とっちめて吐かせるしかないんじゃないの? 」


「ダメですよ。そんなことしても僕たちに自白を強要されたと言われたらそれまでです。あいつには今のところ何も嫌疑がかかっていないのですから」


—コン コン


「あのカルケンです。入ってもよろしいでしょうか? 」


カルケンさんはここ数日のサリカの怪しい行動を話してくれた。夜、部屋から抜け出したサリカを付けていくと、フードを深くかぶった男と話しているのを目撃したそうだ。そしてそのフードの男はカルケンさんが瞬きする間に消えてしまったというのだ。


「フードの男か.. そいつもサリカの仲間かな? 」


「そうですね ..やはり何か組織的な犯行のようですね」


さらに、ギプス国との衝突を避けるために明日の午後、3人の処刑執行が決まったというのだ。その報告を私たちに伝えると、その場にカルケンさんは泣き崩れた。カルケンさんにとってラヴィエは孫のように可愛い存在なのだろう。


『とりあえず、明日、処刑の場で大暴れして助けよう。犯人はその後に見つければいい』


結局、シエラとの話し合いの結論は力任せの出たとこ勝負となった。カルケンさんに『必ず助ける』と約束した。すると、カルケンさんは無理に作った笑顔を見せながら部屋を出ていった。


入れ違いで、ばあやさんが私たちの服を持って来てくれた。ベッドの上に服を置きながら少しシエラの顔をうかがっていた。


『あとで、お菓子と紅茶をお持ちいたします』


と言うと部屋から出ていった。何となく糸を引くような、ばあやさんの視線が気になった。

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