第34話 窓ガラスに浮かぶ蝶
私は「時の加護者」アカネ。
フェルナン国とギプス国の親善を深めるはずの料理イベントが大変なことになっている。
ラヴィエが逆賊者サリカを取り押さえたまでは良かった。しかし、サリカが毒入り料理を作った事実はなかった。逆に、ラヴィエが料理長タニシやアコウに命じて作らせた料理を食べたギプス国王が倒れてしまったのだ。
これからどうなるのだろう?
—フェルナン王宮 迎賓の広間—
ギプス国スタン王だけじゃない、料理を食べた給仕たちもみんな苦しみながら倒れた。
「こ、これはどういうことだ! 」
事の成り行きにジイン王が叫ぶ。
一番狼狽えたのはラヴィエだった。
「こ、これは!? サリカ! 何をしたの!? 」
「おらっ、離せよ! 逆賊はあのラヴィエじゃねぇのか? それにあの料理人もグルだろ!? 」
衛兵はその言葉に顔を見合わせるとサリカから手を離し、ジイン王の顔を見る。
認めたくないように顔を何度か横に振りながらジイン王は言ったのだ。
「逆賊ラヴィエとその料理人どもを捕らえよ! 」
「お、お父様、これは罠です。私たちは陥れられたのです! お父様! 」
ラヴィエ、アコウ、料理長タニシが衛兵に取り押さえられた。
『アカネ、シエラ! 頼むぞ! 』
とアコウが叫ぶと3人は連れて行かれた。
抜け目ないサリカは、その騒ぎを見逃さなかった。いつの間にか姿を消していた。
倒れるスタン王に執事長カルケンは駆け寄って言った。
「これは『四死病(ししびょう)』です。この顔に出ている斑がその証拠です」
顔には青くトナカイの角のような班が浮かび上がっている。
「カルケンさん、これはどういう病気なの? 」
「これは細菌性の病気です。最初は細菌が麻酔をかけ患者の意識を奪います。この病気は高熱を出すだけの単純なものですが、細菌が絶えず麻酔を出すために患者は眠り続けるのです。何も食べることも飲むこともできない患者はただ体力を奪われてしまうのです」
「薬とかはないの?」
「体に薬が投与された瞬間、最近は強力な毒素を噴出し脳を破壊してしまいます」
「じゃ、もう治らないで死んじゃうの? 」
「ひとつだけ可能性があるとすれば4日間この高熱に耐え抜くだけです。この細菌は人の身体に入ると4日で死滅するのです。しかし、とても4日間も耐えられる人はいないでしょう」
カルケンさんは頭を横に振る。
「そんな。もし王様が死んじゃったらどうなるの? 」
「 ..」
黙るカルケンさんの代わりにジイン王が答えた。
「戦争だ。このフェルナンにギプスの軍が攻めて来るであろう。フェルナンも国を守るために応戦せねばならぬ。おのれ.. 」
そんな.. ラヴィエの夢が、世界を平和にしようとする想いが、こんな事でついえてしまうなんて..
考えろ! 考えるんだ!
窓に映る自分の姿に言い聞かせるとドレスの模様が目に入った。
肩のレースには蝶の模様がほどこしてあった。
「蝶.. そうだ! 蝶だ! シエラ! 蝶だよ! 」
「どうしました、アカネ様? 」
「わかったんだ。ねぇ、シエラ、『時の空間』てここでも開くことが出来るの? 」
「もちろんです。アカネ様が開きたい場所でいつでも。 ..そっか! 僕にもわかりました! 」
私とシエラに笑顔がこぼれた。
「王様、私、この人たちを助けることが出来ます。手伝ってもらえますか? 」
「そなたたちは何者なのだ?」
訝しげなジイン王に執事長カルケンさんが助言をしてくれた。
「恐れながら、ジイン様、事はすでに最悪な状況です。この2人に任せてみてはいかがでしょうか?」
私はカルケンさんに頼んで給仕たちをここに総動員してもらった。
「みなさん、今から私がすることに驚かないでくださいね」
私は拳を高く上げた。
するとエメラルド色に輝く拳から時計の針が浮かび上がり回転し始めた。
霞が張れるようにそこに淡い水色の空間が現れると、私はこう告げた。
「『時の加護者』として命ずる。この空間に、この場の人たちは許可する。だけど、四死病は許可しない!」
『時の空間』は私の声に応えるように空気を震わした。
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