第33話 大捕り物

私は「時の加護者」アカネ。

ラヴィエ王女の部屋にて、私とシエラはこの料理イベントが持つ意味やラヴィエが思い描く未来の世界、そしてラヴィエの固い決意を聞いた。


すると、王宮広場から料理完成の鐘の音が響いた。


—王宮 迎賓の広間—


「長いお話し合いにお疲れになられましたでしょう。今宵はお互いの料理人による料理にどうぞ身も心も浸ってお楽しみください」


ギプス国のスタン王へ親しみを込めて語るのはフェルナン国のジイン王だった。


「ははは。私も最近はこの催しが待ち遠しくなりましてな。ギプスの国から首を長くして待っている次第だ。企画されたラヴィエ殿下に感謝申し上げたい」


紳士的なギプス国スタン王は笑顔でラヴィエに会釈した。


「ありがとうございます。スタン陛下」


「ははは。それは私も同じです。南のギプスの料理が食べられるなど滅多にないこと。まぁ対決など大げさな事を言っておりますが、お互いの料理を楽しみましょうぞ。ところでラヴィエよ。その者たちは? 」


ギプス国スタン王は威厳をまといつつも、私とシエラを優しく見まわした。


「はい、お父様。こちらはビーシリーの町から招待いたしました特別審査員です。こちらの別テーブルでこの場に居させていただきたく存じます。ちなみに二人は私の友人です」


この『友人』という言葉がやけに嬉しかった。


この大会はフェルナン国、ギプス国からそれぞれ給仕7名を選び、美味しかったと思う国の料理名を木札に書き投票する仕組みになっている。


なお、なぜ大臣などを入れないのかというと、かつて大臣を含めた要人達で挙手により判定をしたところ、こぞって自国の料理に手を上げ、しまいには、お互いの料理のけなし合いに発展してしまったらしい。


そこで誰が書いたかわからない木札によって給仕が判定するようにしたのだ。


給仕の判定なら、負けたとしても『舌の肥えていない給仕の判定』と特に誇りが傷つくこともないのだそうだ。


この考え方にはどうも納得できなかったけど、お互いの面目を保つためには仕方ないのだろう。


料理は一品、一品運ばれてくる。


「なんかチマチマしてますね。なぜどっかりと運んでこないのでしょう? 」


「町の料理屋とは違うのよ」


無論、私とシエラはテーブルマナー不問とさせてもらった。私に関してはカバンの中の弁当入れから取り出したmy箸を使わせてもらった。


まず、テーブルに置かれた料理はフェルナン国の料理だ。


フェルナン国の料理はアリア名物のアリア鍋を取り分けたお鉢、桃色に輝く寒天に甘酸っぱい杏子のジャムソースがかけられたデザートなどが出された。


ギプス国の料理はタコライスの上に焼き鳥のタレが染み込んだホタテガイ、そしてまるでラフテーそっくりな煮魚。南国さながらの甘さ辛さがはっきりとした料理だった。


日本で言わせてもらえば「北海道料理VS沖縄料理」というのが一番ぴったりくる。


全ての料理が出し尽くされ、ジイン王もスタン王も、それに給仕たちもみんな幸せそうな顔をしている。私もお腹いっぱい食べて満足だけど、私はフェルナンの料理が好きだ。シエラは一品ずつだされるコース方式にフラストレーションがたまっていた。


「では、ここでそれぞれの料理人をご紹介いたします」


執事長カルケンさんが料理人を連れて来た。


ギプスの料理長が挨拶をするとフェルナンのジイン王は礼と称賛の言葉を送った。


そしてフェルナンの料理長サリカがギプスのスタン王に挨拶をした。だが、その言葉はたどたどしく、目は落ち着きがなかった。


「どうしたのです? サリカ? 具合でも悪いのですか? 」


ラヴィエがサリカに声をかける。


「は、はい。誠に失礼ながら、少し具合が悪いようで.. 休憩室で休んでもよろしいでしょうか? 」


「ほぉ.. それは難儀ですね。思ったことと違って具合が悪くなったのじゃありませんか? 」


「で、では、失礼し-」


そそくさと立ち去ろうとしたサリカを遮るようにラヴィエの声が響いた。


「お待ちなさいっ! 本当ならお前は騒ぎに乗じて逃げる算段だったのでしょう? 」


「な、何がですか? 」


「おい、ラヴィエ、どうしたというのだ? 何を騒いでいるのだ? 」


ジイン王とスタン王は突然の騒ぎに驚いていた。


「お父様、少しだけお時間をください。いま、逆賊者をとらえますので」


ラヴィエの合図で見張りの兵がサリカを取り押さえる。


「このサリカは王都の料理人を次々と事故に見せかけて襲い、この料理大会の料理長になりました。そして今日、この場で毒入り料理を作ったのです」


「な、なに! 」


ギプスのスタン王が叫んだ。


「落ち着いてください、今、お召し上がりになられたのは、この者が作った料理ではございません」


料理長タニシとアコウが入ってきた。


「私がサリカの料理とすり替えました。先ほどの料理はこのタニシとアコウが作った料理です」


スタン王は胸をなでおろしたが、ジイン王は怒り露わとなっていた。


「な、なんだと.. 濡れ衣だ! 証拠はどこにある! 」


サリカが声を上げて白を切ろうとする。その瞬間シエラは何か不穏な気配を感じ取った。全身の緊張が高まった。


「アカネ様、気を付けてください。何か変だ! 」


しかし、ラヴィエの捕り物はまだ続いている。


「なら、ここにお前が作った料理を持ってきましょう。カルケン、持ってきてください」


テーブルの上に7品の料理が置かれた。


「これはお前が作った料理です。濡れ衣だと言うのならばこれを食べて見せなさい! 」


ラヴィエが勝利を確信しながら料理を指さす。だが..


「ははははは。いいぜ! 食べてやるともさ!」


サリカは料理を無造作に手でつかみ口の中に入れていく。まるでそれが毒入り料理では無いことを知っているかのようだった。そして水を手に取ると、口に流し込み全てのみ込んだ。


「どうですかね~ 王女様。俺はピンピンしてるぜ」


勝利を確信していたラヴィエは今起きている事態が呑み込めずに動揺していた。


その時、椅子が倒れる大きな音が響くと、ギプス国スタン王が床に崩れ落ちた。広間に給仕たちの悲鳴が響いた。

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